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*花のようにわらい*

作者: 宇佐美

「好きデス!」


「嫌いです。」

体育館裏での至ってありふれた普通の告白。

それをこっそり覗くちぃちゃい少女が1人…。

「きょーちゃん〜何で今の人断っちゃうの?」

「…花。男の頭ん中なんてヤル事しか考えてないんだって。それにあたし理想高いから」

「ふ〜ん。あたしも恋がしてみたいなぁ…」

花は人差し指を口にシッーの形で押し当てて、男の人について分かったような分からないような複雑な顔をしてきょーと校舎内に戻って行った。

今朝は一段と寒くて空気が澄んでいる気がした。

この寒さと365日の全ての空と三度の飯が花はとっても大好きだ。

グラウンドでは朝練の最中らしく野球部とサッカー部がボールを使っているのが見えた。

「ららららん♪きょーのお昼は、か…」

お昼の事で頭の中がいっぱいだった花は突然身体が後ろへ強く傾く。

ボフッ ドサドサッ気がついたら仰向けになって男の人の着ていた学ランに頬を擦っていた。

「??!」

『すいませーん!大丈夫ですかー?』

「なんとか。あんたも早くどけろよ」

頭からお昼が吹っ飛んで状況が少し理解できてきた。

サッカーボールが花めがけて飛んできたところをこの人に助けてもらったのだ。

「?!!」

二人はその場で制服に付いた土をパタパタとはらう。

花がお礼を言おうと、あ、っと声に出すより早く向こうが口を開いた。

「あんたトロいし、重いのな」

とだけ言うと、その場を後にした。

残されたのは花だけ。『すいませーん!ボール取って下さい』

「自分で取って下さい…」

『エッ?』

「きーょーちゃーん!きょーちゃん、きょーちゃん、きょーちゃん、きーょーちゃぁ〜ん!!」

「何?なに?ナニ?花子さん」

「違うもん!花子ぢゃないもん。花だもん」

プーと、ふくれっ面になる。

「はいはい。で、あんだけあたしの名前連呼して、どーした?お昼忘れた?」

「違うの!違うの!あたしね、あたしね…」

頬がほんのり紅色。

「‘恋’をしたみたい」

「んぁっ!?花が?」

さっきはほんのり紅色だった頬が今度は顔全体が真っ赤に色づいていた。

「相手は相手は誰?どんな奴よ」

「背が高かったような気がする」

「それでそれで?」

「口が悪かった気がする」

「…それで、それで?」

「頭良さそうな気がする」

「…名前聞いてこなかったでしょ?」

「さすが、きょーちゃん。何でもお見通しだね」

「生まれた時から16年間ずっと一緒にいりゃあ、なんだって解るよ」

「エヘヘッ。でも、先パイってのは分かったよ」

3年B組 体育科

「どお?いる?」

花ときょーは、今朝話していた相手を捜すために廊下から教室をよく見渡した。

「いた!!」

彼は窓側の一番後ろの席で友達であろう男子と雑誌を見ながら話したいた。

「加賀先パイじゃん」

「…加賀先パイ」

「そう。バスケ部の。モテるらしいよ」

きょーは花がどんな行動に出るのか、ジッっと待った。

自分の意見をうまく人に伝えられない花の事だから、このまま帰るって言うと思い込んでいた。ところが花は

「帰る」

どころか、しばらく黙ったと思ったら。

「いってくる!!」

「?!!ハッ!」

花は教室にズンズンと一人で、加賀めがけて躊躇う事なく足を進めた。

「…ぁ、」

「あれ?君…今朝加賀が助けた子じゃん」

「はぃ!ぁりがとうございましたっ」

緊張でうまく声が出ないし、裏がえったりで顔が火照っているのが花には分かった。

スッーハァー深呼吸で気持ちを落ち着かせる。

いつの間にかクラス中が聞き耳を立てていた。

「好きです!」

きょーとクラス中が一度ゴクゥっと、息と唾を飲み込む。

「悪いけど、」

「おっ、オイ。な…」

「なんでですか?」

「女なんてすぐ泣くし、メンドー。第一俺あんたの事知らないし」

「ぢゃあたしの事知ってもらったら、加賀先パイがあたしの事を好きになってくれる可能性があるわけですね!」

