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命を落とす→命を拾う→その命をそっと戻す

作者: なつかぜ。

命を落とす→命を拾う→その命をそっと戻す




「それって、あなたは得するんですか?」


「得なんて全くないさ。あるのはちょっとした自己満足だけ」


「そんな事が好きなんて、相当な物好きですね」


「お前も人の事を言えないだろう」


「なんででしょうか?」


「そんな事をする俺を、飽きもせずに眺めてるからだ」


「本当は飽き飽きしてますよ。ただ、他にする事がないのです」


「なるほど。それなら仕方ないな」


「そうです。仕方ないのです」





「仕方がないと言えば、私がこんな時間にこんなところにいるのも仕方ないのです」


「なんだ急に」


「私は月曜日の一時間目の体育が大嫌いなのです」


「嫌いなら仕方ないな」


「仕方ないのです」





「さて、ここで問題です」


「はい」


「私の職業はなんでしょうか」


「うーん、わからないな。不登校系学生?」


「ぶっぶぅ、残念。不正解です」


「こりゃ参った。答えは?」


「続けて第二問!」


「答えは?」


「私の年齢はいくつでしょう?」


「えーっと、いくつだろう?14歳?」


「ぶっぶぅ、残念。不正解」


「こりゃ参った。答えは?」


「続けて第三問」


「こりゃ参った」





「おや、あんなところに命が」


「どれですか?」


「君には見えないさ。君は俺とは違うからね」


「なんですかそれ。自慢ですか?」


「いや、自虐かな」


「間違ってましたか。これは失礼」


「いえいえ」





「その命、どうするんですか?」


「落とし主を見つけて返すさ」


「そんな事ができるんですか?」


「まぁ、なんとなくわかるっていうか。ビビっとくるというか」


「あれですか。目と目が合う瞬間…みたいな」


「まぁそんな感じ」


「まぁロマンチック」





「もし、見つからなかったらどうするんですか?」


「そういう時は他の人にこっそり渡しちゃうのさ」


「いいんですか?そんな事して」


「まぁ、大丈夫。命が増えすぎて困るってのは聞かないし」


「命を扱っているとは思えない口ぶりですね」


「いや、返す人は命が比較的少ない人って決めてるさ。だからたぶん大丈夫」


「そうですか、それならおっけーですね」


「おっけーですよ」





「さて、こんな人気の少ないところにきて何をするんです?」


「別に、どうもしないさ」


「どうもしないのですか」


「訂正、ちょっとはどうもする」


「ちょっとだけですか」


「ちょっとだけです」





「俺はここでのんびりとするのが好きなんだよ」


「確かに、ここで本とか読んだら集中できそうですね」


「すごいぞ。ここはびっくりするほど集中できるぞ」


「ほう。本とか普段読まないんですが読みたくなってきました」


「今一冊だけ持ってるけど、読む?」


「ものは試しです。貸して下さい」


「はい」


「漫画雑誌じゃないですか…」


「一応本だろ」





「おぉ、すごい。びっくりするほど集中できます」


「そうだろう、そうだろう」


「集中できすぎて逆に集中できません」


「あら、まぁ」


「なんでしょうね、集中しすぎるがあまり、他の事まで考えてしまいます」


「なるほど、逆に駄目なのか」


「そうです。逆に、逆に」


「逆に?」


「逆にです」





「それにしてもいい天気ですね」


「絶好のピクニック日和だな」


「そうですね」


「という事でピクニックをしよう」


「唐突すぎる」





「ピクニック道具がなかった」


「ピクニックも糞もありません」


「まぁ、まぁ、座れや。こういう時は気分だけでも楽しむもんさ」


「なるほど。気分だけでもピクニックって訳ですね」


「なんだそれ、わけわかんね」


「あなたが言ったんじゃないですか」





「おや、こんなところに命が」


「こんなところにも落ちてるんですか」


「命は基本、どこにでも落ちてるよ」


「なるほど。で、その命。どうするんですか?」


「うーん、こりゃだいぶ古いものみたいだし…どうしようか?」


「それを考えるのがあなたの役目でしょう」


「んー、そうだ。君ならどうする?」


「え?私なら…誰かに渡しちゃいますね。誰か、必要としている人に」


「なるほど、君らしいな」


「私らしいです」





「そういや、今日は雲ひとつない青空だな」


「そうです。だからいい天気なんです」


「なるほど。先日の台風が雲まで持って行ってしまったのか」


「そうです、そうです。だから雲ひとつない青空なんです」


「いい天気だな」


