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私は車の中 序
車に乗っているみんなは怖がっていたんだと思う。僕はどうしてもそんな風に思えなかった。元来そういうことに疎いのか、別のことを考えていたからなのか……
車がガタガタと田舎道を進んでいく。だいぶ疲れた。誰も無言だった。お笑い種だ。でも、お互い人のことは言えないだろう。時折砂利道を小石が跳ねて車の底を叩く。ぴしりと言う音が車内の温度を下げている気がした。僕らは何も言わずに始終黙り通しだった。もう山の稜線は輪郭を失っていた。
草木は昼間とは別な、恐ろしげなシシャに見えて、あの時に見た感動を裏返すような胃の痛みを与える。あの文字通りの草葉の陰にアレが潜んでいるような気がして心は無惨に引き絞られていくのだ。恐ろしいものが何も聞こえないように、イヤホンを耳にねじ込んで、強張る指をハンドルに押し付けながら、僕らは暮れていく。