《僕っ娘ファッション》
イズナの工房は、昼間でも静かだった。
炉の前でゼノが部品を並べ、奥ではイズナが刃の仕上げをしている。
レアは作業台の端に腰掛け、ガントレットの留め具を調整していた。
その横で、セレスが布切れを手に取っている。
薄手の上着。
レアが普段羽織っているものと、よく似た形だ。
「……これ」
セレスが小さく言う。
「私も、着てみてもいいでしょうか」
レアは顔を上げた。
「いいよ?別に特別な服じゃないし」
セレスは少し迷ってから、上着を肩にかける。
鏡代わりの金属板に映る自分を見つめた。
しばらく無言。
「……似合いませんね」
ぽつりと漏れる。
「え?そんなことないと思うけど」
レアは首を傾げる。
ミーニャは近くの箱に腰掛け、尻尾を揺らした。
「うーん……セレスは綺麗系にゃ」
アリエルも控えめに頷く。
「……可愛い、とは違う感じ、です」
セレスは視線を落とした。
「私、レアさんみたいになれたらと思って」
「僕みたいに?」
「強くて、迷わなくて……それに」
セレスは上着の袖を握る。
「その格好、とても自然です」
工房の奥で、金属音が止まった。
イズナが振り返る。
「それはな」
低い声。
「レアだからだ」
全員が見る。
「真似してどうこうなるもんじゃねぇ」
イズナはタオルで手を拭きながら続ける。
「レアはガキの頃から、ああだ」
「服じゃねぇ。生き方だ」
セレスは少し目を見開いた。
「……生き方」
「そうだ」
イズナはレアを見る。
「迷っても走る。怖くても前に出る」
「だから、あの格好が成立してる」
レアは苦笑した。
「親父、それ褒めてる?」
「半分な」
ゼノが工具を置く。
「お前はお前でいい」
セレスを見る。
「光は、殴るもんじゃねぇ。照らすもんだ」
セレスは、ゆっくり上着を外した。
「……はい」
元の服に戻る。
レアは近づいて、笑う。
「無理しなくていいよ」
「セレスはセレスで、ちゃんと強い」
セレスは一瞬だけ戸惑ってから、小さく微笑んだ。
「ありがとうございます」
ミーニャが手を叩く。
「よーし!じゃあ次はセレス専用コーデ考えるにゃ!」
「えっ」
アリエルも慌てて首を振る。
「わ、私も……お手伝いします」
工房に、少し賑やかな空気が戻る。
レアはそれを見ながら思った。
同じにならなくていい。
並んで立てれば、それでいい。
クロス零は――そういう場所だ。




