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【短編集】昔々、誰もが知る処に  ~異端昔話~  作者: 月城 葵


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かぐや姫の新作だってよ


 ドンッ、ドンッと、なるべく控えめに戸を叩く音がした。


「デブの箱舟――」

「ア〇フォート!!」

「よしっ!」


 ガラッと引き戸を引いて、桃太郎が戸を開ける。


「よう、やっぱ来てたか」

「ああ、どうせあの件だろ?」


 金太郎が神妙な面持ちで頷いた。


 チラリと金太郎が室内を見渡せば、囲炉裏の傍に乙姫の姿……はなかった。


「乙姫は忙しそうだな」

「ああ、紙芝居の監修らしいぞ」


 桃太郎が自信ありげに答えた。


 村では誰でも知っている内容だ。

 又聞きのくせに、情報に間違いはないと桃太郎は自慢するように胸を張る。


「そうなのか? かぐやの新刊の件じゃないのか?」

「なんだってっ!」


 桃太郎は後ずさり、驚きのあまり尻もちをついた。


 そのまま壁際まで下がると、すぐさま体勢を立て直し、四つん這いのまま前進する。


 金太郎の前で止まると顔を上げ、必殺の上目遣いで尋ねた。


 効果はない!


「本当なのか?」

「ああ……正体を突き止めるって言ってたぞ。それと、ほれっ」


 金太郎がふんどしに挟んでいた本を取り出し、桃太郎に差し出す。


 一瞬、躊躇しかけたが好奇心に負け、桃太郎は本を手に取る。


『春はあけぼの

 やうやう白くたなびくあけぼの

 少しあかりて

 紫だちたるは雲の補足たなびく曙』


「そんな……馬鹿な」


 桃太郎の顔から血の気が引き、言葉を失った。


 金太郎が深く頷くと、囲炉裏の傍に座り込んだ。


「ヤバイだろ、それ? かぐやってすげぇな」

「あ、あぁ……」


 桃太郎は動揺を悟られぬよう、鼻の穴に指を入れ頭をフル回転させた。


 背中を冷たい汗が伝うが、今は読解する方が先だと奥歯を噛みしめる。


 誰も求めてはいないが、桃太郎は意味をまとめた。


 春の夜明け。

 空にはだんだん白く(かす)む巨大な曙がゆっくりとたなびき、朝日に照らされて、薄紫の雲が「あれは曙です」と補足しながら流れていくシュールな情景だった。


 桃太郎は頭を抱えた。


「日本の夜明けを彩るのが、もはや自然現象ではなく力士だと……」

「ああ、その後もヤバイ。雲が喋ってるカオスだ。あいつの頭の中どうなってるんだ?」


 ――間に合わなかった。

 ゾクリと桃太郎の全身に寒気が走る。


 なんと、金太郎はすでに読解済みだった。

 金太郎に聞いた方が早かった。


 これはマズイと、桃太郎の本能が警鐘を鳴らす。


 何が不味いのかは、本人にはわからない。

 だが、本能に従うまま本を閉じ、囲炉裏に投げ入れた。


「お、おいっ!」

「だめだ、金太郎! 拾っちゃだめだ。それは禁書だっ」


 その言葉に、金太郎は拾いかけた動きを止め、桃太郎へ視線を向ける。


「禁書だと……」


 金太郎は、禁書という響きに恐れを抱いたわけではない。

 むしろ大好物だった。

 しかし、伝え聞いて楽しむのと、実際に触れるのは別だ。


 いくら厨〇病に罹患した肉体と言えど、危険すぎると金太郎は判断した。


 重い沈黙が落ちる。

 それを破ったのは桃太郎。


「禁書だとしたら……どう思う? 金太郎」

「それは、俺たちを抹殺しようってことか?」


 桃太郎が目だけで肯定を示す。


 金太郎が腕を組み、角度で言えば二十度ほど首を傾げる。

 角度だけで己の疑問を相手に伝える、金太郎の高等テクニックだ。


 通じる相手はいない!


「これを渡したのは、乙姫だぞ」

「な、なんだと……」


 桃太郎の額に嫌な汗が滲む。

 金太郎は、その汗も桃の匂いかなと、鋭く目を細めた。


「なら、乙姫が俺たちを?」

「……断言はできないが」


 桃太郎は断言できないと言いつつ、乙姫ではないかと推測した。

 証拠ない、確証もない。

 しかし、直感がそう告げていた。


 鬼ヶ島の方角さえわからなかったのに、直感だけで歩き、船を漕いで辿りついた経験が桃太郎を導く。


 乙姫に苦手意識を持つ金太郎も、疑うこともなく同意した。


 おそらく、禁書の誘惑に負けて内容を解読してしまったんだと、腑に落ちた。


 だが、そもそも当の乙姫は、かぐやのヤバさを知らせるために金太郎に本を持たせたのだ。


 そんな大事な事を頭から全て放り投げ、本すら火に投げ入れた金太郎と桃太郎。

 

 乙姫の意図に気づくはずもなく、二人の議論は続く……。






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