カチカチ山のうさぎ
月見の季節。
まん丸お月様が照らす、秋の夜長。
気持ちの良い風がススキを揺らし、虫たちの鳴き声を聞きながら、月見酒ならぬ月見鍋をしている二人の男がいた。
野菜の煮え具合を確認しつつ、鍋を鉄箸でつつくは桃太郎。
煮えた肉と野菜だけを木箸でつつく金太郎。
鍋奉行は渡さんと、意気込む桃太郎。
肉はやらんと、金太郎。
つまり、いつもの馬鹿二人である。
◇ ◆ ◇
「なあ、金太郎」
「なんだ、桃太郎」
鍋をつつきながら桃太郎が言う。
「そろそろ、腹が減ったんだが……」
何を今更、お前が悪いんだろうと金太郎は眉を寄せた。
「いや、お前が意地になって言い出したんだろ?」
「それは……そうだが」
自分から言い出した手前、強く言えない桃太郎。
なぜ、あんなにも意地を張り、鍋奉行をやりたがっていたのか、すでに自分でもわからなかった。
「なぁ、金太郎」
「ん? どうした」
ただ、奉行という響きに負けた結果だった。
まさか、奉行がこういう仕組みだったとは夢にも思わなかったのだ。
いまさら後悔しても遅い。
しかし、肉は食いたい桃太郎。
何とか巻き返しを図ろうとする。
「それ、豚肉じゃなくて兎の肉だぞ」
「……!」
突然の不意打ちに金太郎の箸が止まり、焦りの表情に変わった。
それを見て桃太郎はニヤリと笑う。
噂は本当だと確信を強めた。
「カチカチ山って知ってるか?」
ぴくりと金太郎の眉が動く。
「あ、ああ……タヌキをウサギが懲らしめるあれだろ?」
「そうだ……俺、見たんだよ」
一体、あの山で何を見たのかと額に汗が滲む金太郎。
「ウサギに手を貸してただろ?」
ガタリと音がして、金太郎は明らかに動揺した。
桃太郎は勝ったと思った。
やはり、こいつは熊より兎好きだと。
「何を馬鹿なことを……」
乙姫の紙芝居の内容は真実だと。
これで奉行は交代だ。
ついに解放されると。
「俺が手を貸した? 何言ってんだ」
金太郎は誤魔化すように口の端を上げた。
しかし、そんなの、ぬるっとお見通しだ馬鹿野郎と桃太郎。
「おかしいと思ったんだ。ウサギがやったのは、塗り薬に辛子を入れただけだ」
「そんな話もあったな……それがなんだ」
金太郎の箸は止まったまま、わずかに震えていた。
「担いだ柴に火を点けたのも、泥の船を作ったのもお前だろ? ウサギの肉球で、できるはずがない」
脚色まみれの紙芝居を信じる桃太郎。
瞳の奥には、希望の光さえ宿しているように見える。
もう、馬鹿まっしぐらだ。
「……は? 何を根拠に」
しかし、なぜか目が泳ぐ金太郎。
金太郎の柔らかい鉄仮面がはがれる。
何かを隠しているのは明白だった。
好機とみるや、奉行を代われと桃太郎が畳みかける。
「村人全員知っているぞ。紙芝居で見たからな」
「……へぇ」
拍子抜けだった。
それを聞いて金太郎は、ほっと息を吐いた。
どうせ、紙芝居の監修は乙姫だ。
それなら、いくらでも言い返せると。
頭の中を360度フル回転させ、渾身のいつも通りの一撃を放つ。
「ありゃ、ただの紙芝居。面白おかしく脚色しただけだぞ?」
「な、なんだって!」
桃太郎は思わず立ち上がり、鉄箸を金太郎に投げつけた。
「あぶっ! お前……」
「兎好きじゃなかったのか! あの涙の回想シーンは嘘かっ!」
「……!」
なんだ? なんの回想シーンだ……なぜ、兎好きだと知っているのだと金太郎は焦る。
カチカチ山に、そんな回想はないはずだと。
「お前、あの黄色の熊より、桃色の兎の方が好きじゃなかったのか? 約束の丘はどうなったっ!!」
拳を握り込み、考え直せと桃太郎が叫ぶ。
だが、それは豚だっ!
