《カード合成の実験》
イズナの工房の中央に、簡易魔導円が描かれていた。
チョークと金属粉で組まれた即席仕様。
完璧ではないが、実験用としては十分だ。
ゼノは腕を組み、床の円を見下ろしている。
「条件は三つだ」
淡々とした声。
「属性の干渉が弱いこと」
「サイズ差が極端じゃないこと」
「魔力構造が単純なこと」
レアは頷きながら、二枚のカードを指で挟む。
ルビーラビット。
一角ベアー。
「つまり……Bランク以下ってこと?」
「そうだ」
ゼノは即答する。
「最初から危険物を混ぜるな」
ミーニャが後ろで尻尾を揺らす。
「ラビットとクマにゃ?かわいいのができそうにゃ」
アリエルは杖を胸に抱えている。
「……失敗したら、爆発とかしますか?」
「可能性はある」
ゼノは平然と言う。
「だから距離を取れ」
セレスが一歩前に出る。
「補助、入れます」
淡い光が魔導円を覆う。
因果干渉。
結果のブレを最小化する。
レアは円の中心に立った。
「じゃ、やるよ」
カードを両手に構える。
《認知加速》。
二枚のカード内部構造が、頭の中で立体化される。
魔力の流れ。
核の位置。
形態情報。
「……接続点、見えた」
レアはカードを重ねる。
「ゼノ」
「そのまま押し込め」
レアは深く息を吸い――
両手を合わせた。
パァン、と乾いた音。
魔導円が一瞬だけ発光する。
床の円から、淡い光柱が立ち上った。
「……にゃ?」
ミーニャが目を丸くする。
光が収束し、床に新しいカードが落ちた。
レアが拾い上げる。
表面には――
小さな角を持つ熊型のシルエット。
背中には、ルビー色の結晶。
「……できた」
アリエルが小さく息を吐く。
「本当に……」
ゼノがカードを覗き込む。
「複合成功だな」
「魔力構造、安定してる」
レアはカードを裏返す。
《クリムゾン・ホーンベア》
「名前、強そうにゃ!」
ミーニャが喜ぶ。
ゼノは腕を組む。
「見ろ」
カードを指差す。
「ラビットの瞬発性と、ベアの耐久が融合してる」
「単純合成じゃねぇ」
「特性が再構築されてる」
イズナが顎を撫でる。
「つまり」
「新種だ」
ゼノは言い切る。
レアは目を輝かせた。
「これ……カード集める意味、変わってくるね」
「数じゃねぇ」
ゼノが言う。
「組み合わせだ」
セレスが静かに頷く。
「可能性が……増えていきますね」
ミーニャが拳を握る。
「じゃあ私の土モンスターと何か混ぜたら、超硬いの作れるにゃ!」
アリエルも控えめに口を開く。
「……回復系と、防御系を……」
レアはカードを胸元にしまった。
「オルタナティブだけじゃない」
「カードそのものも、進化できる」
ゼノが工具袋を持ち上げる。
「実験続行だ」
「今日はあと二回までだ」
「回路が持たねぇ」
レアは笑った。
「了解、先生」
「先生じゃねぇ」
ゼノは背を向ける。
「職人だ」
工房に、再び準備の音が響く。
モンスターカードは、倒すための戦利品じゃない。
組み上げるための素材になった。
クロス零の戦い方は――
また一段、変わり始めていた。




