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「やあ、ヒカ、修学旅行がんばろうな」

 僕は、そうヒカ(僕の体)に告げて、学校の敷地内へと踏み入れた。


 朝の集会なんてない。先生の車に荷物と共に乗せてもらい、車で目的地へと運ばれる。

 その肝心な修学旅行の目的地と言うのは、北アルプスの大自然、黒部地区だ。黒部ダム……の大迫力を見にゆくために。沖縄とか海外は、正直言ってお金がかかりすぎてしまうから行けない。黒部なら本州で同じだし、車でもいけるので問題ない……!


 車に乗り込んで山道を進む。

「別にお前ら、なにか話してもいいんだぞ……。俺も運転に集中してほとんど聞けないから……」

と先生は言ったので、僕らは何か話題を探すことにした。

「なぁ、ヒカ、別にここならいつものしゃべり方でも問題ないよな……」

「いいんじゃない。いい加減日月みたいなしゃべり方は飽きて来たし」

「でも、先生聞いてないかな」

「別に聞かれても問題ないじゃない……、先生だし」

「それもそうだな」

 ……。話題終了。次の話題を探す。

「なあ、ヒカ、黒部ダムには行ったことあるか……?」

「あるわけないじゃない。そもそも、村から出たことは殆ど無いわ、逆に日月はあるんでしょうね」

「僕も無いよ……。だっていっつも昔からいっしょだったじゃん」

「そう……。そうだったわ、私が話しているのは、日月だったわ」

「なんだよ、僕じゃダメなのか?」

 ヒカは全力で頭を左右に振り、否定してきた。

「全然、ダメじゃないわ……。その、すっごく嬉しい。日月と一緒の旅行ができて……。修学旅行でも」

「ふぅん。まあ、僕も嬉しいよ、修学旅行に行くことが出来て」

「……私と?」

 ヒカは僕の顔を真剣に覗きこんできて、そう言った。真剣な表情で。

「まあ、だれでも行けたらよかったんだけど。ヒカと一緒に来れて、楽しい思い出になりそうだから。まあヒカと来ることが出来てよかったかな」

 ヒカは顔を下に向けた。

「大丈夫か、ヒカ? もしかして車酔いか? 下向くともっと気持ち悪くなっちゃうから、なるべく、顔は上げておいたほうがいいぞ!」

 僕は、ヒカが心配になった。だからそう言った。

「全然大丈夫、ちょっと疲れてたみたい……。寝るわ」

といって、ヒカは窓を向いて、寝る姿勢を取ってしまった。全く、変なやつだ。


 それから数時間して、やっとこさトロリーバスの駅に着いた。そこからは、車を下りて、トロリーバスで黒部ダムまで上がる。

 トロリーバスと言うのは日本で珍しい感じで、線路のようなところを走るバスだ。これが結構早い。黒部ダムまでは、あっという間で着いてしまった。

「ヒカ、これが黒部ダムだぞ」

「わかってるわ! 黒部ダムに来たんだから……」

「大きいなぁ……」

「そうね」

「どうしたんだ、やっぱり車酔いでも残ってるんじゃないか?」

「のこってないわよ! 全く日月は」

「そのしゃべり方、この場所で大丈夫なのか……」

「大丈夫よ! 正直言って観光客そんなにいないじゃない!」

「まあ確かに、修学旅行で黒部まで来るのは、マイナーだからなあ」

「そうね」

 僕とヒカはたくさんの写真を撮った。

 二時間ぐらい観光した後……、トロリーバスでまた戻った。

 戻る途中、トロリーバスが大きく揺れた。

 その時、隣に座っていた、ヒカ(僕の体)と僕(ヒカの体)の顔が触れ合ってしまった。そう、唇の部分が……。

 僕はその時正気に戻ったと言ったらいいのだろうか。感触が一週間前のように戻っていた。目を開けてみれば、僕の顔に触れていたのは、ヒカの顔だった……。

「ヒカ……」

「あんた……」

 ヒカは、顔が近い事に気づいたのか慌てて、顔を隠した。

「キス……、しちゃったね日月」

 あんた、日月と僕の呼び方が安定しないほど、ヒカは同様していた。それは、僕も変わりなかった。突然元に戻って嬉しい気持ち。キスをしてしまって、なんと言ったらいいのか分からない気持ち。

「いや……だったか? ヒカ、僕と……そのキスをすること」

 ヒカは黙りこんで何も言わない……。

 数十秒して、ヒカは小さな小さな声でつぶやいた。

「ぅんぅん。嬉*****」

 終盤は、走行音とかでよく聞こえなかったが、それほどまで怒っているわけではなさそうだった。

 その後もトロリーバスは進んでいった。


 駅で、僕らはご飯を少し食べた。久しぶりに自分の体に戻って、よく食べられた。ヒカは以外にも女の子だったし……。こんなこと、ヒカも思っているんだろうか……。

「ヒカ」

 僕はヒカに声をかけた。

「……」

 無反応。

「さっきは、ごめん。僕の注意不足だったかな……」

「大丈夫、そのことはもういい。体が元に戻って……。なんかその……」

 また黙りこんでしまたったヒカ。なんか意識だけ入れ替わってから、ずっとおかしい。これは気のせいなのか……。

「日月、ありがとう。その……心配してくれて」

と、ヒカは言った。

「何が、ありがとうなんだ。よくわからんなぁ」

 その後、僕らは何も話さずに黙々とごはんを食べた。なんだか、そのご飯は少し冷めてて、冷たかった。反対に、ヒカの顔は頬が赤く染まっていた。疲れているのかなぁ……。いや、キスしちゃって、なんか変な気持ちに鳴ってるのかなぁ……と僕はヒカを心配していた。


