01
僕らの村……、それは僕ら意外にとっては、ただの田舎の村に過ぎない。だがこの村で生まれ、育った、僕らにとっては、いわゆる、ふるさとであることに変わりはなかった。
秋。旧暦ではない。夏の暑さが程よく残り、冬の寒さもほんのり甘い。春についで過ごしやすい。都市に住んでいる人にとっては、花粉症とかの関係で、秋のほうが過ごしやすいかもしれない。
何で、皆都市へ出てくのだろう。村のほうがつながりがあって、自然がたくさんあって最高に良い。あんな固そうなビルの街なんかに誰もが行くはずがない。
僕らは高校二年生。村の高校生は僕らだけ。たった5人だけど、皆仲の良い友達。
僕は、『窪 日月』変わった苗字にかわった名前だってよく言われる。でも僕にとっては大事な名前。
「えーっと、院政を行った上皇は……」
そうだ、今は歴史の授業中だった。先生がなんか色々話している。しかし、そんなことは正直いってどうでもいい。窓の外に見えるのは山。その山の変化を学校の、この自分の席から窓越しに見るのが日課になっていた。
「おい、日月、ちゃんと授業受けないと、また呼び出し食らうぞ」
後ろから声が聞こえる。後ろの席に居るのは、村の唯一の高校三年生『天神 草』。男で容姿はイケてるほう。イケててもモテるのは、村のおばあちゃんだけだと、いつも言っているが真相は謎だ。
「こらっ、そこちゃんと授業聞きなさい、村で唯一の歴史の教師だぞ!」
歴史の教師に注意される。これもいつものことである。
「あらっ、もうこんな時間じゃない。何で、歴史の授業はこんなにすぐ終わっちゃうのかしらね」
教師は、終わったのをいいことにさっさと教室を出て行った。
「良かったな、もう時間過ぎてて」
草が僕に語りかけてくる。休み時間はだいたい草と喋ってることが多い。
「あの人の話はいつも自分で喋っているだけで、教える気、全くないからなー」
会話を返して、会話のキャッチボールに成功した! いぇい!
「あんたたち、またくだらない会話して……」
やってきたのは、僕と同じ高校二年生である『河内 光』。光って書いて、ひかって読む。女の子でスポーツ好き。あだなは『ヒカ』。
「なんだよ、ヒカは、あの先生の授業好きなのかよ」
「もちろん、好きに決まってるじゃない。あの先生は勝手に話進めるから、別に歴史のことなんか考えなくてもいいから、気が楽なのよ……」
「なになに~? 私も会話入れてほしいわー」
ここで、会話に入ってきたのは、これまた同じ高校二年生の『午頭 千紗』高校1年生の時に、この村にやってきた成績優秀の女子。
「やっぱり、午頭は歴史の授業とか聞いてるのか」
ちなみに、草は、千紗やヒカのことを、いつも苗字で呼ぶ。先輩としての役割的なのがあるのだろうか。でも、この村だと、先輩というか、皆友達のようなものだけど。
「ははは、まあね。皆はそんなに勉強とかしたくないんでしょ?」
「もちろんに決まってるじゃないか、千紗もヒカみたいに、勉強なんか放り出して、スポーツとかすればいいのに」
「なに、私がスポーツしか出来ないみたいなことが言ってるのよ!」
ヒカは、僕のほっぺたをつねってきた。痛いよー!
「は、ひたい、ぃたい。痛いよ、ヒカ。これだからヒカは」
「私の何が悪いのよー! あんたも勉強できないじゃない」
「まあそうだけどな」
僕は、とりあえず少し反省して、気を取り直す。
「河内も、日月もケンカはいかんぞ」
草はいつも俺達の仲介をしてくれる。いい奴なのか、そういうことが嫌いなやつなのか、幼稚園時代からの親友だが、さっぱりわからない。
「だいじょうぶだよ、草。俺らはずっと友達だからさ。5人合わせてね……」
「優花さん、早く病気治って村に戻って来れるといいわねー」
千紗が優花を心配する。『長尾 優花』。僕らの5人目。高校1年生で、僕らの中で一番年齢が低い。幼稚園の頃から、ずっといるけど、体が少し弱くて、定期的に都市の病院で入院している。だから今は居ない。
「心配はいらないわ、優花、秋が終わればいつもちゃんと戻ってきてるじゃない」
ヒカの声で、僕らの心配は吹き飛ぶ。
「そうだよな、毎年戻ってきてるしな。あ、そうだ、優花が戻ってきたら、皆でさ、花火しない?」
「おい、日月、優花が戻ってくるのは秋の終わり頃、つまり冬だ。そんな時期に花火なんて、頭がどうかしてるんじゃないか?」
「気にするなよ、草、時期外れだからこそ、面白いんじゃないか」
「日月君ってやっぱ、面白いよね。そんな発想ができて」
千紗がそう言うと、皆笑った。いつものように。
それが、変わらなくて嬉しかったから。しだいに変わっていっても、それは変わらないの内に入る。
急に、何かが変わってしまえば話は別。僕らはその方向へ進んで行くことを知らないから、笑っていられたんだ。




