乙姫って、何がしたかったんだ?
昔々、誰もが知る処に。
桃太郎と金太郎がいたらしい。
金太郎は祭りの準備に。
桃太郎は村内会議に……。
行ったつもりになってたんだとさ。
◇ ◆ ◇
酒臭い部屋の中に、虚ろな目で座り込む二人の姿があった。
「なぁ、桃太郎」
「なんだ、金太郎」
何もせず帰ってきた金太郎が、寄合所で手に入れた酒瓶を片手に尋ねた。
「乙姫って――」
「待てよ」
会議に行く準備をしていたはずなのに、すでに行ったつもりの桃太郎は酔った眼差しで辺りを見回す。
「よし。浦島はいない……いいぞ」
「あいつ、嫌な女だって噂があってな」
「嫌な女? 乙姫がか?」
金太郎が吐きそうな表情で頷く。
なんでも、乙姫が渡した玉手箱の件について「やりすぎだ」と、村の掲示板で炎上しているらしい。
「そもそも、あいつ。なんで玉手箱なんて渡したんだ?」
「お土産じゃなかったのか?」
「お土産で、爺さんになっちまった浦島見ただろ? 酷くないか?」
桃太郎は、「確かに」と頷いた。
亀を助けた礼に竜宮城でもてなし、お土産として渡した玉手箱。
しかし、開けてビックリ玉手箱。
浦島太郎は、爺さんになってしまった。
話だけ聞けば、甚だ疑問だ。
「だけど、金太郎。あれは、約束を破っちゃいけないよ。っていう教訓じゃなかったか?」
吐きそうな気配をぐっとこらえ、金太郎が反論する。
「いやいや、教訓はわかるが、わざわざ浦島にやる必要はないだろ?」
二人は顔を見合わせ、頭を捻る。
「そこだけ見れば、恩を仇で返す悪女だな……」
「だろ? そもそも、出会いだって怪しい」
「なんだって!?」
桃太郎が目を見開いた。
たぶん、あまりわかっていないのだが、とりあえず驚いてみせた。
相手に合わせた桃太郎のコミュニケーション術だ。
犬、猿、雉を手なずけた桃太郎だ。
これぐらい、朝飯前だった。
「元々、海岸にやってきたウミガメに、酒をあげて海に返すって風習があの地域にはあるらしくてな……」
「聞いたことがあるな」
「でよ、やって来たウミガメに、浦島が酒をやったんだ」
「ああ、あいつならそうするな」
桃太郎がウンウンと、頷く。
「ところがどっこい、そのウミガメ。三杯飲んでも帰らなかったらしい……おかしいだろ?」
「なんだって!!」
桃太郎は、意味はわからないが仰天してみせた。
「そのウミガメってのが、実は乙姫らしいんだよ」
「それって……ただのタカリじゃないか……」
「だからな、余計に乙姫ってヤバイ女なんじゃないかって……」
ということは、噂が本当ならば、浦島はギャバ嬢に目を付けられた楽な客なのではないか。
桃太郎は回らない頭で、飛躍して推測した。
「だとしたら、浦島の奴は……」
「そうだ。罠にかかった獲物だ」
証拠もないのに金太郎が断言し、続けた。
「乙姫が亀の姿で騙したんだよ」
桃太郎は戦慄した気がした。
まさか、あの乙姫の裏の顔が、実はギャバ嬢だったなんてと。
金太郎の話なんて聞いちゃいない。
全く聞いてない。
声がした程度にしか思ってない。
つまり、自分の推測で完結してしまったのである。
「乙姫はキャバ嬢だったわけか……」
「あ、いや……別にキャバ嬢じゃないけど」
「そして店に連れ込み、お土産に玉手箱だと……なんて奴だ」
強張った顔で「こうしちゃおれん」と、桃太郎がドンと床を叩き立ち上がる。
浦島への同情から憤ったわけではない。
ただ、厠へ行きたいだけだ。
「探ってみるか?」
「ギャバ嬢? それとも亀か? どちらにせよ、それがいいかもな。犬にでも追わせて……ところで、お前さ」
「どうした? 早くしろ」
金太郎がキョロキョロと辺りを見回した。
そして、言い辛そうに口を開く。
「お供はどうした?」
「ああ、キビ団子を作ったのが婆さまだと知られてから、あいつら皆、婆さまの家来になった……」
「そ、それは……」
「言った憶えはないんだが」
金太郎は、それはマズイと顔をしかめた。
犬がいなきゃ、探るどころではない。
むしろ、もう吐きそうだと。
桃太郎も額に汗をかき、眉間に皺を増やした。
このままじゃ、イカンと。
「なんてこった。密告か。だとしたら誰が……」
「ま、まさか、俺を弱体化させる誰かの陰謀か!?」
桃太郎が陰謀説を唱え始めた。
震えているのは、恐れのせいか、それとも別の何かか。
「一体誰が」と、二人は頭を捻るも吐き気だけ。
ただただ、酒の空き瓶だけが増えていく。
綺麗サッパリ乙姫の事は忘れ、お供たちに誰がキビ団子の件を密告したのかと、厠へ行くのを我慢しながら、二人の我慢比べは続く……。
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