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06

 僕はふと考える。なぜこんなに故郷を大切にしているのか。村や伝承を大切にしているのか。結果はいつもこう、教育は怖いと言ってしまえばすべての理由となり全て終わってしまうものだ。

 来月には僕ら二年生は修学旅行がある。ただし二年生は僕とヒカの二人だけだ。引率の先生も来るが一人だけである。ちなみに日帰り。

 こんな大きな行事が迫る中、文化祭の準備に追われている。準備というか、まだなにをすればいいか決まっていない。文化祭の準備ができるものは実質僕を含めて四人しかいないからだ。


「じゃあ、何かやりたいことある人は挙手」

 僕は教卓に手を派手について、挙手を促す。先生から、『おまえ実行委員長な』と唐突に言われたからだ。

 全員挙手している。全員やる気はあるようだ。

「じゃ、まずヒカ」

「はい! 私はお化け屋敷がやりたいわ」

 お化け屋敷、都市の学園祭ではポピュラー何じゃないか? スクリーンにいろいろなお化けが映って、飛び出してくるんだろう。すごく怖い。

 僕は黒板にメモをする。

 メモを終わると、草だけ手を上げている。

「どうしたんだ? 草、意見か?」

「お化け屋敷には、反対をする。何故ならば、お金がないからだ」

「確かにそうだが……、それだけでは夢がなさすぎないか? 何にもできなくなるのではないか?」

 僕は力説する。

「それに、お化け屋敷はターゲットがあるんじゃないか? どうせ文化祭に来るのは、お年寄りなんだから、お化け屋敷で腰を抜かれたら大変だ」

「確かに、それもそうだな……」

 黒板にかかれていた。お化け屋敷を消す。

 ヒカも異論はない様子だ。

「じゃあ、お年寄りにも優しい感じの出し物はないか?」

 またまた、ヒカが手を挙げた。

「ヒカ、次は大丈夫だろうな」

「もちろんだわ……。私がやりたいのは、カフェよ。カフェならお年寄りもくるんじゃないかしら」

「カフェ、いいアイディアだね。ヒカちゃん」

 千紗も賛成しているようだ。黒板にメモ、メモ……と。

「カフェには反対だ」

 突然、草が声をかけてきた。またこいつ反対だ。

「カフェは無理だろう。甘味処のほうがお年寄りには通じやすいんじゃないのか……」

「確かにそうだが、それだけか? まだ、続きがありそうだが」

「もちろんあるとも。文化祭にもし人があまり来なかったら大赤字になってしまう。食費もかなり高いだろう、あと、お年寄りしか来なさそうなイベントだ。口に合わなかったらいろいろ大変なんじゃないか?」

「そ、そうだな……」

 黒板を消す。

「ほ、他に意見はあるか?」

 ヒカがまたまた手を挙げた。相変わらず懲りないやつだ。

「じゃ、じゃあ演劇なんてどうかしら? コレなら問題ないんじゃないかしら?」

 僕は草のほうを見る。草は何やら言いたげである。

「草、何かあるか……?」

「演劇は、反対だ。稽古に時間がかかる上、服やセットなどを容易するのに時間が掛かる」

「「「………………………」」」

 僕、ヒカ、千紗は沈黙。

「あ、あの天神くん。じゃあ何をやればいいのかしら?」

「それはだな……、のど自慢大会だ。年寄りも参加しやすい上に、準備もほとんど何もいらなくてすむ。それに遠くから来た人でも簡単に参加ができる。おまけに俺も参加可能だ」

「それ、どこのカラオケ大会かしら?」

「あははは……」

 ヒカと千紗は呆れて、微妙な空気が漂っている。

「意見はなにかあるか……?」

 ――これ以後意見が出ることはなかった。だから結局、文化祭で僕らがやることになったのは、のど自慢大会になった。


 帰り道でヒカが珍しく僕と一緒に帰ることになった。

「ヒカ、お前の家むこうだろ。今日は何でこっちなんだ?」

「ちょっと買い物してきて欲しいってお母さんから頼まれてたのよ」

 買い物か。村にある唯一のスーパーが僕らの買い物ポイント。コンビニも一応いくつかあるが、あんまり商品が揃ってないことが多いので、僕らはあんまり行くことはない。

「何買うんだ?」

「お線香、切れちゃったみたいなんだよ」

 …………。沈黙が続く。

「なんかおまえ、最近元気ないよな? どうしたんだ?」

「な、なんでもないわよ……。それでね、来月、修学旅行あるでしょ?」

「ああ」

「それの支度もしなきゃで忙しいんだわ……」

 確かにもうちょっとで修学旅行だ。日帰りと言ってもそれなりの支度が必要だ。旅行では、詳しくは覚えていないが、どこかのダムへ行くらしい。

「そうだな、支度もしなきゃな……」

「なんか、私、この村好きなんだ。いっぱい自然があって。変で不気味な神話もあって。そして、あんたと出会えて」

 僕はヒカを蹴った。

「痛ッ……、あんた一体私に向かってなにしてるのよ!」

 今度は僕がヒカに蹴飛ばされた。

「おまえが変なコト言うからだろ! 出会えて良かったって、この村に生まれたんだから、出会うにきまってるじゃないか」

「当たり前でしょ! そんなこと、あー、もう早く家帰りたいし、走ろうかな」

「良かった、いつものヒカだ」

「ん? なにか言った? 私はいつもこうよ」

「そう。ヒカはそうでなくっちゃ」

 山間部の日の入りは平野部に比べて少し時間が速い。山が地平線より高いおかげで、さっさと太陽は隠れてしまう。

 もう、日の入り間近で夕日が差してきている。

「ぁりがとう」

「ん? なんだ、ヒカ」

「なんでもないわよ! 私は先に買い物行くからね。あんたはさっさと帰りなさい!」

 ヒカは走ってスーパーへと行ってしまった。ただ、一番最後にこっちを振り返った時には、夕日のせいなのかヒカの頬は程よく温かみのある色に染まっていた。

「なんだよ、やっぱりおかしいな……」

 僕はそんなことをしみじみ思いながら家へと帰っていった。

 文化祭、石拾いイベント、修学旅行、雪支度と次から次へと何もかもが自分の身に関わってくる。これからもっと忙しくなって、忙しさは年末まで続きそうな予感がした。


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