《聖女》
ギルドの奥、事務区画は静かだった。
レアは長机に向かい、書類に視線を落としている。
街の復興手続き。被害の確認。補填の算定。
そして――炎竜カードの登録。
机の上に置かれた一枚のカードは、時折、淡く光を返していた。
そのとき、背後で扉が開いた。
「失礼します」
振り向くと、白い衣の少女が立っていた。
年は近い。だが、雰囲気が違う。
「聖女候補、セレスです。
炎竜討伐後の――魔力異常の調査で来ました」
「僕はレア」
セレスの視線が、机のカードに留まる。
「……カード化、ですね」
「スキル・《因果干渉》――確認します」
小さく告げた瞬間、空気が変わった。
音はない。
だが、世界の並びが一段ずれた。
レアの視界が、勝手に鋭くなる。
「……っ」
《認知加速》が自律反応した。
カードの周囲に、見えないはずの“流れ”が浮かぶ。
消えた炎竜の因果。
断ち切られたはずの線が、微かに残っている。
「見えてるんですね」
セレスの声は、驚きよりも確認だった。
「普段は……速く見るだけ。
でも今は……重なってる」
「ええ。
私は修正する側。あなたは――観測できてしまう側」
共鳴は短い。
セレスが力を緩めると、世界は元に戻った。
静寂。
カードは、何事もなかったように机にある。
「調査は続けます。
あなたに何かを求めることは、今はありません」
「うん。僕も、事務終わったら戻る」
セレスは一礼し、扉へ向かう。
去り際、足を止めて一言。
「……また、どこかで」
レアは書類に視線を戻したまま答える。
「そうかもね」
扉が閉まる。
机の上のカードは、静かに光を返した。
使われるのを待つ、ただの戦力として。
この出会いが、後に意味を持つとしても。
今はまだ、交差しただけだった。