「いい天気です」





「学校の勉強は退屈です」


「そうだな。退屈だ」


「なので私は勉強が嫌いです」


「勉強、嫌いなのか」


「学校は私の寝室です」


「学校をなんだと思っているんだ」





「それにしても、ほんとーに気持ちが良い場所ですね」


「心が洗われるようって表現が似合いそうだな」


「私の心が洗われます」


「俺の心も洗われてます」


「ここは心の清掃場ですね」


「素晴らしい」





「心も洗われたし、どっかいくか」


「そうしましょう、そうしましょう」


「これ以上洗われたら綺麗になりすぎちゃうからな」


「いい場所なんですけどねぇ」


「仕方ないな」


「しょうがないね」





「あ、雲です」


「一番雲だな」


「一番雲です」


「ちっちゃいな」


「一番雲ですから」


「一番はちっちゃいのか」


「一番はちっちゃいのです」


「お、二番雲だ」


「二番雲のほうがちっちゃいですね」


「二番のほうがちっちゃいのか」






「では、一体私たちは何番目でどれだけちっちゃいのでしょう?」


「んー、どれくらいちっちゃいんだろうな」


「どうでしょうねー」


「とんでもなくちっちゃい事は確かだな」


「確かですね」






「そういや」


「はい」


「体育とか、嫌いなのか?」


「なにを急に」


「体育、嫌いって言ってなかったっけ?」


「体育は好きですよ。月曜日の一時間目ってのが気に食わないだけで」


「なるほど。好きなスポーツとかは、あるのか?」


「うーん、ハンドボールですかね」


「なんともいえんチョイスだな」


「昔読んだ漫画に感化されまして、かれこれ数年やっておりますです」


「好きなのか」


「大好きです」


「あんまり、運動とかしそうには見えないがな」


「ところがどっこいという奴です」


「どっこいされた」





「あなたは好きな運動とかあるのですか?」


「俺は…野球かな」


「へー。なんか、そんな感じします」


「よく言われる。これでも名外野手だったんだぜ?」


「名外野手ってところがまたあなたらしいです」


「ほっとけ」





「そういや、もうこんな時間か」


「一般的には夕方、と呼ばれる時間ですね」


「一般的に呼ばれなかったらどうなるんだ」


「うーん、『黄昏の目覚め』とかですかね」


「なにそれかっこいい」


「わたしたちは恐らく、一般的ではないので、これからは夕方を『黄昏の目覚め』と呼びましょう」


「そうしよう」





「さて、黄昏の目覚めも終わって本格的な黄昏の時間です」


「黄昏か。俺の好きだった言葉のベストスリーだ」


「ベストスリーですか。他は?」


「んーと、三位が虚無で、二位が黄昏。一位が孤独だ」


「いい感じに中二病ですね」


「昔の話だ」





「中二病さん」


「その名前はやめろ」


「本格的に暗くなってきました」


「街灯が着き始めたな」


「まぶしいです」


「最近の街灯は明るいな」


「あの薄暗い感じが丁度いいんですけどね」


「全くだ」






「夜は、私の時間です」


「なんでだ」


「昼間に寝て、夜に活動するのが私です」


「つまり夜行性か」


「そうなります」


「つまりフクロウか」


「ほー、ほー」





「シャッター通りって、いいよな」


「いいですね」


「なんていうか、こう、別の世界みたいな」


「わかります。なんていうか、あの感じですよね」


「たまらないよな」





「中二病さんは帰らなくて良いのですか?」


「その名前やめろ。まぁ、帰らなくても平気だ」


「なるほど。一人暮らしかなにかですか?」


「いや、妹と同居してる」


「妹さん、いるんですか」


「あぁ、丁度お前くらいの歳の妹が一人」


「妹さんは心配されないんですか?」


「心配は、あんまりされないな。もうあっちもこっちも、慣れっこなんだ」


「…なるほど」






「中二病さん、そういえば命は落ちてないのですか?」


「あぁ、ちらほらあったな」


「何故、拾わないのです?」


「うーん、拾うほどのものでもないかなーって」


「塵も積もれば山となるんですよ」


「塵も積もれば山となるけど、山にするまでがめんどくさい」


「うわぁ、横着」






「鈴虫の声がする」


「りーん、りーん」


「下手なモノマネだなぁ」


「む、これでも自信作なんですよ」


「本当の自信作ってのは他人に認められるものだぞ」


「そうですかねぇ、自分が良ければいいじゃないですか」


「じゃあ俺がモノマネするから見ていろ。自信作だ」


「どうぞ」


「りぃぃーん、りぃぃーん」


「うわぁ、本物そっくり」


「自信作だ」





