《生成源》
バグ個体の残骸を越え、クロス零はさらに奥へ進んだ。
通路は急に人工的になった。
石床の継ぎ目が不自然に揃い、
壁面の青い古代文字は途中から歪み、
ところどころに黒いカード紋様が焼き付いたまま残っている。
ミーニャが鼻を鳴らす。
「ここ、変にゃ」
ルークも足を止める。
「ダンジョンの造りじゃない」
ゼノが端末を確認する。
「魔力の流れが逆流してる」
「外部入力型だ」
レアが短く言う。
「誰かが流し込んでる」
通路の先で、空間が開けた。
本来なら階層核があるはずの場所。
だが中央にあったのは――
歪んだ魔導円。
床に刻まれたカード陣列。
砕けた転送装置の残骸。
周囲には生成途中で固まった魔物の“失敗作”。
胴体だけの個体。
核だけ露出した個体。
形になりきれず崩れた塊。
アリエルが息を呑む。
「……作ってる」
ゼノが断言した。
「ここはダンジョンじゃない」
「カード生成施設だ」
セレスが静かに続ける。
「自然発生ではありません」
「意図的な再構築です」
レアは中央の魔導円を見つめる。
「つまり――」
「深海ダンジョンは、乗っ取られてる」
ミーニャが歯を見せた。
「最低にゃ」
ルークが周囲を警戒する。
「ここが生成源か」
ゼノは首を振る。
「もう使われてない」
「装置は壊されている」
撤退済み。
レアが小さく笑った。
「逃げ足は早いね」
最奥の崩れた壁裏。
小さな保管区画。
ゼノが瓦礫をどかす。
出てきたのは――
黒いカードフレーム。
歪んだ転送タグ。
焼き付いた紋章。
セレスが息を止める。
「……同じです」
「融合兵実験と、因果パターンが一致しています」
ルークが低く言う。
「シャドウか」
ゼノは無言で頷いた。
レアがカードフレームを拾う。
冷たい。
生き物のように、嫌な感触。
「確定だね」
「ここはシャドウ・リバースの中継点」
ミーニャが腕を組む。
「本体はいないにゃ」
「痕跡だけ残して逃げたにゃ」
アリエルが呟く。
「また、別の場所でやるつもりですね」
レアはフレームを床に落とした。
乾いた音。
砕ける。
「王都に報告」
「ダンジョン封鎖」
一瞬、沈黙。
レアが視線を上げる。
「でも問題は――上だ」
ゼノが端末を閉じる。
「次は街か、別のダンジョンだろう」
ルークが剣を背に戻す。
「追われる側じゃない」
「追う側になる」
ミーニャが笑う。
「面白くなってきたにゃ」
レアも笑った。
「深海は片付いた」
拳を軽く鳴らす。
「でも――」
「世界のほうが、バグってきてる」
クロス零は踵を返す。
深海ダンジョン《深海の門》
調査完了。
だが。
シャドウ・リバースは――
まだ、動いている。




