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After DIE HARD END 7

(交渉)

(対抗策)


(交渉)

ファレルは、制御室のコンソール盤に座る、朝鮮語でしか会話が出来ない女性の横に、椅子が与えられていた。

彼等の後ろには、銃を持ったカン少尉と解放軍らしきテロリストの、リーダーが立ち、後ろから彼らのコンソールを覗き込んでいた。

彼等の間での会話は、もっぱら英語であり、カン少尉が、それを朝鮮語に訳し、電子戦担当員の女性に指示を出していた。ファレルは、その都度、彼女の操作に間違いが無いか、確認を取らされていた。

しかし操作盤は、全て朝鮮語であったので、その都度、英語表記のコンソールに変換し直しているので、時間は、普段、彼らがする速度の、単純に、“倍”は、かかっていた。

時間は、かかったが、その結果、この端末から、基地内の全ての様子を把握されていることが判った。

この基地内に米海兵隊の特殊部隊処か、潜水艦に閉じ込めている者以外の、全ての米兵や米国人が“いなくなって”おり。全て、大人しい日本人が、此処の管理を掌握している事が、ハッキリした。

カンとリーダーは、お互いを見合い、含み笑いを交わしていた。

箱の横にあるスーパーやレストランも、(もぬけ)(から)であり、略奪し放題であった。

唯、飲み物以外、食べ物になる物は、素材のままであったので、食料の調達を依頼したのであった。

カンは、リーダーに英語で交渉し、北朝鮮側の部隊員の数名を、ここから、スーパーや空き店舗の偵察任務に行かせたい旨を上申した。これで、彼らの力関係は、はっきりした。ナンバーワンは、やはり解放軍であり、北朝鮮軍は、彼等に盲目的に従う、あくまで実行部隊兼、彼らの手足(鉄砲弾)の役割であった。

リーダーは、ここまでの、彼らの貢献を“多”として、カンの依頼に承認を与えた。略奪や略奪物の運搬先も全て、此処で把握できるので、当然と言えば、当然の北朝鮮側の実行犯に対して“御褒美”を与えた。

実際、略奪は、し放題であり、テロリストが使った米軍のトラックの荷台は、直ぐ一杯になった。彼等は、まず飲み物を、箱へ運び込み、残りの商品が満載されたトラックを桟橋に停泊している特殊潜航艇の横に着けた。中へ二名のテロリストが、交代で略奪品の運搬=戦利品を中に運び込んでいた。この作業は、数往復続き、スーパーの陳列棚やヤードに保管されていた、目欲しい、生鮮や冷凍食料品を除く、品物は、全て、略奪されていた。

基地内の監視システムが、全て乗っ取られていたので日本の警察は、その様な情報が、全く分からず、唯、箱から、米軍のトラックが、数回桟橋方向へ往復している様を、遠くから監視するしかなかった。

この様は、解放軍側のテロリストは、面白おかしく眺めていた。略奪され、彼等によって、箱の中に運び込まれた、未だ冷えている飲み物を口にしながら、彼等も、常識の範囲内で、北の生活が、そのリーダーの政策のせいで、困難な状況の“儘”放置されている事実を知っていた。ので、この行為自体“仕方がない事”と黙認するしかなかった。

この思いは、人質に取られている、李海軍大領も同じ思いで、モニターを眺めていた。

同様に、この模様だけは、中央のモニターにも映し出され、その様で、人質であった、米軍関係者の思いを消沈させる効果は、十分であった。ただ、高木が小さく

「やはり奴等は未だ“事大主義”が基本原則なのか」

と日本語で呟き、英語で“Suck upゴマすりめ”と小声で、罵った。

彼等と集団で床に座らされていた李海軍大領以下何人かの、英語や日本語を理解できるスタッフは、高木を通して、彼の失望と、テロリスト等の関係性が、分かった様であった。

テロリストは、日本人が『人命第一であり、その為には、敵であろうと、如何なる要求にも誠実に応える種族である』事。要は、アメリカ人の考え方の真逆である事を知っていた。

「七十人分のサンドイッチで構わないか?」

カン少尉の手元のハンドカムから、新垣に代わり仲宗根の流暢な英語が流れてきた。

「貴様は誰だ?」

カンは仲宗根に質した。

「私は、新垣キャプテンの下にいる仲宗根と云う者です。英語に関しては彼より私の方が得意なので、命を受けて変わりました」

「では新垣は、そこにいるのか?」

「YES」

新垣は、思い切りジャパニッシュで答えた。

「食料を運びこむ準備が出来ました。サンドイッチになりますが」

再び仲宗根が答えた。

「よろしい、では、それをもって、貴様一人で玄関先まで来い」

「了解した」

仲宗根が答えた。

保冷車に入ったサンドイッチが、箱の玄関前に、横付けされた。中から、韓国海軍の制服を身にまとったリー少尉が出てきて。

「貴様が仲宗根か?」

と米国風の日本人基地警備隊の制服を身に纏った、仲宗根に質問した。

「お前は、日本の警察関係者ではないな?」

カンは、続けて仲宗根に質問した。

「Yes、私は日本人基地警備隊の仲宗根大尉キャプテンです。此処の地理は、地元警察官より私の方が詳しい、し、職業柄、普段の遣り取りは“英語のみ”ですので、日本の警察に代わって、貴方の対応に当たることになりました。ところで、貴方をこれからなんとお呼びすれば良いのでしょうか?」

