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第1話 強制召喚とか聞いてない!!

こんにちは。

全5話(くらい?)の短いお話です。さくさく更新していきます。


エリセと先生の物語が気に入ってくださった方は、

長編『不愛想で冷徹で、ドライで、無慈悲で…近寄りがたくて、

共感力ゼロな魔法使いが、案外心地よかった話』もぜひよろしく。


※短編に集中していたので本編の更新が滞り気味です。すみません!

魔術が日常になってから、もうずいぶん経つ。

魔力を計って、変換して、研究して――それが仕事にもなる時代。

技術魔術テクノマギア》と呼ばれる、魔術と機械が同じテーブルに並ぶ世代。

あたし、エリセ・ノアリスの日常は、そこそこ平和で、そこそこ忙しくて、そして――

そこそこ振り回されている。

その原因はただ一人。

あたしが “先生” と呼ぶ、師匠だ。


魔術と魔術具に滅法明るく、研究と実験と――

普通は食べられないものを魔術で“食べられるものに変える”のが趣味という、

世界で一番意味のわからない人。

(あれは絶対に調理じゃない)

無口で、不愛想で、必要最低限の言葉しか話さないくせに、

それでも許せてしまうのは――その顔が、あまりにも整っているから。

無表情で命令されても、睫毛の影が艶麗で、つい従う自分に腹が立つ。

せめて、たまには微笑んでくれ……!


「……三行で報告しろ」

「先生、それ三行どころか三文字ですよね!?」

――いつもこんな調子で、あたしの平凡な日常は過ぎていく。

まあ、不満はない。

退屈だけは、しなかったから。

――ほんの数分前、足元から突如として眩い光が噴き上がるまでは。

「――うわっ、なにっ!?」

理解が追いつく暇もなく、視界が真っ白に弾けた。

体の感覚が全部引きはがされるような感覚と、

上下前後ごちゃ混ぜな浮遊感。

思い切り世界に振り回され――

ドンッ!

背中に石床の冷たさが突き刺さった。

「……っ、いったぁ……!」

視界が戻ると、そこは見知らぬ聖堂だった。

高い天井、巨大な柱、煤けた祈祷画。

そして――古式甲冑の聖職者たちが、尻もちをついたままのあたしを取り囲んでいる。

(なにこれ……展示型の歴史博物館? 実演アトラクション?――お願い、誰か「ドッキリ大成功」って出てきて)

床に倒れていた年配の男が、血に濡れた手であたしのローブを掴んだ。

「……すま、な……い……お嬢……ちゃん……逃げ……」

声の途中で、その身体は砂のように崩れ落ちた。

「!」

聖堂の中心から冷え切った声が落ちてきた。

「異端者は一人か?噂ほどの魔術士ではなかったようだ」

(異端者?召喚?誰が?あたし?)

「ガキ一人でも十分だ。――お前は何人、呼び出してくれる?」

魔法陣が再び脈打ち、眩い光が噴き上がる。

魔力の風が肌を刺し、髪が逆立った。

「そこから動くなっ!術式が乱れる!!」

教会兵が素早く前に踏み出し、鳩尾に重い蹴りを叩き込む。

蹴りの勢いで体が折れ、肺の空気を全部吐き出した。

石床に倒れる。呼吸ができない。


(先生――、


……助けて)



ジャキンッ! ジャキンッ! ジャキンッ!

空気を切り裂く金属音が響いた。

どこからともなく飛来したのは――無数の鋏だった。

まるで意思を持つように聖職者や兵士たちの甲冑へ突き刺さり、

刃に刻まれた魔術刻印が淡く光りはじめる。

(な……!?)

ガキィンッ

鋏同士を結ぶ銀糸のような魔術線が発現し、一瞬で彼らの身体を絡め取った。

まるで見えない糸で操られる人形のように引き倒され、床へ叩きつけられた。

(な――にこれ……!?拘束魔術!? 鋏で……?)

「説明は後だ、立てるか!」

届いた声の方向へ、視線だけ向けた。

鋏を数本握った教会兵が、魔法陣の中からエリセの腕を掴み、荒々しく引きずり出す。

「む、……り……」

「よし。じゃあ、黙って掴まってろ」

背中に回された腕が乱暴なほど強くて、味方なのか敵なのか判断がつかない。

(誰?……味方?、敵?……なんで鋏……)

鋏の教会兵は短く息を吐き、迷いなくあたしを背負った。

「逃げるぞ!」

揺れる視界の向こう、ステンドグラスに輝く紋章が飛び込んできた。

……見覚えがある。歴史書に必ず載ってる――あれは繰り返してはならない弾圧と戦争の象徴。

とっくに解体されたはずの旧教会時代の宗教紋章――その証が、今、目の前にある。

(意味わかんない……)