この馬鹿は何を言い出すんだと、金太郎はわりと本気で思った。
「黄色の熊に……桃色の兎? ああ、あれ、豚だろ」
「な、なんだってっ!!」
桃太郎が、膝から綺麗に崩れ落ちた。
「じゃ、じゃぁ……兎の口がバッテンになってるのも豚だったのか?」
一体どんな回想シーンだったのかと、金太郎は顎に手を当て考える。
しかし、浮かびようがなかった。
「バ、バッテン? なんだそれ」
崩れた鉄仮面を再びかぶり、金太郎は思う。
今の桃太郎なら誤魔化せると。
プー〇んより、ミッフ〇ーの方がいい、なんて言えない。
「くそ! また、乙姫に騙されたのか」
桃太郎は心底、悔しそうだ。
騙すも何も普通は信じない。
そもそも、乙姫の言う事を信じる方がおかしい。
ましてや紙芝居。
ただの娯楽だと、金太郎は心の中で吐き捨てる。
ほっとしたのも束の間、鈴の音のような声が金太郎の耳元で囁く。
「シルバニ〇ファミリー……」
金太郎は心臓が跳ね上がり、飛び上がった。
振り返ると、一瞬だが乙姫の背が見えた気がした。
金太郎の震えが止まらない。
壁際のまさかりを胸に抱き、なんとか平静を保とうとする。
金太郎は考える。
まさか、乙姫は自分があれを好きで、ままごとをしていると知っているのかと。
大の兎好きで……それで、遠まわしにカチカチ山の話をと。
シルバニ〇ファミリーを人質に取られ、震える金太郎。
騙されたと奉行を放棄し、崩れ落ちる桃太郎。
鍋の中身がもう無いことに気づかず、二人の狂乱は続く……。
◇ ◆ ◇
……お鍋、おいしかったわね。
さてと、皆の状況は……。
一寸は荒波の中。
大丈夫そうね。
ちから太郎は、割りばしの袋詰め。
内職中かしら?
お鶴は男性と婚活中。
興奮すると術解いちゃうんだから、いい加減諦めればいいのに。
紫式部は自分の小説にフルダイブ。
好きに楽しんで頂戴な。
あとは、おおむね平和ね……。
そろそろ、一万文字。
もう、今回はこれくらいでいいかしらね……。
次、書くならどれにしようかしら?
ミステリーなら……。
聖徳太子
~聞いてるフリして答えてみた~。
参勤交代する傘地蔵
~地蔵はシフト制~。
小太りじいさん、このコブが取れない!
~それはただのイボ痔~。
決めつける刃
~死に戻り無限ループ編~。
犯人を決めつけるのはいいけど……。
これは、乙姫と被りそうね。
抱いた赤鬼
~泣きたいのはこっちだぜ~。
赤鬼と青鬼のBLもいいわね。
いえ、やっぱり日常系かしら……。
花咲狂いじじい
~枯れた世界樹咲かせちゃった件~
打ち出の小槌
~大きくなった姫は無双する~。
雀のお宿
~小さすぎて客の目にとまりません~。
この辺もいいわね。
でも……ナーロッパで手堅く冒険もの?
裸の王様
~王様ゲームしてたら大臣に国乗っ取られた~。
シンデレェラ
~魔法が解けたらオッサンだった~。
願いの泉
~鍵を落としたら、鍵のいらないダイヤル式南京錠もらった~。
マッチョが売りの少女
~マッチが売れないので押しつけます~。
赤いずきんちゃん
~赤いのは全部返り血~。
ジャックと豆の根
~芽が生えたけど、伸びたのは根だった~。
これも候補ね。
それとも、いま流行の令嬢もの?
ヒロユキ姫、七人の小人にキスされて
~起こした奴が勝ち~。
浦島太郎はガチ不良
~いじめた亀を助けて~。
ガチヤンキーが雨の中、捨て猫を拾うようなもんよね。
それを見て、コロッといっちゃう乙姫とか。
もしかしたら、ラブコメもいけるのかしら?
さてと、今宵は中秋の名月。
そろそろ月に帰らないと。
乙姫をからかう時間は、まだあったかしら……。
それでは皆様、これにてしばし、お暇いたします。 かぐや
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