《襲撃》後編
レアは冒険者ギルド前まで戻って来ていた。
そこには――
ギルドの屋根の上にいるギルドマスター、クリス・エンデバーが爆烈魔法で召喚士や多数のモンスターを倒していた。
ドゴォォンッ! ドゴォォンッ!
「《爆裂魔法》――消し飛べ!」
クリスの魔法が次々とモンスターを吹き飛ばす。
「もう少しで中央広場だ……!」
レアが走り出そうとした、その時――
「レア! ちょっとお待ち!」
クリスが声をかける。
「何? 僕はミーニャ達と合流しないと!」
レアが振り返る。
「ミーニャ達なら教会方面へ行ったようだが、嫌な結界が消えたようだから平気だろ。それよりあんたは私と港方面へ行くよ!」
「港方面?」
「こっちはあらかた片付いたからね、ギルドの連中に任せておけば問題ないだろ」
「わかった〜!」
レアが頷く。
クリスがカードをかざす。
「リバース! あんたの出番だ、出ておいで!」
光が弾け――
「玄武!」
ゴゴゴゴゴ……
巨大な亀のモンスターが現れた。
その甲羅は岩のように硬く、足は太い柱のよう。
そして――
腹に巻き付いている大蛇が、階段のような形になり、レアの前に伸びてくる。
「さあ、乗った乗った!」
クリスが玄武の甲羅の上に乗る。
「すごい……!」
レアが蛇の階段を駆け上がり、玄武の甲羅の上に乗る。
「行くよ〜! 玄武、港へ全速力!」
「グオオオオッ!」
玄武が地面を踏みしめ――
ドシンッ! ドシンッ! ドシンッ!
重い足音を響かせながら、港方面へと走り出した。
「つかまってな〜! 結構揺れるから!」
「わ、わかった!」
レアが甲羅にしがみつく。
風が吹き抜け――
二人は港へと向かった。
「僕、初めて玄武に乗ったよ!」
レアが興奮気味に叫ぶ。
「世界は広い。あんたはこれから未知のモンスターや神獣を手懐けていくだろうよ。ここが踏ん張りどころだよ!」
クリスが笑いながら言う。
やがて――
玄武がマリネの丘に到着した。
そこには、マリネの像が静かに佇んでいる。
そして――
像の前に、胸元に紅玉の鴉の紋章を付けた外套のフードをかぶり、赤い嘴の鴉の面をつけているリーダーらしき者がいた。
「やはりこの像が怪しいな……」
男が像を見上げる。
「おっと! それ以上動くなよ」
イヅナが零式火縄銃《焔》を向ける。
「……火縄銃か。古い物を持ってるな」
男がゆっくりと振り返る。
「これを知ってるって事は、異世界人だな! 何しに来やがった!」
イヅナが《焔》を構え直す。
「大賢者マリネ・グランツェルのモンスターカードを求めて来た。知らないか?」
男が冷たく言う。
「知ってても言うわけね〜だろ!」
イヅナが叫ぶ。
その時――
ドシンッ!
玄武に乗ったクリスとレアが現れる。
「親父〜!」
レアが叫ぶ。
「親父に手を出すなぁ〜〜〜!!」
レアがゆっくりと両手を組む。
右手の人差し指と中指を揃え、親指を立てて銃の形に作る。
左手をその下に添え、ガントレットの刻印が低くうなりを上げる。
掌から指先へと、雷気が螺旋を描いて集まっていくのがわかる。
「破滅の閃光――《雷迅砲・ゼロブラスター》ッ!!」
バチバチバチィィィッ――!!
それに合わせてイヅナも零式火縄銃《焔》を連続で撃ち放つ!
バンッ! バンッ! バンッ!
雷光と弾丸が一斉に男に襲いかかる――
その瞬間。
「神器・天叢雲《虚空》!!」
GARNET CROWリーダーのタケルが、腰に差している刀を抜刀する。
シュンッ!
刀が空間を切り裂く。
ズバァァァッ!
すると――
空間が裂け、その中にすべての攻撃が飲み込まれていった。
ゴォォォォ……
雷光も弾丸も、虚空の中に消えていく。
「な、何っ!?」
レアが驚く。
「馬鹿な……!」
イヅナも目を見開く。
「……無駄だ」
タケルが刀を構え直す。
「この神器・天叢雲《虚空》は、あらゆる攻撃を空間ごと切り裂き、無に帰す」
タケルの声が冷たく響いた。
その瞬間――
レアが《認知加速》を発動!
世界がスローモーションになる。
「《電光石火・嵐》!!」
レアが雷を纏い、空中に飛び上がる。
バチィッ!
飛び蹴りがタケルに迫る――
着地せずに空中で逆足に切り替え
空中胴回し蹴りを放つ!
ドガァッ!
着地とともに――
左ボディー!
上段突き!
中段蹴り!
連続攻撃がタケルを襲う!
ガキィンッ! ガキィンッ! ガキィンッ!
タケルが腕で防御するが――
バキッ!
鴉の仮面が少し割れた。
中から――
綺麗な顔に古代文字が彫られた文字が蒼白く光って見える。
「……俺が反応出来なかっただと?」
タケルが目を細める。
「先読みされているのか? 面白い!」
タケルが刀を構える。
「抜刀・《貫界》!」
シュンッ!
刀が空間を貫く。
一直線にレアに向かって――
「レア! あぶねー!」
イヅナがレアを押しのける。
ズバァァァッ!
「親父!?」
イヅナの体が切り裂かれる。
まるで貫通したかのように
背中から血を噴き出した。
「ぐあっ……!」
イヅナが海へと落ちて行く。
ドボォォンッ!