「まさか姜賽賓カン・セフィン韓国海軍少尉では、無いでしょう?」

仲宗根の最後のフレーズは、カンの気に障ったようだった。

「好きに呼べ」

カンは、にべもなく答え、

「一応毒見は、してもらう」

と言って、保冷庫に入っていた、サンドイッチの束から、一つを抜き取り、仲宗根に差し出した。

「食ってみろ」

仲宗根は、そのような事態は“想定済み”とばかりに、無造作に渡されたサンドイッチをあけ、口にした。

仲宗根に、何も異常が起きなかったので、中に運び込むために、カンは中のテロリストを手招きした。中から二名ほどのテロリストが、自動小銃を肩にぶら下げたままやってきた。彼らの武装はAKSと中国製のブルパップ(AK-74と95式)であると認識できたので、彼らは、少なくとも西側ではなく東側であることは、確認できた。

心の中では、解放軍と北朝鮮軍の工作員と思っていた。

夜九時予定より一時間遅く、テロリストと人質は、事件後、初めてまともな食事にありついた。

「さすが日本人だな、下手な小細工もせず、きっちり、此方の要求に応えてきた」

カンとリーダーは、何も隠し様も無い透明な包装で包まれた、サンドイッチを見て、ほくそ笑んでいた。

あとは、このシステムの能力把握をし、乗っ取れるかを判断し、ダメな場合は、設備を全て破壊し、脱出すれば良い。それにはファレルの協力と彼女の能力次第であった。

既に第一列島線近辺に遊弋している日米の艦船の位置は、潜水艦の種類も含め、把握できていた。

まずは脱出のための算段をカンとリーダーは、講じ始めていた。

「新垣は居るか?」

新垣の手元のハンドカムからカンらしき人物の英語の応答が舞い込んできた。

そのハンドカムは、食料をテロリストに渡して、戻ってきたばかりの、仲宗根が握っていた。

「ああ、キャプテン新垣はここにいる」

「その声は仲宗根か?ご苦労様だった。美味しく夕食は、皆で頂いた」

カンの声には、余裕があった。

「そうか、で何だ?」

仲宗根の応えは、あくまで事務的であった。

「では具体的に、こちらからの要求を言おう」

カンとは、異なる人物からの応答に変わった。

「我々は、既にこのシステムの使用方法を把握した、結果、沖縄及び北緯・・・」

要は、彼等は、指定された範囲から日米の艦船を全て退け、脱出路を作れと要求してきたのだった。

「その要求に対する返答は、我々レベルでは、即答できない」

仲宗根の応えは、尤もで、彼らは、想定の範囲内であったらしく。

「判っている即、実行に移せとは、言わない。君達に、二四時間の時間的猶予を与えよう。唯、解っていると思うが、君達の航跡を我々は、完璧に把握できている。従って、一隻たりとも、我々の要求に応じない場合は、人質を全員殺し、我々もここを完璧に破壊し、自決する。君たちに与える猶予は、二四時間だ。さっさと交渉に当たれ!」

そう言うと、彼らは一方的に通信を遮断した。

新垣は、霞が関に、仲宗根は、アメリカ大使館経由でワシントンに即テロリストの要求を伝えた。

東京と、ワシントン間では、激しいやり取りが、此処から始まる事となった。しかし、テロリストが与えてくれる、判断の猶予は、要求する“安全航路の確保”と言う観点から“数時間”と言うのが、新垣と仲宗根の見立てであった。


(対抗策)

水分補給が出来たテロリストや人質は、トイレに行く事が、必要になってきていた。流石に高齢とは言え、軍人は、そうでもなかったが、日本人の高齢の政治家は、持病もあり、食後の、トイレは、時間を要する方でもあったので、山本とジャックは、周囲の動きが慌しくなるのを感じ、新たなる隠れ場所を探す必要があった。

必然的に、彼らは、テロリストに未だ見つかっていない、キッチンが付属した備品倉庫兼食糧庫の最深部にある棚の陰に、移動していた。只、此処も、電波は、ほぼ、完全に、遮断されていた。

しかし、これを知らない人間には、単なるコードの延びた“黒い板”にしか見えない、IHヒーターが置いてあるだけの、キッチン?の換気扇の下は、例外的に外部電波が届いていた。従って換気扇の前を通りかかったときに、山本の携帯は、新垣からのメッセージを受け取っていた。

新垣が、メッセージを発信した時間から一時間半後の事であった。

彼等は、此処が、未だ敵に知られていない部屋であることが、このメッセージから分かったので、電波を受け取れる場所を探した。メール内容から、新垣と仲宗根が、テロリストと直接対峙する担当者にならざるを得なかった事を理解し、彼等と今後の対策を協議する必要が、あった。

