《出会い》
昼のギルドは、いつも騒がしい。
酒の匂いと汗、鉄と革が混ざった冒険者特有の空気が満ちている。
レアは受付前の掲示板を眺めながら、ガントレット《零》を軽く鳴らした。
「ふーん、護衛依頼ばっか。
ま、僕にはちょっと物足りないかな」
そのときだった。
ギルドの扉が、静かに開く。
入ってきたのは――
場違いなほど整った、美少年だった。
淡い金髪に、細身の体躯。
無駄のない装備と、澄んだ視線。
ざわ、と周囲が一拍遅れて反応する。
「……誰だ、あれ」 「冒険者か?」
レアも、思わず目で追った。
(なにあの子。
剣士っぽいけど……綺麗すぎない?)
少年は一度、周囲を見渡し――
そして、まっすぐにレアの前で立ち止まった。
「君が、レアだな」
「え? 僕?」
少年は迷いなく告げる。
「――決闘を申し込む」
一瞬、ギルドが静まり返った。
「はぁ!?」 「いきなりかよ!」 「度胸あるな……」
レアは目を瞬かせる。
「ちょっと待って。
初対面でそれ? 名乗りもなし?」
「必要ないと思ったが……」
少年は腰の剣に手を添える。
「雷魔法を使う冒険者がいると聞いた。
その実力を、確かめたい」
ざわめきが広がる。
「雷だって?」 「しかも剣士……?」
レアは一瞬だけ考え――
にやっと笑った。
「いいよ。
僕も暇だったし」
こうして決闘は、ギルド併設の訓練場で行われることになった。
土の訓練場で、二人は向かい合う。
「名を名乗ろう」
少年が剣を抜く。
「ルーク。それが俺の名だ」
「僕はレア。
拳闘士で、雷魔法使い」
「拳……?」
ルークの眉が、わずかに動いた。
次の瞬間――
ルークが踏み込む。
剣に、青白い雷が走った。
空気が弾ける。
「速っ!」
レアは即座に《認知加速》を起動する。
世界が、ゆっくりになる。
(なるほど……
雷を剣に流してるんだ)
レアは拳に雷を集束させ、正面から迎え撃つ。
――ドンッ!!
雷と雷がぶつかり合い、衝撃波が地面を抉る。
「互角!?」 「打ち消してるぞ!」
数合、打ち合っても決着はつかない。
ルークの剣に、さらに雷が走る。
「《雷剣》――行くぞ」
地を蹴る。
「《認知加速》!」
レアの世界が、さらに遅くなる。
迫る剣。
「《電光石火》!」
レアの飛び蹴りが炸裂する。
バチィッ――!
剣と蹴りが激突し、火花が散る。
「速い……!」
ルークが驚く。
「でも、遅い!」
レアは空中で逆足に切り替えた。
「《電光二連蹴り》!」
空中胴回し蹴り。
「くっ!」
ルークが剣を構える。
ガキィンッ!
「やるな……」
ルークは笑い、剣を構え直す。
「なら、こっちも本気だ。
《雷剣奥義・迅雷斬》!」
一閃。
雷を纏った剣が、一直線に迫る。
「《認知加速》で見える!」
レアは紙一重でかわす。
そして――
「今だ!」
両手を組み、銃の形を作る。
ガントレットの刻印が低く唸る。
雷気が、掌から指先へと螺旋を描いて集束する。
「破滅の閃光――
《雷迅砲・ゼロブラスター》ッ!!」
極太の雷光が、ルークへ放たれた。
「なっ――!?」
だが、ルークは剣を立てなかった。
刃先を、ほんのわずかに傾ける。
雷光が触れた瞬間、
剣が――滑るように回った。
衝撃は殺され、
力は地面と空へと逃げていく。
受けたのではない。
斬ったのでもない。
――流したのだ。
キィン……と、澄んだ音だけが残る。
雷光は進路を失い、空へと逸れて霧散した。
「……すごい」
「剣で、あれを……」
レアが息を呑む。
「お前も、すごいよ」
ルークはそう言って、後退した。
「……やはり、噂通りだ」
「そっちこそ。
剣に雷纏わせるなんて初めて見たよ」
再び踏み込もうとした――その時。
ルークは、ふっと剣を下ろした。
「ここまでにしよう」
「え? まだやれるでしょ」
「これ以上は……正体を隠しきれない」
ルークは、フードを外す。
その瞬間、レアは違和感を覚えた。
(……魔力の質が、違う)
「俺は――
失われた王国《エル=クロス》の王子だ」
訓練場が、静まり返る。
「王子……?」
ミーニャが半歩前に出る。
「つまり、追われてるってことにゃ?」
「面倒事は嫌いにゃ〜」
一方、アリエルは顎に指を当てた。
「エル=クロス……
二十年前に滅びた、雷魔導具の王国」
「王族生存説が否定されていない国……」
レアは少しだけ黙り――
そして、笑った。
「なにそれ。
めちゃくちゃ物語の主人公じゃん」
「……どうせ止めても聞かない顔にゃ」
「戦力的にも、加入は賛成」
アリエルも、小さく頷く。
ルークは戸惑ったようにレアを見る。
「……断らないのか?」
「まさか」
レアは胸を張った。
「僕は最強になるって決めてる。
王子だろうが何だろうが、仲間は歓迎だよ」
そして、にやっと笑う。
「よろしく、王子様」
「……その呼び方はやめろ」
こうして――
チーム・クロス零に、新たな仲間が加わった。
雷と雷が出会い、
運命の歯車は、静かに回り始める。




