《再調査》
ゴブリン要塞の最奥は、静まり返っていた。
数日前、ここはレアによって単独で制圧されている。
壁は乱暴に砕かれ、床には大きな衝撃が走った痕が残っていた。
だが、血の匂いも、魔物の気配もない。
使われなくなった場所の静けさだけが残っている。
再び足を踏み入れているのは三人だった。
鍛冶屋イヅナ。
聖女候補セレス。
そして――連れてこられた魔導機工士。
青い古代文字の刻まれた石板の前で、ゼノは黙って立っていた。
工具袋に触れることはない。
膝をつくことも、指でなぞることもない。
ただ、目で追っている。
淡く発光する文字列は、装飾ではなかった。
祈りでも、儀式でもない。
青い。
イヅナは、その色を見て目を細めた。
「この人がゼノです」
セレスが短く紹介した。
「魔導機工士」
「職人だ」
ゼノはそれだけ返した。
視線は石板から外れない。
数瞬の後、ゼノが口を開いた。
「古代兵器の設計書だ」
イヅナが低く息を吐く。
「……だろうな」
「全部じゃない」
ゼノは続ける。
「途中までだ」
それ以上は言わない。
セレスは黙って石板を見ている。
「これだけじゃ組めない」
ゼノが言った。
「続きがある」
イヅナが腕を組む。
「ゴブリンは、これを?」
「住処にしていただけだろう」
「意味は分かってない」
石板は沈黙している。
魔力の反応もない。
だが――刻まれているのは確かだった。
兵器のための文字だ。
イヅナは石板から目を離さず、低く呟いた。
「面倒なもんが出てきやがった」
否定する者はいない。
設計書は、ここで終わっている。
完成形は、まだ見えない。
この石板だけでは、何も組み上がらない。
それだけが、はっきりしていた。