「…な」

「あるかもねぇ〜俺純也。よろしくね。え〜と…」

「花です。よろしくです。頑張ります。明日も来るです」

「いよーおいで」

「勝手にしろ」


「加賀…耳赤いぞ」

「うるさいっ!」

ボカッ

「イッテッーほんとの事言っただけなのに。殴るこたぁーなくねぇーか?」


「花!」

「きょーちゃん!」

「花。よくやった!」

「エヘヘ〜きょーちゃん。あたし頑張ってみるよ!」

昨日の告白劇から一夜明けて、今朝は昨日よりも幾分暖かくて首元のマフラーが邪魔にさえ感じる。

花の体中は加賀への想いとそのドキドキ感で満たされていた。

こんな気持ちは初めてだった。

何せ花にとっては、初恋と呼べるものだから。

だから、よけいに頑張りたいとも思っていた。

「加賀先パイ!おはようございます!!」


「加賀先パイ!おはようございます!!」」

今日はボールにぶつかるなよ」

「大丈夫ですよ〜」

プーっと、膨れてみせた。

膨れた花の頬を見て、加賀は少し可愛いと思った。

でも、口に出すのは恥ずかしいし、自分には似合わないから言わない事にした。

そんな事を考えている間にも花は一人でしゃべり続けている。

「んあっ?」

「モォ〜ちゃんと聞いてて下さいよ〜先パイ今日は学食なんですか?」

「あぁ」

「よかった〜!お弁当作ってきたので食べて下さいっ!」

「嫌、いい」

「食べて食べて食べて下さいぃぃ〜!」

「ん」

両手をつっこんだポケットから左手を出す。

この場合、迫力負けしたというか、こう自分の周りでキャンキャン言われると身が保たないので黙って受け取る事にした。

花はニコォーっと笑いオレンジ色のリュックから青色の布に包まれたお弁当を加賀の左手に手渡す。

そしてもう一度嬉しそうに笑った。

「次移動だから早く行かないと最後の片づけ遅くなっちゃうよ」

「待って待って〜」

花ときょーはエプロンを抱えて足早に家庭科調理実習室へと向かう。カシャカシャ

「きょーちゃん。これも入れていいよ〜」

「あいよ」

プリンとチョコレートブラウニーを作る予定で、花ときょーはブラウニーの材料を順番に従って、ボールの中で混ぜ合わせる。

「花はもち加賀先パイにあげるんでしょ?」

「うん!」

『何!?花って、付き合ってる人いるの?』『そうなの!?』

「違うよ〜あたしが勝手に好きなだけ…」

「だから、頑張り中なんだよね」

『だったら、このお菓子作りうちらも頑張んなきゃね』

「みんなぁ〜ありがとっ!」

『ほらほら、手が止まってるよ』ザワザワザワ『各班片づけが終わったところから教室に戻って、プリント書いて先生の机に出してってね』

「花〜すぐ先パイんとこ行く?」

「プリント出してからにしよーよ。荷物あるし」


「加賀ぁ〜べんとーうまかったかぁ?」

「まあ」

「花ちゃん今日も来るって?」

「多分な」

「なんだよ、多分って。おまえなぁ…もうちょっと素直になんねーと、いつの間にか大切なもの失うぜ」

加賀は黙って、10年前のあの運命の日を思い出していた。〜10年前〜 加賀8才

「ただいまー」

「おかえり〜お兄ちゃんちょっとおつかい行ってきて〜」

「ヤダよ!これから純也んち行って、新しく買ったゲームするんだ」

「じゃ、何を言っても無駄のよーね」

加賀の母親は、水色のエプロンがよく似合うショートカットの女性だ。

腰に手を当てて、加賀を元気に送り出した。

これが最期だった。姿を見たのも会話をしたのも…

「母さん!母さん!!目を開けてよ…お願いだから…ううぅぅ……か…あさん」

「そんなに泣くと母さんが心配する」

「父さん…おれが悪いんだ!おれが、おれがおつかいに行ってれば母さんは助かってたのに…」

「おまえの性じゃないさ。母さんだって、おまえが無事でよかったと思ってる」

「父さん」

父親は加賀の目線の高さまでしゃがみ、両手で頬を包む。

「母さんは天国に逝ってしまって、もうココにはいない。だが、おまえと妹のさくらという宝物を残してくれた。家族の思い出もある」

「…ぅん」

