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07

 舞台の幕は静かに上がっていく。いよいよ文化祭当日。準備は死ぬほどがんばった。きっと成功すると自分の心に言い聞かせ、僕ら五人の舞台の幕が上がった。

 事前に宣伝もたくさんした。村中にポスターをたくさん貼った。今日は村の中だけで行えばいい。石拾いのイベントは明日だ……。


「たくさん人が来てますわね……」

 千紗は教室の窓から外を見てそういった。

「確かに、予想以上にあつまったものだわ」

 ヒカも窓の外を見ている。来ている人は所詮村の人だ。強いて言うなら全員知り合いである。

「じゃあそろそろ行くか」

「そうですね」「いくわ」


 草は運動場に作った特設ステージに登った。咳払いをして言葉を発する。

「ようこそ。白池高校文化祭へ」

 観衆からは大声があがる。

「村の皆さん、こんなに朝早くからお集まりいただきありとうございます。では、もうはじめましょう。飛び入り参加OKののど自慢大会です!」

 いい感じに騒いでいる。

「草はやっぱり司会が似合ってるな……」

「村のおばあさん達からモテモテだからだわ。全く本当に……」

 ヒカはそう言いつつも、自分も歌いたそうに念入りに声出しをしている。

「千紗は何か歌わないのか?」

 僕はヒカにそう声をかけた。

「はい……。あんまり自信がなくって……」

「そうか」

 のど自慢大会が始まった。表では、『あ~♪ 越えぇえる~♪』等のおばあさん達の歌声が響いている。

「村のお年寄りのこんな活気のある姿初めて見たかもしれませんね」

「千紗は、まだこの村に来てから日が浅いからな……」

 千紗と喋っているところに草が戻ってきた。

「よぉ、草すごかったな」

「いやぁ、全く村のもんは……」

「司会とか大丈夫なのか?」

 僕は草に聞いてみる。のど自慢大会に司会、進行が居ないと問題が出ると思ったからだ。

「いや、問題ないんだ」

「どうしてだ?」

「一番最初に歌っ村長さんが、村のイベントだから、私が審査員やるでと言って、マイクとられてしまったんや」

「あはは……天神君も大変だね……。ちょっと表側で私も聞いてみようかな」

 千紗はそう言って観客に混じって表へ出て行った。

「じゃあ、僕らも、やることないし、見るか」

「そうだな」

 あ、そういえばヒカはどこ行ったんだ……?

