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僕の思いとは裏腹にどんどん夜が近づいて、空もどんどん淡いオレンジ色から真っ暗な暗黒の色へと変化していく。
「千紗ーーーーーー!」
僕は僕が今出せる最大の声を出した。
千紗に届いてほしいという思いがつまった声は響いた。だがしかし、千紗の声は返ってこない。
一刻も早く千紗を助けなければ。千紗がこの世界から逃げ出したいのはわかる。だから……。
千紗の部屋を少し漁って懐中電灯を見つけた。コレさえあればなんとかなる……。僕はそう思って、千紗を探しに外へと出た。
「千紗……! 一体どこにいるんだ……!」
僕はずっとずっと千紗のことを考え続けた。この千紗と僕の二人しか居ないただひとつの世界で……。
「まずは学校だ……」
学校のいつもの教室に行っても、千紗の姿は見えなかった。だが、千紗の机だけ少しずれていた。これは、千紗もココをよった跡なんじゃないか。
学校、他の部屋も回ったが、千紗は居なかった。
学校に気を取られている場合じゃない、次を探さなきゃ。
「次は……、役場だ」
役場に行けば少しは何かの情報がわかるかもしれない。僕はそう思ったのだ。
学校から東にある役場まではそう遠くない。急がなくては……。
役場はいつものすごい活気はなく、静まり返っていた。静まり返っているということは、人が全く居ないということを物語っていた。
役場へ入った。様々な受付があるが、人は全くない。操作されずに止まったコンピューターの画面が光っているだけだった。
村長には申し訳ないが、役場の中をすべて回ったけれども、目的である千紗の姿はどこにもなかった。
こうなったら、最後の場所、白池にいるしかありえない……。
役場を飛び出した僕は、白池へと進路を変えて、急いで、急いで……、息が途中で切れそうなほど走った。
内蔵が口から全て飛び出してしまいそうなほどに走った。気持ち悪いほど走った。
白池への入り口へ着て、僕は気づいた。白池神社だ。
白池神社は普段はひっそりとしていて、人が居たとしても気づかないだろう。村の心霊スポットでもあるが、村の人の初詣は必ずココだ。宮司さんもいるらしいけど、その姿は見たことがない。
一人で行くには心細いところだ。
「よし、行ってみよう」
僕はこころの近い、白池神社の土地に足を踏み入れた。それも急いで。
「千紗!」
僕は千紗に聞こえるように叫んだ。
「…………」
何も聞こえない。
「千紗!」
僕はもっともっと大きい声でもう一度叫んだ。千紗に聞こえるように。
「……君」
微かに、本当に微かだが、そんな声が聞こえた。
「千紗!」
さらに僕は叫んだ……。
「日月君……」
はっきりとその声は、僕の耳へと届いた。しっかりと……。しっかりと……。
僕は、神社の本殿の裏に回りこんだ。
そこには、ボロボロの姿になった。寝る前に見たものとは全然違う千紗がいた。
「千紗……。どうしたんだよこんなところで」
「日月君……。私もわかんない」
「手紙があったから、心配して、千紗を探しに来たんだ」
「手紙……?」
千紗は首を傾げた。
「手紙を知らないのか? 布団のところに置いてあった手紙、千紗が書いたものじゃないのか?」
「さっぱり知りません……」
そう、千紗はいって立ち上がった。
「目が覚めたら、服もボロボロで体も傷だらけで……。歩けなくてすっごく困っ……。グスッ」
「どうしたんだ、千紗」
千紗は僕の体に抱きついてきた。
千紗の涙が僕の服につく。
「怖かったです……。日月君」
「そっか」
「もっともっと、早く来てくださいね……。すっごく遅かったです……」
千紗はすごくグズグズしていた。涙であふれているような気がした。
「ごめん。もっと早く気付けなくって。千紗の布団がとっても寝心地が良かったから……」
「そうっ。ですか……。日月くん……。じゃあ、迎えに来るのが遅かったバツとして、私にキスをしてください」
「えっ」
僕は一瞬耳を疑った。僕は、千紗と……。
「もちろん、唇と唇です。わかってますね」
千紗にダメおしされてしまった。こうなっては仕方がない。準備をしようと思っていたころには、もう僕の唇には千紗の唇が触れ合っていた。
その瞬間世界の何かが抜けるような気がした……。
唇を離そうと思っても千紗が僕の頭を手で抑えて、全然話すことが出来ない。もう少し我慢しろというわけか。
千紗とキスをするのは別に嫌じゃなかった。だけど何か見えない何かが邪魔をしてきて、断りたいという気持ちもあった。それが気づいた時には、その気持ちはもう僕の体に存在しなかった。
唇を離した。
「日月君、好きです」
千紗は、涙でグチャグチャな顔で、そう僕に告げた。
僕はハンカチを出して、千紗の涙を拭きとった。
「ああ。気持ちは伝わったよ」
僕はしっかりと、気持ちを受け取った。千紗は僕のことが好きなんだ。何気ない感じで空気として気づいていたような事柄だった。だけどそれは、もう彼女の口から発せられており、僕にしっかりと伝わってきた。
「日月君、好きです」
「日月君、好きです!」
「日月君、好きです!!」
千紗は何回も何回も、僕に向けて言った。もう、僕に気持ちは伝わってきているというのに……。
「日月君、今度は日月君から、キスをしてください」
「ああ、分かった」
僕は薄々感づいていた。そのことにも、世界のことにも。この奇妙なことに対しても……。
僕は唇を千紗の唇に合わせた。
千紗は、唇をすぐに離してこういった。
「さっきのキスは私のファーストキスです。日月君……」
「そっか」
「何も無いんですか! でも、日月君のそういう所、好きです……」
「ああ。嬉しいよ」
「お返事は無いんですか」
「ゆっくり考えさせてくれ。僕もいろいろ忙しいんだ」
僕はゆっくり、ゆっくりその言葉を喋った。
「わかってました。やっぱり日月君だ」
「僕は僕だよ……。さあ、そろそろ家に戻ろうか」
神社を出ると、空は真っ暗だった。だが、村の住宅に明かりは灯っている。
あの二人だけの世界から脱出できたというわけだ。ヒカとの入れ替わり、今回の千紗と僕だけの世界、いずれもその相手とキスをしたら、それは終わっている。
これはきっと、妖怪のせいだろうと一瞬思ったが全然違うことにまた気づいた。この村であるから起こったこと。村の伝説と言ってしまえばそれでひとくくりに出来、そこで終わってしまう。だが、それでも僕はいいと思った。
この二つの出来ことは、村の伝説だ。
道で歩く二人。空に刻まれた一番星。その二つはずっと、輝き続けるだろう。
まだまだ、頑張ります




