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【短編集】昔々、誰もが知る処に  ~異端昔話~  作者: 月城 葵


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一寸どこ行った?


 小川の水が、春の日差しを受けてきらりと揺れる。


 岸辺には若草が芽をのぞかせ、早春の風がほのかな香りを運ぶ。


 季節の訪れを喜ぶように、遠くでうぐいすの鳴く声が聞こえた。


 そんな詩的な感情を全く持たない男が一人。

 岸辺に座り込み、魚の当りを待っていた。



「ここにいたのか、金太郎」

「なんだ来たのか、桃太郎」


 狩りに言ってくると言ったわりには、釣竿を持っていたことに疑問を覚えた桃太郎が後をつけてみれば案の定。


 狩りなどせず、釣りをして時間を潰していた金太郎を発見した。


「狩りはどうした? 今週はお前の当番だぞ?」


 食料調達の手を抜くわけにはいかないと、桃太郎はきつく睨む。


「サボってたわけじゃない。ただ……乗り気がしなかったんだ」


 それをサボりと言わず、なんとするか。

 桃太郎は、怒りを抑えたつもりで声を荒げた。


「お前っ! 食料調達は我ら村の生命線だぞっ! それを……」

「まぁ、待て。聞いてくれ」

「なんだ?」


 どうも金太郎の様子がいつも以上に変だと、桃太郎は話を聞くことにした。


 理解できるかは内容次第だ。

 間違っても、納得などしない。そう、心に決める。


 そもそも、理解できるのかも怪しい頭なのに、話に納得できるはずがないのだ。


 背を向けたまま金太郎が答える。


 その表情は見えない。

 だが桃太郎には、その声色にどこか不安が混ざっているように聞こえた。


 勝手な解釈だった。


「それが……一寸のやつが行方不明らしいんだ」

「な、なんだって!」


 流石にそれは狩りどころではない。


 桃太郎は即座に納得してしまった。

 なぜなら、誰が聞いても理解できる内容だったからだ。


 ならば、お前はどうして釣りなんてしているんだ、などとツッコめない。

 それも桃太郎だからだ。


 桃太郎の頭の中に、あの一寸の小さな姿が浮かんでくる。


 一寸は親指大しかない。

 一度見失えば、向こうから姿を現さない限り発見は困難。


 小さい故、一寸からの声も届かない。

 脳も微小、ダチョウより小さい。何も考えられない。


 鬼を見れば、本能だけで金属の針を振り回す化け物だ。


「姫は知っているのか?」

「ああ、ウィキに書いてあった」

「そうか……しかし、一体どこへ」


 桃太郎は目を泳がせて頷く。


 ウィキってなんだ? と。


 だが、知ったかぶりを悟られるわけにはいかない。


 しかし、同時に思う。


 そういえば……あいつ、大きくなったんじゃなかったっけ? と。

 大きくなった一寸の脳は人間サイズ。

 心配はないはずだと。


「おい、金太郎」

「なんだ、桃太郎」


 桃太郎は頭にうっすら浮かんだ疑問を投げた。


「一寸って、大きくなったんじゃ?」

「は?」


 金太郎が振り向き、馬鹿を言うなと目を細めた。


「なんでそうなる? 村の監視対象だぞ」

「確かにそうなんだが……掲示板に書いてあったろ? 無事、大きくなったと」


 金太郎がやれやれといった感じで、息を吐く。


「考えてみろ、願いを叶える打ち出の小槌だぞ?」

「知ってるさ」

「鬼が落としていっただと?」

「ああ、そうだ」


 こいつは馬鹿だなと、金太郎が鼻で笑った。


「そんな小槌を、なんで鬼が使わないんだ?」


 はっとして桃太郎が仰け反る。


「普通、鬼が先陣切って使うだろそんなもん。今頃、ベガスで豪遊だ」


 確かに、願いを叶えるなら鬼が使うはず。

 なぜそれを、後生大事に使わず持っていたのか。

 そんなに大事な物を、うっかり落としていったのか……。


 なってこったと、桃太郎は愕然とした。


 村の住民に嘘つきがいることにではない。

 願いを叶えるのに、わざわざベガスに行く鬼にだ。

 馬鹿すぎるだろと。


 馬鹿はお前もだ。


「じゃぁ、掲示板は……」

「ありゃ、嘘だ。一寸は小さいまま。鬼を追って今も追跡中。その過程で見失った……辻褄が合う」


 金太郎が肩をすくめる。


「一寸は……海に出たのか?」

「さぁな、ベガスへ探しに行ったのかもな」


 どうしたものかと、頭を抱える。

 ウィキの事を素直に聞くか、それとも竿引いてるぞと伝えるか……。


「金太郎――」

「言うな。俺だってわかってる」

「そ、そうか……」


 当たりがきているのはわかってる。

 それよりも、一寸だと金太郎は言っているのだ。

 なんとも仲間想いの奴だと、桃太郎は金太郎の評価を一段上げた。


「問題は……」

「問題は?」

「だれが嘘を書き込んだのかってことだ」


 一寸の心配じゃないのかと、桃太郎は口を開きかけた。


「ウィキを信じるべきか、それとも掲示板を信じるべきか」

「な、なるほど」


 言ってはみたが桃太郎は何もわからない。


 わかるわけがない。

 ウィキに書いてあったと明言し、掲示板が嘘だと断言した。

 それなのに、金太郎は両方を疑っている。

 お前のソースはどこだ。


「その……う、ウィキって信じられるのか?」


 震える声を押し殺し、俺、存在は知ってるけどな的に探りを入れる。


「あぁ、掲示板に書き込まれた内容を精査してまとめたようなもんだ。信用はできる」

「だから、掲示板の書き込みが嘘だと……」

「そういうこった」


 ウィキに書いてないから嘘。

 金太郎の言い分はわかる。

 だが、それを誰が精査してるんだ? そんな疑問が桃太郎の頭をよぎった。


「誰が内容を確認してまとめてるんだ?」

「ん? 村のみんなじゃないか?」


 そこは知らない金太郎。

 もう、信用もクソもあったもんじゃない。

 前提が全て泡となって消えた瞬間である。


 ふいに鈴の音のような声がする。


「かぐやよ……」


 時が止まったような感覚に、二人は息を呑んだ。

 振り返れば、そこには乙姫の姿。


「お、お、乙姫か。びっくりさせるな」

「なんだ、乙姫か。どうしたんだ?」


 明らかに動揺する金太郎。

 明らかにどうでもいい桃太郎。


「編集してるのは、か・ぐ・や」


 それだけ言って、乙姫は立ち去った。


 二人は顔を見合わせた。


「かぐやが?」

「本当か?」


 狩りに行くフリをして、サボっていたのを誤魔化したい金太郎。

 ウィキという存在を知りたい桃太郎。


 一寸のことなど、もはやどうでもよく。

 安否が気にされる日は、当分来ない。


 さらに話は情報の信頼性へと肥大化し、二人の化かし合いは続く。







ここまで拙い文を読んでいただきありがとうございます!


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