 車に乗って、宇奈月温泉へと僕らは向かっていた。先生もどこかでご飯をすましたらしく、遠回りだが行くところも特に無いので、宇奈月温泉へ行き、疲れをとってから、また村へ戻るというスケジュールだ。

 ヒカは、やっぱり疲れていたらしく、寝てしまっている。起こさないように、僕も寝た。


 僕の目が開いた。覚醒した。

 ヒカはどうだろうと様子を見ようとして、ヒカの方を見ようとするが、なんだか体が微妙に重い……。だるくて熱でも出ているのかと思ったが、全然違った。

 ヒカが僕にもたれかかっていた。

「あ、日月……起きちゃったのね」

「ど、ど、どうしてもたれかかっているんだ」

「それはね……、日月がいい枕になりそうだったからもたれかかっていたのよ! 悪いかしら」

「いや、そうかそれならしょうがないな」

 認めるなよ! こう言ったら悪いが、僕、重かったんだぞ結構。

「何よ、しょうがないって……」

 いろんなことを考えると、先生が喋った。

「もうすぐ、温泉に着くぞ! 準備しておけ」

「「はーい」」

 僕とヒカは静かに返事をした。


 宇奈月温泉は富山で名が高い温泉だ。結構有名でみんな知ってるんじゃないか。

 僕らは、温泉につくと、すぐに入ることにした。

 ヒカは女湯へ、僕は男湯へ、先生も男湯へ。

「ヒカ、多分僕と先生が先に出ると思うから、ここで待ってる。ヒカもなるべく早く上がってくれよ」

「わかってるわよ、じゃね」

といって、ヒカは温泉へと入っていった。

 僕と先生も温泉へと入っていった。

 その後、僕らはすごく温かい温泉を楽しんで上がった。

 想像通り、ヒカはまだ上がっていなかった。十分ぐらいして、ヒカが上がってきた。

「ヒカ、遅いぞ!」

「悪い? 日月ならもう分かるでしょ。女の子は大変なのよ!」

「確かにそうだったな」

 確かに、女の子は髪とか長くて、濡れると厄介だ。意外と乾くのにも時間がかかってしまうことをヒカの体になって気づいた。

「何、納得してるのよ。日月」

「おまえら、ご飯食べて帰るぞ」

 時刻は午後六時を回っている。ご飯を食べたら、僕らの短い短い修学旅行は終りを迎える。

 簡単なバイキングを僕らは楽しんだ。

 お肉、お魚、村では食べたことのない料理まであった。ここら辺の郷土料理か何かであろう。すっごく美味しく食べられた。僕もヒカも満足した。もちろん先生も。


 車はゆっくり発進した。修学旅行は終わりを迎える。すっかり日が落ちるのが早くなっていった。風も肌寒い。

「ヒカ、今日はありがとう。いっしょに修学旅行に来てくれて」

「はぁ? 何で、そんなこと言われなくちゃならないのよ! 修学旅行だもの、行くにいまってるじゃない」

「あはは、そうだよな」

「それに、私も日月と旅行が出来て嬉しかった。私も言うね、ありがとう日月」

 僕はヒカの以外な言葉に心の準備ができてなくて、ちょっと恥ずかしくなってしまった。

「何よ、恥ずかしがって、あんた男なんでしょう。私は日月がすっごく男らしいって知ってるのよ」

「それも、そうだな……」

「私からの最後のプレゼント、受け取ってね」

と、ヒカが言った。

「どうしたんだよ、急に」

 その瞬間、僕の唇が塞がれた。ヒカのきれいで潤っている唇が僕の唇と触れ合った。そう、紛れも無いキスだった。

 そして、ヒカは唇を離すと、こういった。

「日月、好きだよ」

 そのヒカの声はかすかにこもっていた。

「ずっと、ずっと好きだった。日月のことが……。やっと言えた……」

「え……」

 僕は呆然としてしまった。幼なじみの突然の告白になんと返したらいいのかが全く分からなかった。

「答えは、まだまだ待つ……、だけどね日月これだけは覚えていて欲しいの」

「な、なに。ヒカ……」

「日月のことが好きな女の子。それが私、光だわ」

「うん。分かった」

 僕はそう答えることしか出来なかった。

 そして、ヒカはもう一度僕の唇を塞いできた。再びキスをしてきたのだ。

 僕は避けることなく、ヒカのキスに付き合った。だって、こんなにも僕に対して本気で恋をしてきているからだ。

 ああ、わかってしまった。ヒカがこの頃おかしかった理由。それは、恋に染まっていたからだと……。

 僕はこの先どうすればいいのかわからないまま、キスをしたのだった。

 車走り続ける中。


 窓の外の星空は一つも星が欠けずに光り輝いていることを知りながら。

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