《第六階層》
第五階層を抜け、クロス零はさらに下へ進んだ。
通路は変わらず石造り。 だが、歩き始めてすぐに違和感が出る。
足が、重い。
「……にゃ?」
ミーニャが一歩踏み出し、首を傾げた。
「床、滑らないのに……踏み込みが鈍いにゃ」
ルークも剣を握り直す。
「空気が重い」
アリエルが周囲を見回した。
「水は、ないですね」
確かに。 床は湿っているが、水溜まりはない。 天井から雫が落ちるだけで、完全に空気中だ。
ゼノが端末を確認する。
「酸素濃度、正常」
「気圧も人が活動できる範囲」
一瞬、視線を上げる。
「……だが、魔力密度が上がっている」
レアは《認知加速》を弱く起動した。
床。 壁。 通路全体に、薄く張り付くような魔力。
「階層そのものが、圧をかけてる」
ミーニャが腕を振る。
「水の中じゃないのに、水圧みたいな感じにゃ」
「そうだな」
ルークが頷く。
「動きが鈍るだけで、攻撃は普通に通る」
進むにつれ、違和感は少しずつ増していく。
走れる。
跳べる。
だが――
レアが軽く踏み込んだ瞬間、床石が砕けた。
「……出力が乗りすぎる」
ミーニャも跳躍して着地し、眉をひそめる。
「身体が重いのに、魔力は重くないにゃ」
ルークが低く言う。
「動きが半拍ずれる」
アリエルが小さく頷く。
「タイミングが……合いにくいです」
魔物も出現するが、強くはない。
水棲型の残存個体。 甲殻の薄い小型種。
連携は問題なく機能した。
ミーニャが押し、 ルークが斬り、 アリエルが止め、 レアが仕留める。
戦闘自体は、楽だ。
だが。
「……消耗、地味に来るな」
レアが肩を回す。
ゼノが端末を操作した。
「第六階層は“環境調整層”だ」
「急激に下げず、身体を慣らすための構造」
セレスが静かに補助光を重ねる。
「長居すると、疲労が溜まります」
通路の先に、再び縦穴。
吹き上がる風は、さらに重い。
ゼノが言った。
「次から本格的に水圧影響が出る」
レアは縦穴を覗き込み、笑った。
「なるほど」
「親切なダンジョンだね」
ミーニャが歯を見せる。
「その分、下はキツそうにゃ」
「行こう」
第六階層は、警告。
深海ダンジョンは――
下に行くほど、ちゃんと“深い”。




