After DIE HARD END 9
(明け方4時)
(午前六時)
(明け方4時)
ファレルは、夕食後少し頭が、ぼんやりしたので、トイレに行く事を求めた。彼は、トイレより顔を洗いたかった。
ここ迄のファレルの従順な、彼等のリクエストに協力する態度から、リーダーは、許可を出し、解放軍のテロリストをファレルに付け、トイレに向かわせた。
ファレルは、トイレより顔を洗いたかった、そしてトイレには、顔を拭うタオルが、無い事を知っていた。
テロリストが、英語を理解するか分からなかったが、一応彼は、その旨を尋ねた。
彼は英語で『タオルのある場所があるのか?』と尋ねて来たので、備品倉庫がある事を教えた。
テロリストは、其処が、倉庫である事は、知っていたが、備品倉庫である事迄は、把握していなかった様だった。
リーダーに連絡後、備品倉庫の内容把握の為に、彼は、ファレルに許可を出した。
ジョンと山本は、トイレではなく、此処へ誰かが?来る気配を察知したので、慌てて、棚の陰に隠れた。
電気が付き、カーテンが開けられ、棚が露出した、其処には、事務用品が、一列目に、隙間なく段ボールに詰められて置かれており。その陰に、レトルトや、エナジーバー等が入っている、段ボール(保存食)が、やはり、隙間なく収納されている二列目以降の棚があったのだが、ファレルの目的は、タオルだったので。二列目以降には、目もくれず、一列目の最下段にある、段ボールを動かし、其処からタオルを抜き出そうとした。
その時、ジャックとファレルは、目が合った。
ファレルを監視しているテロリストは、しゃがむファレルの少し後ろで、上から目線で監視していたので、背後に隠れる棚や、ジャックの存在には、気が付いていない様であったが。この棚の無記名の段ボールに、多くの備品(主に事務用品)が収納されている事は、把握した様であった。
ファレルは、ジャックの存在は、奥備にも出さず、目的のタオルが入手出来たので、トイレに向かおうと、テロリストの前に出た。電気が消え、部屋の扉が閉じた。
ファレルがトイレで用を足し、ついでに、洗顔と体をタオルで拭いた仕草を少し離れた場所で眺めていた監視役は、ファレルの行動以外、備品倉庫に保管されている物が、事務用品である旨をリーダーに報告していた様だが、そうなのか、どうか?彼等の言語をファレルは、全く判らなかった。
只、あそこにジャックが居る、という事は、山本も、あそこに隠れて、何か?をしようとしている事だけは、確かだ。と言う計算だけは、していた。
中央制御室のコンソールの前の定位置に戻って、ファレルは、感謝の言葉を、リーダーに投げかけ、そろそろ朝食の準備をさせた方が良いという事を伝えた。
前回、夕食は、来るのに1時間以上かかったが、朝食には、準備に、もう少し、時間が必要だろう。という見解も添えていた。ファレルの言葉に、嘘はなく。実際、カン以下、テロリストにはコーヒーが、必要だった。ファレル以外の人質は、うとうとする事は(寝られ)出来ても、テロリストは、寝る事は、出来なかった。
北朝鮮系のテロリストは、制御室のコンソール盤に座る、朝鮮語でしか会話が出来ない女性も含め、何か覚醒剤の様なモノを使用していたが、解放軍側のテロリストは、その様な、物騒な薬品は、持ち合わせていなかった。
彼女が、コンソールと、彼女のラップトップの壁紙に使用していたのは、此の箱の見取り図であった。ファレルは、彼女が、その画面に切り替え、一旦作業を中断するチャンスを狙っていた。
カンは、新垣(仲宗根)を呼び出した。彼女は、その言葉を聞いて、作業中の画面を、静止画に切り替えた。
ファレルは、その画面を横目で見て、ジョンと山本の作戦が何か、凡そ検討が付いた。見取り図は、英語表記の儘であった。
明け方4時過ぎに、呼び出された仲宗根は、再び、60人前の朝食とコーヒーの準備を請け負ったが、1時間半は、準備に最低欲しい旨、カンに伝え、カンも、その程度の猶予は、了承した。
コーヒーの代わりに、水とコーヒーメーカーを準備する旨、仲宗根は、伝えた。
「日本人は仕事が早い」
カンとリーダーは、再び、ほくそ笑んでいた。
