《潜航》
魔導船が港を離れる。
推進結晶が低く震え、船体は滑るように沖へ出た。
霧が晴れるにつれ、海は深い蒼へと色を変えていく。
甲板ではゼノが潜水ユニットの最終確認をしていた。
金属と魔導回路で組まれた背負い型装置。
胸部に圧力分散結晶。
脚部に重力補正ライン。
「深度百二十までは安定する」
短い説明。
「帰還時は魔力残量を三割残せ」
イヅナの設計だ。
ミーニャが装備を背負いながら顔をしかめる。
「重いにゃ……」
「水中では軽くなる」
ゼノはそれだけ言った。
レアが縁に立つ。
「じゃ、行こうか」
レアから順に海へ飛び込む。
冷たい衝撃。
一瞬、音が消える。
視界は青に染まり、泡が上へ流れていった。
ユニットが起動し、圧力障壁が展開されると、輪郭がはっきりする。
ユニット内通信が繋がった。
ルークが親指を立てる。
セレスが全員に補助光を重ねた。
ゼノの端末に深度が映る。
30m
60m
90m
周囲が暗くなり、海底の影が見え始める。
やがて――
巨大な石造アーチが現れた。
崩れた柱。
絡みつく海藻。
その中央に、黒い穴。
《深海の門》。
ミーニャが目を丸くする。
「でっか……」
その瞬間。
横から影が走った。
細長い魚型魔物の群れ。
「右!」
レアが即座に指示を飛ばす。
ルークが前へ出る。
雷を纏わせた剣を振るうが、水中では威力が散る。
「面倒だな」
ミーニャが回転しながら突っ込む。
《ツインヘリックス・改》が水を裂く。
だが刃先が重い。空気の三倍はある。
アリエルの魔力糸が広がり、三体を拘束。
レアが踏み込み、核だけを正確に打ち抜いた。
魔物は泡になって消える。
ゼノが端末を見る。
「潮流、左から強い。門の右縁を回れ」
続けて低く言う。
「内部、高濃度反応」
門の奥で、暗闇が揺れた。
「……普通じゃない」
アリエルが小さく呟く。
レアは門を見据えた。
「行くよ」
一人ずつ、門をくぐる。
瞬間――
水圧が消えた。
重力が戻り、足が石床を踏む。
内部は巨大な空洞だった。
青白い光が天井を走り、外の海とは別の空気が流れている。
そして。
壁面に刻まれていた。
青い古代文字。
その瞬間。
レアのガントレット《零・改》が、微かに震えた。
ゼノの端末が勝手に起動する。
「……干渉反応」
文字は淡く明滅するだけ。
音もない。
動きもない。
ただ、そこに在る。
レアは短く息を吐いた。
「……またか」
ルークが周囲を警戒する。
アリエルが小さく言う。
「……中、続いてます」
レアは拳を握った。
「攻略開始!」




