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懸圃の住人  作者: 夏実歓
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私は楽しみの中 車


 目に眩しい鮮やかな緑から、切り立った崖沿いの深い緑まで同じ緑でも濃淡があった。窓を開ければ涼しげな風と谷を流れる水音が響いてさわやかな気分だ。僕は車の後部座席に座り、五百mlペットボトルのコーラを一口含んだ。

「いいだろ? 早起きして来るだけの甲斐はある。昔、蘆屋先生のフィールドワークについて行ってはじめて来た時はなんでこんな綺麗な場所なのに観光客が来ないのかと思ったんだけど、逆にこれくらいのほうが落ち着くね 」

そう言って高田先輩は快調にアクセルを踏み込んだ。

 僕達四人は旅行に来ていた。同じゼミの仲間で。

「みんなでゴールデンウィークを利用して足を伸ばしてみないか? 」

誰かがそう言い出したのがきっかけだった。男ばかりのむさ苦しい旅だが、それが逆に気楽だった。

「しかし、自然は綺麗だけど、ここになにか見る物はあるんですか? 」

ショウタはいつも着ているパーカーのフードを被り、眠そうに答えた。昨日の夜中まで運転していた彼には今朝の起床時間はいささか早すぎた。

「まあ、ぼちぼち古い神社やら、不思議な形の岩のある滝やらはあったなぁ。なんだか独特な信仰があるんだよ。山岳信仰の一種でね。神社辺りはフィールドワークの時に散々行ったから案内できる。あとはさ、食い物がうまいんだよ。岩魚がいいんだな! 今日はゆっくり泊まりだし、結構楽しめるぜ! 」

「ふぉおおおい! なんだかいい話ですね!! 目が覚めちまったよ。まだ着かないのかなぁ? 」

そう言って助手席から声が上がった。無精ひげの似合わない子供っぽい顔。目をまん丸にしながらケンヂは大きく伸びをした。

「期待しててくれて構わないよ。先生の関係者だって伝えてあるしさ。田舎は結構こういうのが大事なんだ 」

先輩は口笛でも吹きそうにご機嫌だ。

「そうそう! 君らと違って、こっちは散々先生の後をついて行ったからね。まあ、いいところさ 」

僕は見た事もないのにそんな事を言った。後輩に僕も先輩なんだと思わせたかったのかもしれない。車がトンネルに入り辺りが一変する。こんなところでも、トンネルは真新しくコンクリートの匂いがした。出口がぽっかりと明るく見えた。眩しい光の向こうに徐々に濃い緑が浮かび、渓谷の絶景を演出した。

「おお! 」

僕らの歓声が車内に響いた。


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