コーヒーメーカーには、或る仕掛けが、ジャックと山本の指示で、仕込んであった。これに盗聴装置等を仕掛ける事は、電波が届かず、遠隔操作のできない環境では、無意味な事は、両者とも分かっていた。
故にカンは、あっさりとこの申し出(コーヒーメーカーの搬入)を了承した。
六時過ぎに、箱に再び、朝食と指示されたコーヒーメーカーを搬入する連絡が届き、特警隊も、六時前には、トイレ横の茂みや、桟橋横の海中に身を隠して待つ旨、仲宗根はジャックと山本に連絡した。
このトラックには、仲宗根の部下が仲宗根と共に武装して張り付く事が決まっていた。コーヒーメーカーと水は、一台の保冷車には、乗り切らないという物理的な理由であった。
特警隊の武装が、サプレッサー付きのMP7なので、此方の日本人警備隊にも同じPDWが、海兵隊より貸与された。彼等は、この銃も、使い方は熟知していた。
この作戦は、ジャックを覗き、全員が日本人による初めての、対テロ人質奪還作戦となった。
只、作戦の骨子は、ジャックと山本、そして、横須賀のシールズが、立てた案に沿っていた。
(午前六時)
今回もサンドウィッチになったが、コーヒーとの組み合わせの場合。これ以外に、良い案は浮かばなかった。
只、一リットルの、無記名のペットボトルと紙コップが、二ケースと、日本や韓国のコンビニに置いてある、大型のコーヒーサーバーが搬入されるので、搬入の車は、二台。
一台を仲宗根が、もう一台は、仲宗根の部下ではなく、新垣が運転して来ていた。
車に余計な人間は居らず。面が割れている人間が搬入してきた事。
そしてコーヒーサーバーも、見慣れたモノであったので、カンは、安心していた。
しかし既に、対テロ訓練を経験している日本人警備隊とSATの隊員が、数時間前に図上チェックで、監視カメラの死角を探し出し、双方黒尽くめの衣装で、箱から10メートルの物陰やカメラの死角の壁際に隠れていた。
勿論、彼等の手には、サプレッサー付きのPDWがあった。
朝まだ6時と云う事で、周囲は徐々に、明るさを増していた。
サンドイッチの搬入後、コーヒーメーカーと水等の入った段ボールが、二ケース搬入された事を確認し、彼等は、立ち去ろうとしていた。
コーヒーメーカーは、制御室のコンソール横のコンセントの傍に配置され、英文の使用説明書が付いていたので、それに従い、給水口に四リットル(ペットボトル四本分の水を入れ、豆をセットし、電源を入れた。途端、コーヒーメーカーは、大音響で破裂し、コンソールには、大量の水と豆が、撒き散らかされた。
爆発音がした、直後、全館の電気が突如落ちた。
その後、破壊されたコーヒーメーカーのコア部分から、閃光弾が、数発飛び出し破裂した。
これで室内に居た全員の耳と目は、一瞬使い物にならなくなった。
その時、満を持して、中央モニター横の隠し扉から、海兵隊が持っていた暗視装置を付け、耳栓をした、ジャックが、飛び出し、先ず、ファレルの横に居たリーダーと思わしき人物を射殺した。
ジャックは、モニター裏で待機し、倉庫から、敵に気取られずに、此処まで安全に脱出できたルートで、再び、舞い戻って来たのだった。
全ての館内電気が死んだと同時に、全ての電磁錠は、使い物にならなくなったので、仲宗根麾下の日本人警備隊と、新垣の指揮下のSATが正面より、裏口からは、特警隊が、突入した。彼等は全員、タイプ5規格の防弾ベストと、暗視ゴーグル付きのヘルメットを着用し。新垣麾下のSATは、要人保護を先ず心がけ、SAT隊員のみが持参した、やはり同じく、耐小銃弾仕様のタイプ5相当の、アタッシュケース型の折り畳み式防弾盾の内側に、要人を隠した。彼等SATを守ったのが、仲宗根麾下の日本人警備隊で、彼等も、米軍仕様のタイプ5相当のベストに、ヘルメットには、米軍仕様の暗視装置を付けていた、テロリストの射殺は、専ら、暗視ゴーグル付きヘルメットを装備した、特警隊と、米軍仕様の暗視装置を使っていたジャックの仕事であった。
コンソール上のテロリストが使用していたPCは、彼女により物理的に破壊されていたが、カンの手には、彼女から渡されたUSBメモリーが、しっかり握られていた。
彼女は、倒れた、リーダーが背にしていた九五式で、果敢に特警隊に、応戦したが、敢え無く撃ち殺された。
