《鍛冶屋〈イヅナ〉》
「そういや、レアもモンスターカード持ってたよな」
カイルはポケットから小さなカードを取り出し、笑って見せる。
「実は俺もあるんだ」
《シャドウ・ウルフ》/Cランク(特殊)
「Cランクだけど、希少種だぜ。闇属性持ちのウルフなんて初めて見た」
僕はカードを覗き込みながら、ふむ、と唸る。
「へぇ……確かに珍しい。普通のウルフとは違うな」
「ギルドの査定でも“コモン枠外扱い”だってさ。
つまり、Cランクの中の変異体。俺、運あるだろ?」
「確かに!ここで運を使っての説教タイムだったか」
「ほっとけっ!」
カイルが笑いながら拳を軽く突き出す。
僕もそれに拳を合わせ、軽くぶつけた。
「んじゃ、僕はこれで帰るよ」
「おう、またな〜!」
カイルが手を振る。
僕は振り返りながら笑って、そのまま鍛冶屋〈イヅナ〉へと向かった。
扉を開けながら声を張る。
「親父〜、帰ったよ!」
ドカ〜〜〜ん!!
奥の鍛冶部屋から黒煙が上がり、チリチリ頭の親父が現れた。
「よし、最後のナンバーズを仕上げたぞ!」
どうやら魔力を注ぎ込む鍛冶の最終段階で、炉の魔力反応が暴走して小規模な爆発が起きたらしい。
僕は目の前の武器を見て息を呑んだ。両端にねじれた長い刃がつき、光を受けて渦巻くように輝いている。
「出来たんだね!《ツインヘリックス》!」
親父の言うナンバーズとは、僕がデザインし、親父が鍛冶と魔力加工を施した珍品武器のこと。
NO.1〜NO.10まで、それぞれが傑作品として完成しているのだ。
「これで全部揃ったな…」
僕は胸の中で小さくガッツポーズを作った。
「まぁ、こんな珍品を買う客がいるかどうかは別だがな」
親父は笑いながら続ける。
「普通の武器なら武器屋に卸すが、こういった珍品武器は、ここ鍛冶屋〈イヅナ〉でしか手に入らんのだ」
「お前がちょうど冒険者になったからな」
「素材費が浮いて助かるぜ!ワッハッハ!」
その時、ちょうどドアが開き、お客が入ってきた。
「ここにいい武器がないかにゃ〜」
しっぽをクネクネさせながら店内を見渡す。
――どうやら、猫獣人のようだ。
僕と親父は声を合わせて
「いらっしゃい!」
猫獣人は目を丸くして
「うわっ! その武器、なんにゃ!?」
親父は猫獣人の前に立ち、大きな胸を見つめながら言った。
「これは今できたばかりの《ツインヘリックス》だ。槍のように使う武器だぞ、おねーさん」
鼻の下を伸ばした親父を、僕は思わず横目で見た。
「どこ見て言ってんだよ、親父!」
僕は思わず叫んだ。
「えっ! お、おま…これはその、あれだ!」
鼻の下を伸ばしながらあたふたする親父。
「これくださいにゃ!」
猫獣人は目を輝かせて言った。
「ええ〜〜、いいの!?」
僕が思わず叫ぶ。
私から見た限りでは、かなりの絶品にゃ!
親父は鼻の下を伸ばしながら言った。
「これは普通の武器と違って、高いぞ!」
すると猫獣人は、少し値引きしてにゃん、と言いながら胸を持ち上げ、お色気ポーズを決めた。
僕は思わず目を丸くして呟く。
「そんな色気出しても…」
しかし親父は、鼻血を吹きながらも笑顔で叫ぶ。
「売ったぁ〜〜〜!」
僕は思わず叫ぶ。
「売るのかよっ!」
店内には、親父の豪快な笑い声と、猫獣人の喜びの声が入り混じり、まるでカオスな舞台のようだった。