「私、あなたに会った時にびびっときたんですよ。あなたなら大丈夫って」


「なんだそれ。俺なら大丈夫ってどんな神経だ」


「実際今こうして話してるってことは、そういうことなんでしょう」


「なるほど、大丈夫だったのか」






「お」


「どうしたんです」


「すごく沢山、命が落ちている」


「どこにですか?」


「ほら、あそこ」


「…うーん、私にはわからないですが、落ちているのでしょう」


「早速拾いにいこう」


「そうしましょう」






「それにしても、大量にあったな」


「時間かかってましたもんねー」


「恐らく、あそこで誰か事故にあったとか、そんなんだろうな」


「…悲しいですね」


「…悲しいな」






「リサイクルしなければ」


「リサイクル?」


「この大量の命を、延命すべき命に渡すんだ」


「延命すべき…ですか。それって、必要とされている人…とか?」


「まぁ、そんなんだ。いろいろと必要とされている人間だ」


「そんなことをして、どうなるんです?」


「別に、どうもしないさ。ただの自己満足だよ」


「そうですか、そうですよね」


「虚しいけど、達成感はあるからね」


「虚しいけど…ですか」


「…虚しいよなぁ」


「…虚しいです」






「さて」


「はい」


「とりあえず、病院に着いたわけだが」


「まず、入れるんですか?」


「まぁ、大丈夫じゃないかな」


「何を根拠に」


「根拠のない自身ほど、確信めいたものはないんだぜ」


「おぉ、なんかすごくいい言葉っぽい」


「まぁ、受け売りだけどな。俺の好きな小説家さんの」


「なんですか、それ」


「いい物語を作る人だ」


「へー」





「お」


「あ」


「綺麗な花が咲いてるな」


「彼岸花ですね」


「そうなのか」


「そうなのです」


「いやぁ、綺麗だな」


「綺麗ですねぇ」






「案外すんなり入れましたね」


「本当にすんなりと入れたな」


「逆に怖いですよね。なんか」


「なんかな。なんか怖いよな」





「色んな人がいるなぁ」


「まぁ、この街で最も大きい病院ですからねー」


「流石だな」


「…」






「どうですか?いい人はいましたか?」


「いい人って?」


「そりゃ、その。延命すべき命とやらですよ」


「あー」


「どうなんです?」


「いるにはいるけど…」


「そうですか…」


「まだ、足りないかな」


「何がです?」


「器が。命が多すぎて器から溢れちゃうんだ。多分」


「どれだけ多いのですか、その命は」





「さて」


「はい」


「大方の部屋は回ったぞ」


「めぼしい人はいなかったようですね」


「んー、そうだな」


「それじゃあ、病院を出ましょう。私、またあの人気のない場所に行きたいです」


「いや、まだだ」


「え?」


「まだ、もっとヤバそうな人がいるところに行ってないからな」


「それって…」





「ここだな」


「集中治療室…」


「そんでさ」


「…」


「あそこに寝てるの、お前だよな」






「最初に見た時からなんとなく解ってたよ。お前が普通の人間じゃないってのは」


「そう、ですか。解るものなんですね」


「馬鹿にするな。これでもおばけだとか、そういった類のものの見分けはできるつもりだぜ」


「ほほー」


「今だってほら。あそこにいるじじい。あれ、おばけ的なアレだろう?」


「えっ、あの人幽霊さんなんですか!?」


「えっ、気づいてなかったの?」


「えっ」


「えっ」





「それでさ」


「はい」


「ちょっと聞きたいんだけど」


「…」


「この、大量の命についてなんだけどさ」


「…はい」


「これ、お前のだろ?」







「まぁ、そうなりますね」


「だろうね。びびっと、きたんだ」


「ロマンチックです」


「でもさ、それをお前に返すってなったら。お前はそれをすんなり受け入れられるか?」


「それは…」


「…だよな。そうなんだよな、迷うんだよな。お前は。」





「最初から、なにか違和感を感じていたんだ。お前はおばけとかと似たような存在であることは解ってたんだけど、なにかが違った」


「…」


「それで、お前と話してるうちにわかったんだ。普通のおばけとかはあっちの世界に未練があるんだ。うらめしやってね。よく聞く話だ」


「しかし、お前はこっちの世界に未練があったんだ。自分がおばけである事を望んだんだ」


「…そう、なります…かね?」


「あぁ。俺はさ、このまま無理やりお前にこれを渡してもいいんだ。でもさ、そんなの、お互いの為にならないだろう?」


「…そうですね」


「だからさ、ちょっと話そうぜ。適当にその辺でも周りながらさ」






