13
――ククッ。
次は、午頭千紗……。ゆっくり待つといい……!
家に帰ってから、僕はいろいろ考えた。
なぜ意識を戻すことができたのか。それもキスをすることで戻るのか。誰が原因なのか。何かの要素が絡み合っているのか。
僕はずっとずっと考え続けた。だがしかし分からなかった。
後もう一つ考えたこと。それは、ヒカのことだ。
ヒカは僕のことが好きだと言ってくれた。正直実感がわかない。ずっと昔からはっきりって離れたこともなかったあの相手は、僕のことが好き。僕は、正直言って全然恋愛対象として見ていたことはなかった。だが、ヒカは僕のことを恋愛対象として見てくれていたんだ。その事実は僕の心を揺さぶった。
僕も、ヒカという女の子をちゃんと見てあげないといけない。僕はそう思ったのだ。
朝を迎えた。当然、僕の家。久しぶりの僕の家。聞こえてくる、いつものお母さんの声、それに自分の体の実感は十分にある。
「今日も頑張らなきゃな……」
僕は唇に手を当てる。今でもキスされたということは覚えている。だって、三回もキスしてしまった。いや、されてしまったといった方がいいのか。
「いろいろ、大変だなぁ」
僕はそう思いつつ、学校へと歩き出した。
村を見回す。いつもと変わらない……? いや、いつもと違う。今までヒカの家から通っていたから、見る景色が違っておかしい。それもあるが、何かが違う。
「活気が無い……?」
僕は独り言でそうつぶやいていた。
いつもよく見る、畑仕事をしているおばさんが居ない。それに、白池に水を汲みに行って帰ってくるお年寄りの皆さんの大きなしゃべり声も全く聞こえない……。
「何かあったのかな?」
僕はそう思いながら、学校へと急いだ。
学校も異様な静けさだった。学校の校舎の鍵は、開いていたので教室へ行く。
そこに居たのは、千紗……だった。
「おはよう、千紗」
「日月君。おはようだね。ヒカちゃんとの修学旅行楽しかった……?」
「ああ、すごく楽しかったさ」
「そっか……」
その後、千紗との会話はなく、授業の始まりのチャイムが、静けさの学校に響いた。
僕は立ち上がった。
「おかしいよ」
僕は大声でそう言った。
「確かに、おかしいね。ヒカちゃんも学校こないし、天神くんも学校に来ない……、それにそれに、先生まで学校に来ないよ……」
「千紗、修学旅行に行ってる間に何かあったか?」
僕は、千紗にそう聞いた。
「いや、ぜんぜんそういうのはなかったんだよ」
千紗は僕に対してそう言った。だが、おかしい。何かが。
僕は学校を飛び出した。
「待って……」
後ろで千紗の小さな小さな声が響いたが、それも無視して僕は学校を後にした。
僕が来たのはヒカの家。
呼び鈴を押す。
………………。反応がない。
「おーい、ヒカ! 学校に来ないのか」
と叫んでは見たものの、全く反応はなかった。
その後、草の家にも行ってみたが、ヒカの家と同様だった。
僕はもしかしてと思って、自分の家にも戻った。
扉を開けた。静かだ……。日中普通は、お母さんがいるはずなんだが……。その姿はなかった。
今度は、スーパーへと向かった。買い物している可能性があるからだ。だが、それも外れてしまった。明らかに違った。
「えっ……」
いつもはそれなりにお客さんが居て賑わっているスーパーのはずだが、今日にとっては人が全く居なくて怖いくらい静かだ。流れているのはスーパーのBGMと自動ドアの音。それだけが鳴り響いていた。
明らかにおかしい。
僕がそう思った時には、世界はその方向にどんどん進んでいた。
「日月君、まってくださいーねぇー」
行きを切らしながらやってきたのは、千紗だ。
「千紗……」
「日月君と私の二人だけになってしまいました。この村は……」
村……? 僕は家に急いで戻って、テレビを付けた。
「あ……」
そこに映るのは、人一人写っていないニュース、白黒の砂嵐、上空から生中継では、何も動かない都市……。
まるで、そこには最初から何も存在していなかったのように。
「千紗……」
僕の後ろに居た千紗は泣いてしまっている。
「大丈夫か、千紗……。泣くな。僕が絶対に救ってやる」
僕は自信に満ち溢れるような顔で言った。本当は自信なんてさっぱりなかった。
「日月君……。私も頑張るから……」
そう言って、千紗は僕に抱きついてきた。まるで子供のように。
僕は、千紗が少しでも慰められればと思って、頭を撫ぜた。
「千紗……。まず、何しようか」
僕は聞いた。そんなのが答えられる状況じゃないはずなのに。
「そうですね……。ご飯を食べましょうかね」
僕は気づいていた。泣いてたのが嘘のように、千紗はとびきりの笑顔になっていたことに。きっと、心配しないでほしいという千紗の願いなのだろうか……。
僕は千紗の家に行った。
僕は、千紗の家に来るのは初めてだった。結構立派な家で、リビングに案内されて、ご飯を食べた。
その後は本当に何をしていいのか分からなかったから、僕は二人で寝た。
僕と千紗は寒さを少しでも暖められるように、背中を合わせてくっついて寝た。
正直、僕はドキドキが止まらなかった。一つ下の女の子と一緒に布団に入るということ自体大変な事態だ。
その後も……千紗は、少し泣いたりしていた。よっぽど悲しかったのだろう。
僕は意識が………………。
目覚めたのは、夕方頃だった。
そこで僕は気づいた。やっと。
隣に居たはずの千紗がいなくなっている。この、世界で一人ぼっちに鳴ってしまったのかと思った。
だが、違った。紙が一枚落ちていた。
『千紗は、こんな世界耐えられません……。日月君、ごめんなさい……』
と、書かれていた。
「千紗…………!」
僕は、千紗がいなくなるような気がした。
必死で探さなくてはと思った。
なんとしても、元の世界を取り返すためにも……。