 千紗が走ってこちらへ戻ってきた。

「どうしたんだ、千紗。僕らも今行くところなんだ」

「あのね、日月君。ヒカちゃんが、歌うみたいだよ」

「まじか! じゃあ一緒に見るか……、なあ草」

「そうだな」

 僕、千紗、日月の三人は表側でヒカの歌を聞くことにした。


 マイクの頭に響く音が聞こえる。めっちゃ緊張してるよ、ヒカ……。

 ヒカはマイクをしっかりと握りしめて、

「じゃ、じゃあ歌います。聞いてください」

と、言った。

 曲が流れ始めた。この曲は……、いま都会の高校生の所で流行ってそうなリズミカルでポップな曲だった。

 歌は、それなりに上手いかった。

「光ちゃあああああん」「アンコールじゃあああああ!」

 観衆はヒカの歌ですごく盛り上がった。ここまでかなり演歌や田舎っぽい曲が続いてきたらしい。だから、ヒカの歌は都会チックでよかったのかもしれない。

「あれ……、草は……?」

「日月君、あそこです」

 千紗が指している方は……、ステージ? ってことは。

「俺は、天神草だぁぁぁぁぁ! 盛り上がっていこうぜええええぇぇぇぇ」

 草はああいうのにはすぐに参加したくなる正確だからな……。しょうがないなあ。

 草の歌も始まる……。

「なんだか、私も歌いたくなってきてしまいました……あはは、上手じゃないのに……」

 千紗は作り笑顔だが、瞳は本当に参加したそうな感じだ……。

「日月君、いや……、日月先輩!」

「ど、どうしたんだ急に?」

「参加したいです! 参加したいです!」

「じゃあ参加すればいいじゃないか」

「でも、一人じゃ心細くって……。日月君、一緒に歌ってくれませんか?」

「えっ……」

 僕が千紗ちゃんと一緒に歌うだと……? 僕も歌には正直いって自信ないんだが……。

「日月君となら、歌が下手でもうまくいきそうです」

 まあ、大事な後輩がこんなに頼んでくることだ。いい思い出にもなるし。

「よし、じゃあ分かった」


 僕と千紗は、二人ともちょうど知っていたデュエットではないがあったので、それを歌うことにした。

 僕は千紗の手を掴んでステージへと上がった。

「よ、よろしくお願いします」

 千紗はそう言って、僕と一緒に歌った。

 千紗は僕なんかよりも全然上手で、一人で歌っても問題ないレベルだった。逆に僕がいらないような気がした。

 手は汗で湿っている。すごくすごく緊張したんだ。僕らは歌い終わり、歓声が飛び交う中、ステージを下りた。

「日月君、ありがとうございました……。とっても嬉しかったです」

「隣で聞いていたけど、ヒカや草なんかよりも全然上手だったよ。一人でも歌えたのに……」

「日月君と歌えたから、いい思い出になったんです」

 千紗はとびっきりの笑顔をしてきた。すっごく可愛かった。

「おーい、日月ー」

 ヒカの声が聞こえた。

「どうしたんだー、ヒカ」

 ヒカは車椅子を押してこちらへと来た。

「その車椅子……、もしかして優花さんですかね」

 千紗は嬉しそうに声を上げた。

「そうか、千紗は二回目か。優花に会うのは」

 そう言って、僕は優花の元へと走った。

「キーくん、チーちゃん、ひさしぶり」

 優花が言った、『キーくん』とは僕の優花だけが昔から使ってるニックネームだ。『チーちゃん』は千紗のニックネームのようだ。初めて聞いたかもしれない。ちなみに、ヒカのことは『ヒカっち』だ。

「優花、今日は外に出てもいいのか?」

「そうだよ、キーくん。今日一日だけ外出許可もらって、車にのってきたんだよ! すごいでしょ」

「それにそれにね、キーくんとチーちゃんの歌も聞いたよ」

「どうも……、優花さん」

 千紗も満足気だ。

「だからヒカは歌い終わった後居なかったのか」

「そうよ! 当たり前でしょう。私がすぐどこかへ行くと思ったら大間違いだわ!」

「相変わらず、なかいいね。キーくんとヒカっち」

「そ、そんな、なんでこいつと!」

 ヒカは皮肉たっぷりな言葉を僕にふりかけてくる。

「全くだ」

 僕も反論。

「あー、ソウだ!」

「お、優花着てたのか」

 後ろを振り返ると、草が戻ってきてた。

「お前、どこいってたんだよ」

「ちょっと、トイレだ」

 草は優花に会えて嬉しいのか、優花の方しか見ていなかった。

 こうして、文化祭そっちのけで、優花との雑談に没頭した。僕らは優花に、文化祭のこと、石拾いイベントのこと、大学のこと、池の水が少なくなる事件のこと……、たくさんのことを優花に話した。優花は、病院のこと、都市のこと、体調のことなど話してくれた。

「あのね、みんな、じゃーん」

 優花はバッグから、お弁当をだした。とても大きい。

「優花がね、考えて、ママに作ってもらったんだ。みんなに食べて欲しいから」

「ありがとう、ユッカ……」

 ヒカはそう優花に対していった。そして、すぐにお弁当を広げた。

「とってもおいしそうだな……」

 僕は割り箸を割って、一番美味しそうな、卵焼きを口にいれた。

「う、うまいな、優花。なんか食べたことない味だ」

「そうだろー! 優花が一週間かけて悩んだからな」

「そんなかかったのか」

 優花は昔から料理を考えるのが上手だった。病院にいることがおおい優花は、病院の料理ばっかり食べているから、自分で作りたいと、美味しい料理を考えてくれることが昔からあったらしい。

「確かに、優花さんの料理おいしいわね」

「うん。上手いな。流石優花」

 千紗も草も嬉しそうだ。

「優花も歌、歌いたかったな……。みんなと同じでずっと居られたらな……」

 優花は一瞬悲しそうな顔をした。だが、すぐ笑顔になった。

 こんなかんじで、雑談が続き……優花の変える時刻になった。

「じゃあ、またね」

 優花のママさんが車椅子を押して、車に乗って、帰っていった。

「また戻ってくるからー!」

 優花の本気の声が僕らの耳に届く頃には、車は見えなくなっていた。

「帰っちゃったわね、ユッカ」

「そうだな」


 その頃、のど自慢大会は絶頂にあった。村のお年寄りで結成された、コーラス部隊が、独裁政治を行っていた。

 僕らはそんななかで、みんな笑顔でのど自慢大会をとっても楽しんだ。草にとっては、最初で最後の大切な文化祭の思い出だ。


 気づくと、運動場にはステージがぽつんとあるだけだった。

「あれ、僕寝てた?」

「そうだぞ、途中で疲れたと言って、保健室へいっただろう」

「あ、そうだったか……」

「日月くん、まだまだ、部隊の片付けが残ってますよ」

「日月、まだまだ明日もイベントだわ。そのぐらいでばててちゃ男じゃないわ!」

 千紗も日月もまだまだ元気だ。僕は飛び起きて、

「まだまだ、がんばるぞー!」

と言った。

「そうだわ」「そうですね」「まだまだだな」

と三人の声も続いて響いた。

 最後には、優花の声も聞こえた気がした。


 まだまだ、続く忙しさ。そのことを考えながら、僕らはステージの片付けを始めたのだった。


いつもいつも、読んでくれてありがとうございます。

拙い文章ですが、読んでくれてとっても嬉しいです。

まだまだ続きそうですが、よろしくお願いします。

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