18
新しい年が、やってきた。
優花を含む僕らは、白池神社に初詣をしにきていた。
「今年も一年いいことが有りますように……」
僕は初詣をちゃんとする。
「今年こそは、病気がなおりますよーに!」
車椅子に乗った優花もお参りしている。
他のみんなの声は聞こえなかったが、しっかりとみんなお参りをしたはずだ。
絵馬とかはこの神社にはないので、そのまま、帰る。
「今年もよろしくだわ!」
ヒカが言った。
「皆さん、今年もがんばるね」
千紗も言っている。
「今年もよろしく。だな」
僕もちゃんと受け答えをした。
なんだか、雪も微妙に降っていてかなり寒い。初詣なんか行かずに、こたつの中にこもっていたい気分だ。
「日月、おい、あっち見てみろよ!」
「え、なんだよ急に」
「なになにー、ソウ!」
草が急にあっちを見ろと言い出した。そっちを見てみる。あっちは……、村役場か。
「あら、村役場がまた騒がしいわね。新年早々何かあったのかしら?」
「よし、とりあえず行ってみるか」
僕らは村役場へと向かった。
村役場は、この前の時よりも、すごく騒がしかった。
「何があったんだろうね」
千紗が首を傾げながら言った。
「どうしたんですか、何かあったんですか?」
草が、勇気を出してお年寄りに聞いてくれたようだ。
「なんじゃいなんじゃい、しらんのかい」
「みんな、知らないわ」
「こんな年賀状が届いておったんじゃ」
と、言ってお年寄りは、一枚の年賀状を僕らに見せてくれた。
「これは……」
差出人は、地方整備委員会白池水系管理所からとなっている。
「……。漢字……」
ヒカはどうやら漢字が読めないらしい。やっぱり、阿呆だったよ……。
「えっと……」
千紗が読んでくれる。
「今年もよろしくお願いします。ぐらいしか書いてないよ……」
僕もちゃんと見てみる……。うん。確かに、千紗の言ったぐらいしか書かれていない。
「コレのどこが、いけないんですか?」
「ここ、じゃ。ここ……、背景じゃ」
「背景……」
僕はもう一度よく見てみる。そこには、ダムの絵が書かれていた。
「ダム……?」
「ほんとだ、ダムの絵が書かれてるね……」
「ダム……? ダムが私達の村のどこに関係があるのよ……」
「おい、このポスターを見てみろ」
草が、役場に貼ってあったポスターを指さして言った。
「なんだ、なんだよ……」
僕はそう言いながらも、見てみる。
「えっ……」
僕は思わず言葉に詰まってしまった。
『白池ダム計画』
と、書かれたポスターが貼ってあったのだ。
「ねぇねぇ、日月、本当に白池にダムができるの……!?」
「そうかも、しれないね」
「でも、ダムが出来て何が悪いのよ! ダムができたら、洪水とかがなくなるんでしょう?」
「ヒーちゃん、よく考えて! 白池にダムができるってことは、村が水の下に埋まっちゃうんだよ!」
「え……」
「確かに、村が水没してしまいますね」
千紗も冷静に状況を見極めている。
「みんな、村が沈むのは嫌でしょ?」
僕は、もう一度みんなに確認する
「ああ」
と、草。
「もちろんだわ」
「せっかく、この村に来たんだから……」
と、ヒカと千紗。
「優花の大事なふるさと!」
と、優花。
みんなの思いは、僕と同じ。僕らの思いは同じというわけだ。
絶対に、この村をダムのそこには沈ませない……。絶対にこの村は失わないと。
「僕らには何ができるんだ……」
そう言ったが、何も誰一人としてアイディアは出てこない。
「困ったなぁ」
僕はそう口に出してしまっていた。
「俺ら子供には何も出来ないんだ。はっきり言ってしまえば、大人の問題だ。僕らが口出しできることではないだろう」
草は冷静に、そう言った。確かにこのダムの問題は、子供の問題ではない。大人たちが考えて、考えだした結論だ。
「だけど。村の問題じゃないか。僕達とは無関係とは限らないだろう」
僕はそう力説した。
「そうだ! 村長さんはどう思ってるのかしら……」
「たしかにそうだね。村長さんは、どう思ってるんだろうね。きっと、沈んでほしくないとは思っていると思うんだけど……」
「聞くのはムリ! いま、役場、騒がしいから!」
優花は言った。
確かに、今は騒がしくて無理だ……。
「じゃあ、どうすればいいのよ……」
「僕もいいアイディアが思いつかない。ここで手詰まりだろうか……」
「残念だ。俺もまったくいいアイディアが思いつかない」
全員、アイディアはなく、振り出しに戻ってしまう。
これは、同しようもないことなのだろうか。
「とりあえず、すぐに事が動くことではないだろう。優花も病院に戻らなくてはならない」
「そうだった……。優花、病院に戻らなくっちゃ」
と、優花が言った。
「そうだ、優花の家に行って考えないか?」
「優花の家ー?」
優花は首をかしげた。
「優花は病院に戻って、このことには参加できないだろうから、優花の家で会議を開けば、優花もいいんじゃないか? 迷惑じゃなければ」
「うん。いいよ! 優花のババーが、いつも家にいる!」
優花は了承してくれたみたいだった。
「じゃあ、その会議の結果は、俺が報告するよ」
名乗りでてくれたのは、草だった。やっぱり、優花と草の関係は怪しい。
「じゃあ、これで考えられそうだね」
「がんばるわよ!」
千紗もヒカも乗り気だ。
「よし、じゃあ、とりあえず優花の家に行って、優花の見送りをしようか」
「「「賛成!!」」」
僕らは、優花の家に行った。そこで、少し雑談したり、おせちを頂いたりした。
「そろそろ、優花、帰る時間」
そういって、優花は車に乗り込んだ。
「じゃあ、また今度!」
「またね、優花ちゃん」
「またな」
みんな挨拶をして、優花を見送った。
そう行って、僕らは、会議を始めた……いところだったが、案が出ないので先送りになった。
僕らは今困難に立ち向かおうとしている。僕らの力だけじゃ解決はできないであろう。僕らの進む道は迷宮入り確定のように見えてしまっていた。
20話あたりで終わりそうな感じです。




