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《最強の僕っ娘、冒険者ライフしたら専用武器が超ハイスペックで無双する》  作者: やはぎ・エリンギ


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33/43

《エピソード零》

――あれは、魔王戦から逃げ延びた夜のことだった。

元勇者パーティーは、もはや満身創痍だった。

魔力は底を尽き、回復アイテムも尽き、勝利の可能性は完全に断たれていた。

それは敗北だった。完全な、逃げの敗北。

それでも魔王軍は追撃の手を緩めない。

「このままじゃ、全員やられる……!」

杖を握りしめたクリスが、歯を食いしばる。

「バラけて逃げるよ! 集団でいれば、すぐに見つかる!」

イヅナが叫んだ。

「わかった……マリネ、俺たちはこっちだ!」

「うん」

マリネは小さく微笑み、うなずいた。

ラスティアへ戻る途中、二人は森の中を進んでいた。

夜半、雨が降り始め、視界も足元も悪い。

「……早く、ギルドに戻らないと」

マリネが足を速めた、その時。

――かすかな泣き声が、雨音の向こうから聞こえた。

「……泣き声?」

マリネは立ち止まり、耳を澄ませる。

「赤ん坊……?」

声のする方へ駆け寄ると、木の根元にひとり、赤子が捨てられていた。

ずぶ濡れで、寒さに震え、小さな声で泣いている。

「……こんなところに……なぜ……」

マリネは迷わず赤子を抱き上げた。

その瞬間、赤子はぴたりと泣き止み、彼女の胸に顔を埋めた。

「……ピンク色の髪……珍しいわね」

雨に濡れたその髪は、夜の中でも淡く光って見えた。

「この色、まるで宝石みたい……レアね」

マリネは赤子を見つめ、決意する。

「……よし、連れて帰りましょう」

「いいでしょ?イヅナ」

「もちろんだ、こんなとこに捨てられてかわいそうに」

ラスティアへ戻ったマリネとイヅナは、真っ直ぐギルドへ向かった。

扉を開けると、そこには無事だったクリスの姿があった。

「マリネ! イヅナ! 無事だったのか!」

「クリス……ただいま」

マリネが微笑むと、クリスの視線が腕の中の赤子に向く。

「……その赤ん坊は?」

「森で捨てられていたの。放っておけなくて」

「……魔王戦で敗北して、魔力も底をついてるのに……」

クリスは言葉を選びながら続けた。

「赤ん坊の面倒まで見る気か?」

「ええ」

マリネは即答した。

「この子は、生きたいんです。だから、私が守ります」

その瞳には、揺るぎない意志が宿っていた。

「……そうか」

クリスは小さく息を吐いた。

「なら、ギルドで面倒を見よう。私も手伝う」

「ありがとう」

マリネは赤子を見つめる。

「この子の名前は、レア。ピンクの髪が珍しいから」

「いい名前だ」

だが、その夜だった。

魔王軍八代将軍の一人、グリムヘルドがラスティアに現れた。

「見つけたぞ、勇者パーティー」

巨大な黒剣を構え、命じる。

「ギルドを襲撃しろ」

配下たちが雪崩れ込み、クリスが前に立った。

「《爆裂魔法》!」

轟音とともに魔法が炸裂する。

「ギルドは私が守る! マリネ、イヅナ、逃げて!」

「……わかった!」

マリネとイヅナはギルドを飛び出した。

港を見下ろす丘。

その先で、黒い影が立ちはだかる。

「逃がすと思ったか?」

グリムヘルドだった。

魔力の尽きたマリネの魔法は通じず、一撃で吹き飛ばされる。

「マリネ!」

崖から落ちかけた彼女を、

レアを抱えたまま、もう片方の手で火縄銃《焔》を伸ばす。

「掴め!」

マリネが《焔》の銃身を掴む。

「イヅナ……後ろ!」

イヅナの背後に――グリムヘルドが迫っていた。

「……イヅナ」

マリネは微笑んだ。

「レアを……頼んだわ」

「何言って――」

「このカードを……この子が大きくなったら、渡して」

スターダスト・エレメンタルドラゴンのカードが宙を舞う。

「ありがとう……あなたと冒険できて、楽しかった」

マリネは、手を離した。

「マリネェェェェ!!」

その叫びとともに、彼女は闇へと消えて行った。

怒りが、世界を反転させる。

「リバース――!」

スターダスト・エレメンタルドラゴンの咆哮とともに、グリムヘルドは消滅した。

それから年月が過ぎ、港が見える丘。

イヅナとレアは、星空の下、芝生に寝転んでいた。

「……そっか。そういうことだったんだね」

「僕はまだ親父と言っていいのかな?」

「何を今さら。当たり前だろ」

「じゃあ……マリネさんは、僕のお母さんだ」

「ああ。あいつが聞いたら、照れてたろうな」

レアは、少し照れたように笑った。

イヅナはカードを差し出す。

「だから、これはお前のだ」

だがレアは首を振る。

「それは、親父が持ってて」

「……?」

「僕はもっと強くなって、大賢者マリネ・グランツェルを超える。

その時に、もらいに来るよ」

「……ワッハッハ!」

イヅナは豪快に笑った。

「そりゃいい! 俺もまだ死ねねぇな」

星空の下、血の繋がらない親子の笑い声が響く。

――チリン。

どこからか、鈴の音が聞こえた気がした。

まるで、大賢者マリネ・グランツェルが、

今もなお、この丘から二人を見守っているかのように。

この場所は、後にこう呼ばれる。

「マリネの丘」

――彼女が、最後に“母”として生きた場所として。

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