「うわぁ、夜風が気持ちいい」


「ひんやりとしてるな」


「ここまで気持ちいいと、わたしの思ってることがぽろっとおちちゃいそうです」


「おとしてけ」


「おとしちゃいます。ぽろっと」


「ぽろっとおとしてけ」





「こういう時、なんて言えばいいんでしょうね」


「ん、なんだ」


「こういった、なんていうか、あらためるというか、はなすというか」


「なにを言ってるんだ」


「まぁ、つまりアレです。仲の良い友達に告白をするような…」


「あぁ、なるほど。わかんないけどわかる」


「どうしましょう」


「どうもしないよ」




「私がおばけになったのは今からちょっと前、二週間ほど前の事です」


「そんなに前からなのか」


「はい。深夜徘徊を趣味とした私はある日の深夜、信号を無視したトラックにはねられたのです」


「危ない趣味だな」


「その結果がこちらになります」


「誇るな」





「幸い命を落とすには至りませんでしたが、大量の命を落としてしまいました」


「まぁ、病院のあんなところにいたしな」


「はい。そして私は気がつくと、とある交差点に立っていたのです。どうやらにんげんは命が減ると、おばけになるみたいです」


「結構ざっくりだな」


「本当にこんな感じでしたから仕方ないです」


「仕方ないのか」


「仕方ありません」




「そこで私は病院を訪れ、寝ている私を見て思ったのです。このままでもいいかな、って」


「…何故だ?」


「いや、特に理由はないんです。むしろ、あるほうがおかしいのかな」


「え?」


「私は別に学校でイジメを受けているわけでもありません。親に虐待を受けているわけでもありません」


「至って普通というわけか」


「そうです。普通だからこそ、私はこれを望んだのです」


「おばけとして、か。悪くない趣味だな」




「中二病さんは思いませんか?」


「何をだ?」


「普通の日常っていうのは最高です」


「最高だな」


「でも、恐らく一番楽しくはないです」


「ほう」


「だから、私はこれが一番楽しいのか、確かめているのです」


「なるほど」





「で、結果は?」


「まあまあです」


「楽しいのか?」


「日常とあんまり変わりませんでした」


「だろうな」


「ただ、人から認知されなくなった程度で対して変わりません」


「普通の人ならそれって大きな違いだけどな」


「ぼっちで悪かったですね」


「そこまでは言ってない」


「ぼっちだって生きてるんですよ」


「そうか、悪かったすまん」




「恐らく、私はあれなんです。いても、いなくても変わらないような存在」


「そんな事があるか。お前にいてほしいとか思う奴は誰かしらいるだろう。例えば…親とか」


「親は別枠です」


「え?」


「娘一人の心配もできないような人間は親とは呼べないんですよ」


「なるほど」


「私は親に心配されて当たり前なのです」


「なんで上からなんだ」


「おばけになると、気は強くなるものですよ」





「で、お前はどうしたいんだ?」


「う〜ん、このままでもいいかな、という反面元に戻りたいような気もします」


「やたらふわっとしてるな」


「実際の所、今の私とあそこに横たわっている私のどこがちがうのでしょうか?」


「確かにそうだな」


「心の在り処を問われてその心がどこにあるか、という質問に似ています」


「答えはわからないってやつだな」


「そうです。結局、私はどうしたらいいかわからないんです」





「そして、わからない私はわからないまま時間を過ごしてきました」


「ほう」


「どうしたらいいのかもわからないまま、私は街をさまよい続けたのです」


「そこで、俺に出会ったと」


「そうです。びびっと、きたのです」


「まぁ、ロマンチック」





「私は、にんげんに戻るのが怖いのかもしれません」


「え?」


「なにもない、平和で和平で平々凡々な日常。そんな毎日に戻るのが怖いのかもしれません」


「何故だ?」


「理由は…何故でしょうか。生きる意味をなくした、とかそんな感じ…?」


「なんだそれ、中二病じゃないか」


「それじゃあ私も中二病ですね」


「よう、中二病」


「やあ、中二病さん」





「あ、病院」


「もう一周してきたのか」


「あっという間でしたね」


「あっという間だったな」






「…厳密な理由を言いますとですね、私にはなにもないんです。なーんにもない」


「どういうことだ?」


「私には、なにもないんです。辛い過去も、強い復讐心も、未来への希望も過去への絶望も」


「…」


「にんげんっていうのはなにかしら、そういったものを心の何処かに貯めて生きているんです。それを拠り所にして、生きる糧として、生きているんです」


