《完成》
鍛冶場の炉は、静かに赤く燃えていた。
叩く音はない。
金属を打ち直す工程は、もう終わっている。
作業台の上に置かれているのは、
ガントレット《零》と――炎竜カード。
「……ここだ」
イヅナが、ガントレットの内側に刻まれた溝を指でなぞる。
新たに掘られたわずかな隙間。
力を通すためだけの構造。
「武装に流れを作った。
融合するのは――装備だけだ」
「僕には来ない?」
レアの問いに、イヅナは即答する。
「来ねぇ。
来たら壊れる」
その言葉に、セレスが静かに頷いた。
「正しい判断です。
炎竜カードは“存在の結果”が重すぎる」
セレスは一歩前に出る。
「《因果干渉》――解析」
光は出ない。
ただ、世界の順序が整え直される感覚だけが走る。
「炎竜カードは安定しています。
融合先を武装に限定すれば、
因果の破綻は起きません」
「よし」
イヅナが短く言った。
「やるぞ、レア」
レアは《零》を装着し、カードを溝に差し込む。
「……装着、開始」
カードが、武装側へ溶け込んだ。
炎は出ない。
爆発もしない。
代わりに、ガントレットの内部で
低く、重い振動が走る。
「――っ」
レアの身体に異変はない。
だが、《零》が明確に“別物”になる。
「通ってる」
イヅナが目を細める。
「炎竜の因子が、武装側に定着した。
雷の通電効率が……跳ね上がってやがる」
次の瞬間。
ガントレットが赤黒く発光した。
腕から肩へ。
胸、腰、脚。
武装の展開に反応して、炎が連なっていく。
それは鎧ではない。
レアの身体が燃えているわけでもない。
《零・改》が、炎竜装備を展開している。
「にゃ……」
ミーニャが一歩下がる。
「全身、炎なのに……レア、平気にゃ?」
「うん」
レアは拳を握る。
炎は、熱を持たない。
雷を束ねるための外殻だ。
「……雷、溜める」
《認知加速》が起動する。
雷魔法が、今までとは比べ物にならない密度で集束する。
炎竜因子が、出力を武装側で受け止めている。
「制御、安定しています」
アリエルが小さく息を吐いた。
「暴発の兆候、ありません」
レアが一歩、踏み出す。
石床が、ひび割れた。
力は、すべて《零・改》が受け、整えている。
「……これなら」
炎が、すっと消える。
武装が通常状態に戻った。
「無理しなくていい。
武装が、前に出てくれる」
イヅナは背を向けた。
「完成だ」
「《零・改》。
炎竜カードは――武装に融合した」
セレスが静かに補足する。
「召喚も可能です。
ですが、この形が最も安全で、最も効率的」
レアは《零・改》を見つめ、頷いた。
「うん。
これなら、使える」
炎竜は、外に出ない。
身体にも、宿らない。
武装だけが、炎竜級になる。
それが、《零・改》だった。