「それに、母さんはいつも笑顔だったんだ。おまえがいつまでも涙を流してるより笑顔で過ごす事を望んでるはずだ」


「…ィ、加賀先パイ!聞いてますか?」

「あ?」

「おまえなぁ…花ちゃんがお菓子持って来てくれたんだぜ。だけど、加賀はいらな…」



「いる」



「よかったぁ〜甘いもの嫌いだったらどーしよーかと思ってました。どーぞ」



「あたしのはそっちの先パイがどーぞ」



「ありがとーネ。香子ちゃんだよネ?」



「わー純也先パイはきょーちゃんを知ってるんですか?」



「知ってるよー有名だもん」



「キャーッきょーちゃんゆーめーじーん」



「自己紹介の手間が省けたわね」






「花〜掃除終わった?帰るよ〜」

「う〜ん…アッ!加賀先パイとこに忘れものしてきちゃった」

「一緒に行こうか?」

「うぅん。一人で行ってくるから下で待ってて」

「あいよ〜」

パタパタパタ三年B組 教室前

「加賀おまえよく甘いもの食べたなぁ〜ジンマシン出るくらい嫌いだったのに」

「おまえが素直になれって言ってたし、あいつ頑張ってたからな」

「優しいのねぇ〜加賀ちゃんは」

「うるさいなっ!」

ボカッパタパタパタ

「大丈夫だった?…顔赤いけど、何かあった?」

「…ぁ」

「?」

「やっぱり加賀先パイがスキ」

走って赤かった頬が照れて、さらに赤みを増した。

今日は夕食前に、いわゆる女の子同士の長電話をしている。

議題はもちろん『いかに気持ちを伝え、花を知ってもらって好きになってもらうか』である。

「手紙?」

『そっ。手紙を書いてみたら?』

「何て書こうかなぁ〜」

『花が加賀先パイに一番伝えたい気持ちを書けば、いいんだから』あたしは加賀先パイに一番何を伝えたいんだろう?加賀先パイ…花はすぐに机に向かって手紙を書き始めた。

それは可愛らしい花模様の便箋。コンコン

「はーい?」

「花〜悪いんだけど、おつかい行ってきて。お釣りで好きなお菓子一個だけ買っていいよ」

「やったあ」

加賀への手紙を机に残し、寒くないように手袋とマフラーを持って玄関で靴を履く。

「よしっ」

「気をつけて行ってきてね」

「うん。大丈夫だヨ!いってきます」

ガチャッバタン

「ハァーッ」

外はだいぶ暗くて、鼻先を冷たい冬の風が掠める。

「くーださい」

「花ちゃん、久しぶりだね。おつかいかい?」

「うん!晩ご飯で使うジャガイモとニンジン買いに来たの」

「エライねぇ。おばさん関心だよ。今包むから待っててね」

しばらくするとおばさんは袋にジャガイモとニンジンを入れて戻って来た。

「はい。少しサービスしといたから。また、来てね」

「おばさん、ありがとー」

「気をつけてねぇ」

「バイバイ」

八百屋から近くの駄菓子屋に入り、キャラメルを一箱買った。

封を開け、一粒目を口に頬張る。すると、とたんに甘い味と香りが広がる。

「んぅ〜」

おいしさと幸せを逃さないように目をつぶり、手は握り拳を作る。

みなさんも自分の好きなものを食べる時、とても幸せな気持ちになるでしょ?それです!それ!花の心には加賀を想い、慕う気持ちで踊っている。

恋を知ってから周りにあるもの総てが違ってさえ見えた。キラキラしている。

「♪」

キキィーッ ドォーン…突然の出来事で花には理解できなかった。

ただ今まで見ていた景色が変わり、身体が軽くなってフワリと宙に浮いたのは解った。

「あっ…」

ドサッ ゴロゴロッ花が最期に見た景色は、それは綺麗な綺麗な冬の星空。

「おばさん!花は?花は?」

「部屋で待ってるから、行ってあげて…」

花の母親はだいぶ泣いたのだろう、目が真っ赤で痛々しかった。コンコン返事がない。ガチャッ

「…花?」

恐る恐るベットに寝かされている花のところまで行く。

きょーは花の顔を見て涙が止めどなく流れ落ちる。

「うっ、ぅぅ…っ」

「…きょーちゃ…ん…お願いが、あるの…」

「なに?」

「か、加賀先パ…イに、手紙を」

「渡せばいいのね?」

「ぅん、机…の上に」

「もうしゃべらないで…」

「もう、ひ…とつ」

「なに?」