「それを、お前は持ってない、と?」


「そうなります」





「必要ないけど、必要あるもの。それが私には足りないんだと思います」


「必要…」


「そんな私が生きててもいいのか。そんな私が生きる意味とは。どうして、私は生きなければならないのか。私には答えがわからないのです」


「答え、か。ちょっと待ってろ」


「え?」





「ん、これ」


「えっと、これって…花?」


「そうだ。正確には彼岸花だな」


「なんでこんなもの…」


「まぁ、いいからいいから。着いてこい」


「なんなんですか一体」





「またここですか」


「集中治療室にカムバックだ」


「…ってことは…」


「あぁ、つまり今からお前の体に、命を戻す」


「なんでですか?あれだけ話をさせておいて、私の気持ちは無視するんですか?」


「そこでこいつだ」


「それって…ピクニックの時に拾った…」


「あぁ、あの命だ」





「これと、お前の命を今からお前の体に戻す」


「えっと…それってどういう…」


「これからお前には生き返ってもらう。でも、全く別の知らない誰かの命を持ってだ」


「それって…」


「お前は何も持ってないって言ったよな。だったら、何かを持たせる。俺が持たせてやる。お前は、生きてもいい人間だって証明を与えてやる」


「なんで、そんなこと…」


「別に、ただの自己満足かな」





「そもそも、そんなことして私の体は大丈夫なんですか?」


「んー、多分パンクするだろうな」


「じゃあ…」


「だから、余ったお前の命は俺が貰う」


「えっ」


「別にいいだろ?減るもんじゃないし」


「思いっきり減ってるんですがそれは」


「まあまあ、代わりのものがあるから」






「と、言う訳で今から戻します」


「さらっと中に入ってますけど、これ見つかったら結構大変なことじゃないですか?」


「あぁ大丈夫、俺、人間から認知されないから」


「え?」


「俺さ、昔ちょっと腐ってたことあってさ、それのせいでなんというか、世界に嫌われちゃったんだよな」


「えっと、話が全くわからないです」


「まぁ、平たく言えば世界に嫌われたせいで、人間から認知されなくなっちゃったんだよ。おばけでも人間でもない、中途半端な存在さ」


「…って事は、私が人間に戻ったらあなたは…」


「…まぁ、認知できなくなるだろうな」


「…そんなの、嫌です」


「だーめ、お前は人間戻らなきゃ駄目だ」






「なんでそこまでして私を人間に戻したがるんですか?」


「俺とお前ってさ、ちょっと似てるなって思っちゃったんだよ」


「え?」


「特に、生きる意味がわからないってのはそっくりだった。俺はそれを考えてさ、結局世界が嫌いになって、それのせいで世界に嫌われて、嫌な悪循環だよ」


「…」


「でもさ、お前は俺みたいになっちゃ駄目なんだ。お前こそ、延命すべき命なんだ」


「なんで、そこまで…」


「お前は、俺なんだ。腐る一歩手前の俺なんだ。俺は、自分を救いたいんだ。自己満足だよ、自己満」


「自分を救いたい…ですか」


「そう、そうだよ。自分を救う。だから、お前を延命させる。なんか文句あるか?」


「…ないです。なーんも、ないです。どうせなら一思いにやってください」


「よし、そういうことなら、一思いにやらせてもらうぞ」






「お前はあっちを向いてろ」


「えっ」


「なんだ、文句あっか」


「どうやって命を戻すのか、私気になります」


「戻すったって、普通に、ガッ!ってやるだけだしなんかめっちゃ眩しいからやめといたほうがオススメだぞ」


「なんですか、それ。なおさら見てみたいです」


「まあまあ、こういう時は俺に従っとけって」


「えー、ぶーぶー」








「それじゃ、戻すぞ」







「……ん、」


「ここって…」


「あぁ、病院か…」


「…やっぱり見えなくなっちゃうんですね」


「こんなのってズルいですよ」


「中二病さん…」


「…あ」


「彼岸花」


「…なんか意味あるのかな」


「…帰ったら、調べてみよう」






「うっわ、深夜の病院って意外と怖い」


「さっきまではあいつと話してたからあんまり怖くなかったけど」


「それにしても、人と話すのなんて久しぶりだったなぁ」


「…何年ぶりだったっけ」





「あ、彼岸花」


「俺も一つ、もらっていこう」


「悲しい思い出…か」


「俺には、必要ないかもな」


「あっ」


「あいつの余った命、どうしようかな」


「…そっと、戻しておきたかったな」






そう言うと、世界に嫌われた男は綺麗な命を眺めるのでした。





おしまい





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