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恋に理由はいらない。人を好きになる気持ちに嘘はない。
人を好きになるというのは言ってしまえば、人間の本能だ。人間の本能に誰も逆らうことは出来ない。だからこそ、人は誰かのことを好きになり恋をする。
恋、始まりは小さい。
男は女から告白ほしいと思い、女は男から告白してほしいと思う。
つまり、告白というのはすごくすごく勇気を振り絞らないと出来ないことなのである。
もう冬はすぐそこにある。雪支度をして、雪に耐えないといけない。
雪かき用の道具や手袋もたくさん用意しないと行けない。雪、溶けてしまえばただの水。雨と変わらない。
太平洋側のほうが近いこの場所であっても、山奥のためそれなりに雪が降る。冷えて冷えて、コレほどないまでに冷える
「あ、マフラーほつれている……」
直さなきゃなと僕は思った。親は自分で直しなさいといって、直してくれないので、毎年自分で直す。ほつれるとすぐ毛糸に戻ってしまう。
そう思っていたら、家の呼び鈴が鳴った。
「はーい」
僕は玄関の戸を開けた。
「日月! 写真現像してきたわ!」
そう言ってヒカは僕に封筒を手渡してきた。
「ヒカの分は、あるのか?」
「もちろん、ちゃんと印刷したわ」
ヒカはずいぶんと笑顔だ。
「やっぱり家の布団が寝やすいわね」
「そりゃそうだろ、いつも自分が寝るのに慣れているからな」
「日月のふとんもすっごく寝やすいから」
「まあ、いつも僕が寝ているからな」
「そうね」
「あ、日月、マフラーほつれてるじゃん。私が直してあげるわ」
僕は驚いた。今までこんなことは一回もなかったからだ。
「ヒカは、お裁縫得意なのか?」
「まかせてよ、日月。私、ママに昔たくさん教わったから。直してあげる!」
「ありがとう」
僕は心の底から伝わるようにそう言った。
僕はその後ミカンを食べたりしてくつろいだ。
本日二度目の呼び鈴が鳴った。
「また、ヒカじゃないだろうな……」
考えながら、玄関の戸を開けた。
「日月君!」
今回来てくれたのは千紗だ。
「千紗、どうしたんだ……?」
「その……おすそ分けです」
と言って、千紗は何やら箱を取り出した。
「その……。このまえ助けてもらったお礼です」
「ありがとう。千紗」
「そういえば、日月君、何やら天神君が南の方に走っていたのです。何かしらないですかね?」
草が……? 草のこと、意外と知っている用で割と知らないことが多い。はっきり言って謎に包まれた少年だ。
「こんな時間に……、全く勉強しろよ」
「たしかにそうですね」
「あはは、そうだ……! 草のこと尾行してみない?」
「え、今からですか?」
「だめかな? 千紗がいいなら面白そうだし、やってみようと思ったんだけど……」
千紗は頷いた。
「日月君と一緒なら、大丈夫ですね。おともします!」
「でも、その格好じゃちょっと寒くない? ちょっと待ってて」
僕は千紗にそう言って、家のクローゼットの中から、僕のマフラーと、使っていないもう一つのマフラーを取り出した。
千紗の所へ戻った。
「千紗、寒いから、このマフラーしなよ」
僕はそう言って、千紗にマフラーを渡した。
「ありがとうございます、日月君。助けてもらったのに、こんなものまで貸してもらちゃって……」
「じゃあ、行こうか」
そう言って、僕らは歩き始めた。
「草はどっちに行ったんだ?」
「あっちです」
千紗といろいろ雑談しながら、川沿いを南へ少し下った。
「そろそろ、草がいないと帰らないとな……」
「日月君、あそこです!」
千紗の指している方を見ると、草が、携帯電話を片手に話していた。
「ああ、電話をつなげるために、ここまで来ていたのか」
この辺りでならなんとか携帯電話がだいたい繋がる感じだ。
「でも、なんで家電で電話しないんでしょうね?」
「確かにそうだな……」
「家に、家電無いとか……?」
「そんなわけない。この村の唯一の連絡手段だからな。土の家でも家電はあるはず」
「そうなんですか……」
千紗はすごく熱心に僕の話を聞いてくれてる。千紗はまだココに来てまだ冬を越していない。
「千紗、なんか困ったことがあればいつでも僕のところに来ていいよ。村のこととかも教えてあげるから」
「そうですか。すっごく嬉しいです。日月君。この村に引っ越すことが出来て本当によかったな……」
「あいつ、本当に長電話だな……」
僕は気を取り直して、草の方を見た。
「こっちにも気づきませんし……」
「よっぽど大事な奴なのかな」
「も、もしかしてく天神君の彼女とかですかね」
千紗は微笑みながら言った。
「あいつの彼女なんて聞いたこと無いな……。あんまり村から出ることもないし……」
「そうですか…………。さむっ」
不意に冷たい風が吹いた。日もかなり傾いている。
「そろそろ帰るか……」
「近くのコンビニで暖かい飲み物でも買いましょう」
千紗は近くにあったコンビニ(数百メートル先)を眺めながらそう言った。
「おごってやるよ」
「またですか……。あはは申し訳ないです。甘えちゃいます」
千紗はすっごく頬が赤くなっていた。寒いのもあるからな。暖かくならないと。それに、最近千紗は前に比べてすっごく可愛くなった。そんな気がした。
僕らはコンビニ暖かいコーヒーを買った。
すっごくすっごく暖かかった。
僕は千紗の顔を見ているとすっごく落ち着くような、そんな気がした。
「日月君……。日月君はヒカちゃんのことは好きですか?」
僕は飲んでいたコーヒーを口から吐き出しそうになってしまった。不意にそう千紗が言ったからだ。
「な、なんだよ、急に」
「だって、ほら……」
千紗の指差す方向を見ると、そこにはヒカが木の裏に。隠れているつもりなのかわからないが、全然隠れられて居なかった。
「ヒカ、隠れてるなら、出てこいよ。お前の分のコーヒーも買ってやるぞ」
するとヒカは走って、出てきた。
「どうしたんだよヒカ」
「どうしたって、マフラー直したから急いで届けようと思って、そうすると、千紗と一緒に歩いていったから、気になって追いかけたのよ」
「ストーカーじゃねえか。というかもうマフラー直してくれたのか」
「そうよ、すごいでしょう」
ヒカは買ってあげたコーヒーをゆっくり飲みながらそう言った。
「日月君、女の子に甘すぎですよ」
「そうよ、日月、女の子にモテモテだと、その……! 困るのよ」
「何で、お前が困るんだよ、僕の自由じゃないか」
僕は反論した。
「そ、その、……。なんでもいいから困るのよ」
僕は気づいている。どっちも僕のことが好きということを。僕には二人がいることを。
どっちかと付き合ってしまえば関係が壊れてしまう。そう感じていたからだ。だから……。僕には選ぶことが出来ないと思った。
「明日も、おひさま出ますように」
僕は言った。
「何よ、おひさまはでるにきまってるでしょ!」
「日月君、おひさまは明日もちゃんとでるよ」
千紗とヒカは微笑んだ。
僕には、この笑顔を見る権利があるのだろうか……。そう考えながら日は暮れていった。