鋏の教会兵は腕に力を込め、走り出す。

金属と怒号の渦が遠ざかり、夜風がエリセの頬を叩く。

石畳を蹴る音、上下に揺れる体――教会の扉を蹴り開け、外へ飛び出した瞬間、世界の音がふっと消えた。

静寂が包み込む。




教会の内部では、倒れ伏す兵士たちの間で、床に描かれた魔法陣が不気味に脈動を始めていた。

拘束された兵士たちは目を見開き、逃げ出した二人に注意を向ける余裕がなくなる。

微かな唸りと共に、魔法陣の光が弾け飛ぶ。

空気が凍りつき、温度がひと息で数度落ちた。

刻まれた術式が音もなくドロリと溶け、床に黒い水のように流れ落ちていく。

その中心から、ゆっくりと濃灰色の外套をまとった青年が姿を現した。

触れることを許さぬ白さの肌。

均整の取れた眉、薄い唇、静謐な輪郭――

あまりに整いすぎた顔立ちは、かえって異質さを際立たせる。

瞳は銀でも灰でもない、深海の貝殻のように底知れぬ光を湛えている――

美しい――などという言葉が、あまりにも薄っぺらく思えた。

ただ、見た者の理性を壊し、逃げ道をすべて封じ、心臓を鷲掴みにする異形の存在。

青年はそばの観葉植物に目を留め、実をひとつ摘んで口に運んだ。

ここが戦場のただ中であることを気に留める様子もなく。

その仕草だけで、周囲の教会兵たちは糸を断たれた人形のように動きを止めた。

崩れ落ちる者、膝をつく者、陶酔に染まった目で見上げる者。

沈黙の中、青年が静かに口を開く。

「……ここはルザリオの教会か」

男は一言、低く呟く。

「……オレを呼び出せる術者がいるとはな。

 原初契印式とは、随分古い術式だ」

その声だけで、兵士たちは震えが背骨を這い上がった。



彼らは恐怖に凍りつきながらも、恍惚に濡れた瞳で男を見上げる。

まるで神聖な儀式に臨む信者のように。

「討て! たった一人だ――!」

ひとつ、どこからか怒号が上がった。

だが剣を振り上げた兵士の腕が空中で止まったまま、ざりりと音を立てて地面に転げ落ちる。

水風船のように、力なく。

遅れて、血が吹き上がった。

叫び声は出ない。

兵士たちは陶酔の笑みを浮かべたまま、崩れ落ちていく。

一つ。

また一つ。

青年の手元から、音もなく銀色の双刃輪が放たれる。

弧を描き、兵士たちの間を滑っていくたびに、

首。

胸。

喉。

四肢――

命が無造作に断たれ、白い石床に赤い花が咲く。

濃灰色の外套の男は、ただ視線を向けるだけで兵士を倒していく。

選別など存在せず、躊躇もない。

まるでそこにいるものが、最初から生き物ではないかのように。

武器を向けたことが罪だったのだと気付ける時間は与えられなかった――

血の霧が落ち着いたあと、青年はゆっくりと顔を上げた。

空気が、また一段深く沈む。



『……助けて』


誰の声でもなかった。

空気を伝うように、か細く震える意識の残滓。

砕ける寸前の願いは、音ではなく、気配のようなものだった。

たどっていった先には――

瓦礫と血溜まりの奥で、傷だらけの少女が拘束具に縛られ、痙攣しながら倒れていた。

腹は大きく、今にも破れそうだった。


(……赤ちゃんだけでも、助けて……)

青年の瞳が静かに細められた。

無表情のまま歩み寄り、少女の頬に触れる。

親指を除いた四本の指が、血をすくって滑る。

一瞬で十数の魔術式が重なり合い、皮膚の上に精密な術文の層が形成されていく――

通常なら数日かけて刻むべき多重術式を、呼吸ひとつの間に。

少女から拘束具を外すと、青年はナイフの切先で彼女の胸から腹へ直接術式を刻み込んでいく。

息も声も漏れぬほどの速度で。

いくつもの小さな宝石片を、骨の隙間にそっと押し込む。

血と魔力がそれらを固定した瞬間、術式が呼吸を始めた。

青白い魔力光が皮膚の下を走り、鼓動がわずかに強くなる。

――それはもはや人体とは呼べなかった。

救いの形をした、あまりにも冷酷で美しい魔術具だった。


「……出産が終わるまでは保つだろう」

血で描かれた陣の光はかすかなもので、残された時間がわずかであることを示しているようだった。

――青年の濃灰色の外套の影が揺れ、次の瞬間、戦場の殺気が戻った。

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