最初の爆破で、コーヒーメーカー近辺に居た解放軍系のテロリストの動きを止める事が出来たが、特警隊の侵入路でもある、唯一、桟橋に近い裏口から外へ出られる通路へカン以下、混成のテロリストが殺到し、特警隊員と撃ち合いになった。
暗闇の中で、然したる遮蔽物も無いテロリストの中で、数名のテロリストが、幸運にもがカンと共に、銃を闇雲に、連射しつつ、外に止めてあったトラックに乗り、桟橋へ向かう事が出来た。
しかし、敢えてジャックも特警隊も、無駄な応射をせず、彼等を追いかける事も、しなかった。
そして室内の要人保護と、室内に残るテロリストの殲滅に、寧ろ注心した。
ファレルは、横たわる二人の死体が邪魔だったが、一方の死体が破壊したPCの影響下に未だ、このシステムの核心が入っていない事を確認し始めた。
横たわる二人の死体は、人質だった海自の一佐と、星三つの此処の責任者でもある米海軍部長が、片付け、ファレルの横に並び
「どうだ?」
とファレルに質した。ファレルは、海軍部長の方を見て
「大丈夫だと思います」
と力なく答えた。未だファレルは、確信が持てていなかった。
彼は、SAT隊員により自由にしてもらっていた、中富の部下に命じて、各配線部分の異常、特に、山本が破壊したと思われる、中央制御の電気系統の確認に、急がせた。それがこの備蓄倉庫の最深部であった。
先ず、電気が復旧し周囲(室内)が明るくなった。死体は、ファレルの横の2名を含め15名であった。殆どのテロリストが、通路付近で倒れていた。しかし、12名のテロリストが、無事此処から脱出した事になる。負傷こそしては、いなかったが、通路から突入した特警隊の数名は、防弾ベストに、敵弾を数発喰らい、命に別状こそないが、暫くそこに蹲っていた。
しかしVIPの中の日本人の政治家は、只ただ“此処から早く出せ!”の、一点張りで、彼等の救出に関った警察官や自衛隊員の事等、全く眼中には無く、クソの役にも立ちそうも無かった。
SATの隊長は、彼等の喚きを暫くは、完璧に無視し続け、特警隊の隊長率いる数名は、ジャックと共に外へ飛び出していた。
『官僚(政治家)め!』と心の中で呟きながら、高木は、特警隊の隊員と新垣に、テロリストの総数と、死体から割り出した、此処から逃げ出したテロリストの数、その構成を記憶の限り冷静かつ精密に説明し始めていた。
仲宗根麾下の日本人警備隊は、その横で、指揮官でもある米海軍部長の指示を待っていた。
ホーリーも、気丈に、高木の説明に対し。補足説明をしていたが。彼女の腰元には、SAT隊員により、パイプ椅子が用意されていた。
山本の処置は“流石”であった。
全ての回路には、回避線が、設けられていて、切断した回路は、その回避線を繋げば、直ぐに一時的に復旧は、出来る様に、破壊活動を行っていた。
「流石っす!」
駆け付けた、SATに付き添われた、中富職員から最初に、山本に掛けられた言葉であった。
「まぁな」
山本も、然も在りなん。と言う感じであった。彼は、館内電話が、未だ不通かも知れない。と考え、備品倉庫から、ダッシュでファレルの下へ走って行った。
「若いな」
山本は、ポツリと呟いた。
カンが左手に握るハンドカムは、未だ活きていた。彼は、潜水艦と、潜航艇の艦長に、各々、急速に此処からの緊急脱出・離脱を指令した。
解放軍側のリーダーは、殺害されていたので、彼が、実質リーダーであった。
しかし、彼は、右手に握るUSBを解放軍側の生き伸びた隊員に渡し、これを持って潜水艦で、一刻も早く逃げる様英語で指示をした。彼は、母国語以外は、英語しか話せなかった。
そして残った北朝鮮側の同志に、母国語で『各々、此処を死守し、敵を足止めする』旨を伝え、十名の北朝鮮テロリストは、桟橋横の遮蔽物や、乗って来た米軍車両の陰に隠れ、敵の追撃を待った。
結局、解放軍側の死者の方が多く、生き残れたのは、僅か二名、彼等が潜水艦にたどり着く迄の、時間を稼ぎたかった。
彼等は、北朝鮮側が、自身の避難時間を作ってくれる体制を確認し、感謝の一礼の後、潜水艦内に消えて行った。
北朝鮮の潜航艇も解放軍の潜水艦と同時に桟橋を離れた。