「加賀…先パイに、この顔…見てほしくないの」

この言葉にきょーは嗚咽が止まらなくて、涙を流しながら両手で必死に口を押さえ込んでいる。

花の顔は事故に遭った時ほとんど形をとどめてはいなかった。

特に目元が酷く、どこが目なのか分からないほどに潰れてしまっている。

この目ではもう何も見る事はできない。

友達も大好きな人も、冬の空も…。

家族一人一人と言葉を交わした後に、花は静かに息を引き取った。

花が加賀に恋をして3日目の朝だった。

葬儀は本人の希望により、極少数の親しい人たちで行われた。

「今日花ちゃん来ないねー?」

「…あぁ」

「せっかくお菓子のお礼しよーと、加賀が映画のチィケット持ってきたのにねぇ」

「…あぁ」

〜次の日〜

「今日も来ないねぇ」

「…あぁ」

「…加賀ってアホだよねぇ」

「…あぁ」

「ダメだなぁ。こりゃ…」

加賀は自分でも分かった事がある。

淋しいのだ。

花の笑顔が自分に向いていないと、とてつもなく不安になる。

逆に言えば、花が好きになっている。

花が亡くなってから3日が過ぎて、加賀と純也のところにきょーがようやく姿をあらわす。その右手には花の手紙を持って。

「あっ!…どうしたの?」

「あいつは…?」

きょーの顔を見て二人はすぐに何かあったんだと、直感で感じた。

前に見た凛とした表情にも見える。

しかし、今にも崩れてしまいそうで弱々しい感じもまたした。

ゆっくり深呼吸をして、首を左右に振る。右手の手紙を加賀の胸の高さに突き出す。

「…一人で読んであげて。この手紙を読んでもらう事は花が望んだ事だから」

「あいつは?」

「お願いっ!早く、受け取って」

「あいつは!?」

「…もう、どこにもいない」

「何があったの?どーしてすぐに言ってくれなかったのさ?」

「交通事故で…それも花が、望んだ事…酷い顔だから見てほしくないって…うぅっ」

そこまで言って、きょーの瞳から大きい涙の粒がポロポロと次から次へと流れ出した。

そうしていると、周りから取り残されたような、独りきりのような気がしてさらに涙が流れる。

加賀は力無く手紙を受け取ると教室を一人出て行く。

「ォッ、オイ!か、」

「一人でいい」

「そうか…俺待ってるから。加賀のこと、ここで」

「…あぁ」

加賀は息苦しさから抜け出すために外を求めた、空を風を求めた。

ガチャッキィィーッ屋上へと繋がるひんやりと重圧感のある扉を抜ける。

太陽が高く眩しいのに無意識に目を細めたフェンスに寄りかかりゆっくり手紙を読み始めた。

『加賀先パイへ嫌いな甘いお菓子を食べてくれて、とても嬉しかったです。

ちょっとコワイけど優しい。

そんな先パイの隣でずっと、ずっと笑っていたいです。

*花*』涙が流れていた。

立っていられなくなって、座り込む。風が強くて、ビュービューと唸っていた。

「…何だよ。ずっと隣にいるんじゃないのかよ…そばにいてくれっ!」

どれくらい時間が経ったのだろうか。

だいぶ陽が傾き空は紫色に染まり、夜になりつつあった。

教室に戻ると窓際に純也が頬杖をついて、加賀を待っていた。

「おかえり」

「いたのか」

「…加賀、おまえは何も悪くないよ」

「…」

「…後悔してるんだろ?自分を責めて泣くのはよせよ。花ちゃんが心配するから」

「…オヤジと同じ事を言うんだな。」

「泣き顔より笑顔でいろよ」

「…そうだな。ありがとう」

いつの間にか空は星と月が輝いている。

加賀は涙をこぼさぬように空を見上げて、深く空気を吸い込む。そして

「ありがとう」

と、小さく呟いた。

人は一人では生きていけないけれど、独りではない。

あなたには大切な人がいますか?笑顔、泣き顔を見せれる人がいますか?いるなら、大事にしてあげてください。

いつまでもあなたのそばにいるとは限りませんから…

初めての投稿なので、文章・表現がいまひとつの処は多々ありますが…多めにみていただけるとありがたいです。

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