《セレスの孤独》
ギルドの食堂は、夕刻でも賑やかだった。
長机を囲み、レアたちは食事を取っている。
木皿に盛られたシチュー。焼き立てのパン。
復興の最中でも、腹は減る。
「この肉、うまいにゃ! おかわり欲しいにゃ!」
ミーニャが尻尾を揺らしながら声を上げる。
「……そんなに慌てなくても、なくなりませんよ」
アリエルは小さく笑い、スープを配る。
「油断するな。人が多い場所ほど、注意は必要だ」
ルークは周囲を一瞥しつつ、静かにパンを割った。
いつもの光景。
レアは、その中に少し遅れて現れた白い影に気づく。
――セレス。
食堂の入口で立ち止まり、視線を彷徨わせている。
席は空いているのに、そこへ向かおうとしない。
「……セレス」
レアが声をかけると、セレスは小さく肩を震わせた。
「ごめんなさい。
邪魔、でしたか?」
「別に。空いてるよ」
レアは自分の隣を指した。
短い沈黙の後、セレスは一礼し、腰を下ろす。
だが、背筋は張ったままだ。
「友達?」
ミーニャが首を傾げる。
「調査で来てた人だよ」
「ふーん、綺麗な人にゃ」
その一言に、セレスはわずかに目を伏せた。
食事が進む。
だが、セレスの手はほとんど動かない。
レアは気づいていた。
ここにいるのに、どこにも属していない目。
「……セレス」
レアが小さく声を落とす。
「さっきの調査のこと。
あれ、やっぱり……怖がられる?」
セレスの指が止まった。
「……はい」
しばらくして、ぽつりと答える。
「《因果干渉》は、世界の“結果”に触れます。
直すことも、壊すこともできる」
視線は皿の上。
「便利だと同時に……
気味が悪い、と言われます」
場の空気が、わずかに静まった。
「聖女なのに、って?」
レアの問いに、セレスは首を振る。
「聖女だからこそです。
『癒す存在が、因果を弄るのは異端だ』と」
少しだけ、声が震えた。
「だから私は、いつも一人で調査します。
同行者は……長く続きません」
沈黙。
ミーニャは口を閉じ、アリエルはそっと視線を逸らす。
ルークは何も言わず、話を遮らない。
レアは、スプーンを置いた。
「……それ」
ゆっくり言う。
「僕と同じだ」
セレスが顔を上げる。
「僕もさ。
《認知加速》って、戦闘で便利だけど」
レアは自分のこめかみを指で叩いた。
「“気持ち悪い”って言われたこと、何度もある。
考え方が速すぎる、とか。
一緒にいると落ち着かない、とか」
小さく笑う。
「だから、独りで動く方が楽だった」
セレスの瞳が、わずかに揺れた。
「……でも」
レアは、テーブルの向こうを見回す。
「今は、違う」
ミーニャが胸を張る。
「レアはレアにゃ。
速いのも、変なのも、強いのも、全部込みにゃ!」
「……はい。私は、助けられています」
アリエルが静かに頷く。
「力の形が違うだけだ。
使い方を誤らなければ、問題はない」
ルークの声は淡々としているが、迷いはない。
セレスは、しばらく言葉を失っていた。
「……あなたたち、怖くないんですか?」
レアは即答した。
「怖いよ」
そして、続ける。
「でもさ。
一人で怖がるより、誰かと一緒の方がマシ」
レアは、セレスを見る。
「だから――」
「今すぐじゃなくていい。
調査が終わってからでもいい」
柔らかく、しかし真っ直ぐに。
「一緒にやらない?
僕らと」
セレスの喉が、小さく鳴った。
すぐには答えない。
答えられない。
それでも――
「……考えさせて、ください」
そう言った声は、先ほどより少しだけ、温度があった。
「うん」
レアは頷く。
「待つの、慣れてるから」
食堂の喧騒が、再び戻る。
セレスは皿に手を伸ばし、ようやく一口、スープを飲んだ。
――その味が、
これまでより、少しだけ温かく感じられたことを。
彼女は、まだ言葉にできなかった。