カンは、艦長に“自身達を待つ必要は無いので、解放軍の潜水艦のガードをしろ”と指示したのだった。
イ・フチャン(李輝燦)韓国海軍大領は、傍に横たわる死体からM9を取り上げ、ジャックや海自特警隊と共に、脱出に成功した、テロリストを桟橋方面へ追いかけた。この頃になって、やっと、SAT隊員の先導により、VIPの中の日本人の政治家は、負傷した日本人警備隊と共に室外へ退去した。
彼等は、徒歩で隣のレストハウスで休息を取り差し回されてくる車を待つことになった。
残ったSAT隊員も、米軍ファシリティーに“長居は無用”とばかりに差し回された専用車で新垣と共に、退去し、海自のアンビ(救急車)に負傷した特警隊は、自身の足で乗車した。
室内は、中富と日米海軍の関係者、及び警護の日本人警備員(特警隊)だけになった。
テロリストは、脱出に使用した、米軍車両を遮蔽物にして、彼等に対し応戦して来た。
イの手持ちは15発。むやみに撃つ事は、控えたが、ダークで見難かったが、二本線の特警隊長に、英語で
「大尉、彼は、多分少尉だが、元私の部下だ、一度、交渉させてくれないか?」
と尋ねた。二人とも、桟橋を離れた潜水艦が、今後どうなるか?は、予想が付いていた様だった。
「了解です。大佐でも、3分以内に留めてください。で我々は、一斉攻撃に移り、彼等を殲滅します」
イも、彼ら相互の装備と、員数を比較すれば、この大尉の言葉が、嘘や“張ったり”では、ない事は、理解できたので
「了解した」
と答えた。
「カン。無駄な、抵抗は止めて、大人しく投降しろ」
最初、彼の韓国語に反応したのは、テロリストで、イ大領(大佐)に向かって、銃が、数発発射された。
「カン!及び北朝鮮の諸君。君達と我々とでは、圧倒的に戦力差が有り、此の侭では、我々は、君達を殲滅せざるを得ない。しかもその時間は、多分、数分も掛からないだろう。その様な、理不尽な行為は、同胞として看過は、出来ない」
多分これが最後の、イの言葉であった。
「ふざけるな!傀儡政府(南)の犬を我々は、同胞とは看ていない」
カンからの口汚い反応であった。
「大佐、敵は、何と言っているのですか?」
特警隊の指揮官は英語で尋ねた。
「やむを得んという事だろう。大尉」
「そうですか」
この遣り取りを合図に殲滅戦が始まった。
潜水艦が出向し、潜航、目視確認し辛くなっていた。
しかし、10名のテロリストは、僅か10分も掛からず、完璧に沈黙させられた。
「生存者の確認」
と言う隊長の指示の下、テロリストの武装は、横たわる遺体や、傷ついた体から、蹴飛ばされていた。
此方の口径が4.7ミリで、敢えて急所への直撃は、避けてくれたので、カンを含むテロリストは、虫の息ではあったが、即死では、無かった。
「カンよ、よぉく見て置け。お前たちの行動が如何に無駄な事だったのかを」
と言うと、特警隊員から、渡された“注射”をカンにし、彼の体を海に向けた。
彼の意識が、まだある内に、その事態は、起こった。多分、未だ目視可能な、海底が急にドロップオフする、珊瑚礁の切れ目付近、沖合数マイル先で大音響と共に、多分、解放軍の通常型潜水艦は、破壊された。
「ああ!」
カンの呻き声ともつかぬ慟哭が聞こえた。
「そう、これが、日米が張り巡らせた“対潜水艦索敵防御網”だよ。私も今、実際の効果を見た」
「お前が、此処から持ち出そうとした、情報を載せた潜水艦は、これで、海底に藻屑と消えた。お前達を運んだ潜航艇も、次に同じ目に合う」
「待て。アレには、情報は、何も乗っていない」
「無駄だ、嘘を言っても」
「あれは、艦長と機関員以外は乗っていない。後は、此処から奪った、主に食料となりそうな物だけだ」
「そうか。でも判断するのは、私ではない」
「航路を追跡すれば、判る筈だ、あれは大陸ではなく、直接半島に向かっている。二名の乗員以外、全ての乗組員は、皆此処で戦った」
「だから、私は言ったはずだ。大人しく投降しろと。今更、遅い」
そう言うと、イ大領(大佐)は、特警隊の隊長に彼を引き渡した。
「奴から引きだせる“特段”の、情報は無いと思う」
それがイ大領(大佐)の印象であり、彼は、隊長にそう伝えると、その場を後にした。時計は7時半を指していた。