「こりゃいかん! 玄武! イヅナを助けるんだよ!」
クリスが叫ぶ。
「グオオオッ!」
玄武が海へと飛び込む。
ドバァァンッ!
「親父〜〜〜!!!」
レアが叫ぶ。
涙が頬を伝う。
「親父……親父……!」
レアが膝をつく。
「……邪魔が入ったな」
タケルが刀を鞘に収める。
「許さない!」
レアが拳に雷を集める。
クリスが呪文を言い始めた、その時――
『動くな』!!
色のある声が空間から現れた。
レアとクリスの体が――ピタリと止まる。
「う、動けない……!?」
レアが驚く。
「私のタケル様に何する気?」
外套のフードをかぶった女性が、
艶めいた気配を残しながら、空間の向こうから現れた。
タケルが言う。
「ユイか」
「はい、タケル様のいる所、ユイ有りです」
ユイは恭しく身をかがめ、意味ありげな微笑を浮かべた。
「う、動けない……口だけは動くようだ。何が目的だい!」
クリスが問う。
「大賢者マリネ・グランツェルのモンスターカードを求めて来た。知らないか? 差し出せばこの街からすぐに出て行く」
タケルが冷たく言う。
「街の皆に絶対に手を出さないと誓えるかい?」
クリスが問う。
「いいだろう」
タケルが頷く。
「魔術・《血の盟約》!」
ゴォォォォ……
空中に古代の書が現れ、名前を書けるようになっている。
タケルが自分の指を切り、血で名前を書く。
タケル・トウドウ
「カードはこのマリネの像の中だ」
クリスが言う。
タケルが抜刀する。
ズバァァァッ!
像を切り裂く。
カシャン……
像の中から、一枚のカードが落ちた。
タケルがそれを拾い上げ――
カードには、星屑をまとった竜が描かれていた。
「……これか」
タケルがユイに言う。
「全員集合だ」
「はい、タケル様」
ユイが色のある声で叫ぶ。
「《全員集合》!」
ゴォォォォ……
空間が歪み――
逆さまのカブキ、
両手に軍用短機関銃ウージーを持つリョウ、
ショウタの腹肉をたるんたるんさせながらつまみ上げてるアイ、
「ぶひぃ〜!」と叫びながら快楽顔のショウタが現れた。
「ふう……アイちんに触られて幸せぶぅ……」
ショウタが恍惚の表情を浮かべる。
「キモい」
アイが即座に毒を吐く。
「ありがとうございます!」
「褒めてね〜よ!」
「目的は達成した。撤退する」
タケルはショウタに合図を送る。
「出でよ! 超ロボット・アイちゃん二号!」
次の瞬間――
海が割れ、巨大な可愛らしい少女型ロボットが姿を現した。
彼女は静かに近づき、巨大な手のひらを差し出す。
タケル率いる GARNET CROW の面々は、その手のひらに乗った。
ロボットはゆっくりと身を翻し、
彼らを乗せたまま、街から離れていった。
ゴォォォォ……
静寂が戻る。
「う、動ける……!」
レアが体を動かす。
「くっ……持っていかれたか……」
クリスが悔しそうに呟く。
その時――
ドバァァンッ!
海面が炸裂し、玄武が巨体を揺らしながら浮上した。
「親父!!」
レアが駆け寄る。
「……親父は?」
クリスが顎で示す。
「玄武。出してやんな」
次の瞬間、
玄武はお尻に力を込め――
「ん゛ん゛ん゛……!」
泣きながら、
卵を産むようにイヅナを産み落とした。
ゴロン。
「親父!」
レアが駆け寄る。
「平気!?」
「あぁ~……レアか」
イヅナはむくりと起き上がる。
「さすが化石ババァの神獣・玄武だぜ。体内でしっかりフル回復だ」
「これなら五回戦くらいビンビンだぜ!」
「ワッハッハッハ!」
「誰が化石だ、スカポンタン!!」
ゴンッ!
「いってぇ~~!!」
「……済まないね。マリネのカードを奪われちまったよ」
「問題ねぇ~」
イヅナはそう言って、
首から下げていたカードをひょいと持ち上げて見せた。
「本物は、ここだ」
「あんた――それじゃあ!」
「あいつら、偽物持って行ったのかい!」
「あっはっはっはっは!!」
クリスが腹を抱えて笑う。
「このスカポンタンが~~!」
ガツン!
「いってぇ~~~!!」
「あいつら、戻って来たらどうすんだい!!」
「そんときゃ~よぉ」
イヅナは肩をすくめる。
「俺らも、出し惜しみなしの全力バトルだろ?」
「……まったく!」
「あんたらしいねぇ」
張りつめていた空気が、ようやくほどけ、
小さな笑い声がいくつも重なった。
「ハッハッハッ!」
タケルが突然、笑い出した。
駆けつけたメンバーたちが目を丸くする。
「どうした、タケル?」
タケルはカードを掲げた。
「このカードは――偽物だ」
光に透かすと、
そこにはイヅナの顔が、はっきりと浮かび上がる。
「はぁ〜!?」
「今から戻って潰す?」
アイが叫ぶ。
「いいや、今回はいいさ」
タケルは首を振った。
「ショウタ。このままノルディア大陸へ向かう」
「不滅火山だ」
「先に――不死鳥を手に入れる」
「了解です、リーダー」
ショウタが即座に応じる。
タケルは、遠くを見据えた。
「今回は見逃してやる」
「せいぜい、他の奴らに取られぬよう――守り抜け」
「俺たちが起こす、終焉の時までな」
「大賢者マリネ・グランツェルが持つ、最強のカード――」
「《スターダスト・エレメンタル・ドラゴン》をな!!」
《襲撃》終