幸いな事に、この倉庫は、備品倉庫も兼ねていたので、調度バッテリーが、半分近く無くなっていた、彼らの携帯は、外部電源ソケットを使わず、リチャージブルバッテリーを使用し、交互に、チャージする事が出来た。

中央制御室のコンソールが、テロリストに占拠されている現状を鑑みれば、外部電源ソケットを使えば、彼等の居場所が、テロリストに判明する事は、必定であった。

新垣の端末向けに、ジャックと山本は、彼等の立てた対策を打診した。

唯、その前に、内部のテロリストの要求が、彼らの下にも、伝えられて来た。

「ファレルは、未だ、この箱の本当の力をテロリストには、披露していないな!」

新垣からの連絡で、二人には、分かった、ただ、この真の実力を新垣に伝えるべきか、ジャックも山本も悩んでいた。此処の真の実力は。国家機密でもあったからだ。

山本は、新垣に、仲宗根にジャックへ直接メッセージを送るよう、依頼した。

この依頼を受け取った新垣は、正直、面白くは、なかった。しかし、山本からのメッセージは、仲宗根に見せざるを得ないので、しぶしぶ仲宗根を呼び、画面を見せた。

「新垣警部。これは、非常に、政治的な案件が含まれています。多分、山本一佐は、その点を危惧なされたのでしょう。貴方を此れ以上、政治の“沼”に落とし込む事態は、避けたいと言う事ではないでしょうか」

仲宗根は、多少、オブラートに包む様な言い方で新垣に、山本のメッセージの事態を説明した。

「キャプテン、其れはどういう意味だ?」

新垣は、より具体的な説明を求めた。

「要は、事実を知れば、貴方は、もう、元の生活には、戻れなくなる“可能性”が、ある。と言う事です」

仲宗根は、少しきつめの口調で答えた。

「ホウ。では君は、その事実とやらを知っているのかい?」

新垣は、皮肉を込めた様な言い方で質問を返してきた。

「いいえ、私も、具体的な内容を正確に把握している訳では、ありません。しかし、私は日本の公務員ではなく、雇用主は、アメリカ合衆国なので、貴方とは自ずと立場が異なります。」

「でも、貴方も日本国民だろう」

新垣は、尚も、執拗に食い下がってきた。

「そうです、しかし私の守秘義務は、日本国に対してではなく、あくまでも、合衆国政府に対してのみです。命令も、合衆国政府からのみです」

仲宗根の応えは、きっぱりしていた。

「だから、合衆国軍人同士で、内密な話をしようって訳かい。まぁ良いだろう、其処まで言い張るなら」

そう言うと、新垣は、仲宗根に、ジャックの携帯番号が書かれたメモを投げ渡した。

「ご理解頂き有難うございます」

仲宗根は、机に投げ出されたメモの番号に、英文でショートメッセージを打った。と同時にズボンのポケットからライターを取り出し、そのメモを焼き捨て、胸からタバコを取り出し一服付けた。

彼も、この遣り取りには、相当神経を張り詰めていたのだった。煙草に火をつけた後。

「すみません、新垣警部は、喫煙構いませんでしたでしょうか?」

そう云えば、日米共に、公的な場所で喫煙が許可される事は、もうずいぶん前から、何処にも無く、此処にも灰皿は、なかった。

「構わんよ!儂も実は、喫煙者だから、しかしアメリカのタバコはグロテスクだねぇ」

仲宗根の煙草のパッケージには、肺癌で爛れた灰の写真と“Smoking is kill”と、でかでかと書かれた文章が、浮かんでいた。

そう言うと、新垣も胸ポケットから国産たばこを取り出し一服付けた。

此処は、一応、国内だが、米軍の専有地(基地)の“一部”でも、あった。

仲宗根が、たばこを落しもみ消そうとした時に、彼のポケットの携帯が震えた。

それは、アーガイルからの連絡であった。一言

「電話をしても構わないか?」

と言うモノであった。

彼は、新垣をちらっと見ながら、アーガイルを呼び出した。

「どうした?」

「いや今警察なんだが、襲われた!」

「誰に?」

「明子。ジャックのステディだった女だ」

「なに?どう言う事だ!詳しく説明してくれ」

仲宗根は、電話をスピーカに切り替えた。

「彼女は、今、君が担当している事件の一味だった、要はスパイだったって言う事だ」

「ジャックは、それを知っているのか?」

「ああ、さっき連絡した。相当打ちのめされている様だ」

「で、お前等は、無事なのか?」

「傍に新垣さんは、いるか?」

「ああ」

「では、彼に伝えてくれ、差し回してくれた警官のおかげで無事だ。ただ彼等は皆、明子に殺され(やられ)た」

「そうか、連絡ありがとう」

新垣が、仲宗根の電話に向かって叫んだ。そして、

「山本さんの奥さんと子供(おこさん)は、無事なんだな?」

再度アーガイルに確認を取った。

「勿論」

新垣は、自身の電話を取り、県警本部長に、事件のあらましを取り纏めて報告した上で、ルーシー一家の保護を依頼した。

連絡後、内容を山本宛にメールした。程なく彼からの連絡が来た。其処には、お礼は無く、救出作戦の彼等なりの進め方だけが書かれていた。


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