02
白池村には、川が流れている。白池川だ。
白池側は、僕らの白池村から流れだし、下流の平野部まで続いている。
その白池川の起点について、村に伝承された話があるので、とりあえず、聞いてほしい。
とある山のふもとに、起点がある。起点というかそれは池だ。僕らは、その池を『白池』と呼んでいる。
白池の中央部から、湧き水が出ている。ココが川の起点だ。
なぜ、僕らが、『白池』と呼んでいるかというと、伝承された話が由来である。
昔、それまた昔。ココは、ただの山地であった。だけど、ここの地に龍神が舞い降りて、ここの地を、荒らしていったとされる。その荒らした場所に集落ができた。
だが、その集落はいつも水不足に悩んでいたと言われている。ある時、再び龍神がこの地に舞い降りて、ここでなくなったとされる。そのなくなった場所に泉が出来て、龍の白い血が噴きでたという。
だから、ここの池を、白池と僕らは言うようになった。
僕らと言っても、本当に龍神が舞い降りてくるなんて聞いたこともないし、いつの話かもわからないから、ただのつくり話かもしれないけど。
ちなみに、この話、村の年寄りのほとんどが信じていて、水道があるのに、まいにちその池に水を汲みに来る人はたくさんいる。
「……日月、日月ー?」
「ん……? ココはどこだっけ?」
「日月、よくそんなに寝れるな。ここは学校だ」
よく見ると、目の前にあったのは、草の姿だけ。他には何もない。
太陽も赤く染まりかけている。
「もう、こんな時間なのか……」
「おまえ、いつから寝てたんだよ?」
「ああ、そうだ。えっとー、覚えてない」
草はいつもの様に笑って、肩を落としたふりをする。
「相変わらず、変わってないなぁ日月は」
「草の方は、なんか変わったのか……、例えば、行きたい大学決まったのか? 受験とかするの」
「今、すごく悩んでいるんだ、親からは、この村で仕事しろって言われているけど……。正直、大学にも行ってみたいな」
「もう、こんな時期だよ? やばくね……、って言うことはさ、草はこの村を出てくっていうことなの?」
草は、少し考えてから、また咳払いをして、話し続けた。
「そういうことだ……」
「もう、草とは別れなくちゃダメなのか……」
そういう時期になったんだ。僕も草も。ずっと同じ場所には居ることが出来ない。とどまることは出来ないのだ。
草は、この話が嫌なのか、すぐに話題を変えてきた。
「はやく、帰った方がいいぞ。今日は龍神がこの地を荒らしたとされる日だからな……」
「そんなこと、信じてるんだ。やっぱり」
「なんか、村の掟みたいな、そんな感じになってるからな。龍神のことが」
僕は龍神の話は別に好きではない。そういう伝承だのオカルトだのは、信じることが出来ない。
僕らは、帰り支度をすぐに済ませて、家まで走り抜けていった。
翌朝、学校で。
「ねぇ、日月、優花のこと聞いた?」
優花のこと……? 誰かと思って見てみると、そこにはヒカが居た。
「どうしたんだよ、ヒカ。優花のことって」
「そうなのよ、優花、なんか病気が悪化したとかなんかで、今年中退院は出来そうにないみたいなのよ……」
「えっ。皆には、もう話したのか?」
「うん。ごめん、報告が遅れて……」
ヒカは顔を下に向けて何も話そうとしなくなってしまった。
「そっか……」
僕には、今、どうしたらいいのか分からない。
今年中に優花に会うことはもうできず、みんなでクリスマスパーティーや、正月を楽しめないわけである。
それに、退院する日もまだ、分からないということだ。
草も都市へ行きたいと言い、優花も帰って来られない。
それが意味することは、ただひとつだけだ。
僕らは、もう、僕らでは居られない。僕らの時間は過ぎてしまったというわけだ。
新しい日常はやってくるか心配になりながら、授業を待つのであった……。




