《襲撃》中編
「俺はGARNET CROW、ゲイ・カブキだ!」
男が鴉の仮面を外すと――
歌舞伎役者のような派手な隈取りをした顔が現れた。
「お前らの名はなんだ!」
ゲイが叫ぶ。
「ミーニャ!」
「私はアリエル!」
「なら、ミーニャ! お前からリングに上がれ!」
ゲイが指を指す。
ゴゴゴゴゴ……
突然、教会の中央にプロレスリングが現れ始めた。
ロープ、コーナーポスト、マット
完璧なリングが出現する。
「な、何にゃこれ!?」
ミーニャが驚く。
「か、身体が勝手に動くにゃ〜!」
ミーニャの体が意思に反して、リングへと引き寄せられる。
ズズズズ……
「ミーニャ!」
アリエルが手を伸ばすが――
「アリエルはコーナーの外で待て!」
ゲイが叫ぶと――
アリエルの体が強制的にリングのコーナーへと移動させられた。
「……動けない……!」
アリエルがコーナーポストに手を置き、外で立ち尽くす。
ゲイが両手を広げる。
「俺のオリジナル結界魔法――《プロレスリング》だ!」
ゲイが高笑いする。
「く、卑怯にゃ……!」
「プロレスに卑怯もクソもねぇ! さあ、始めるぞ!」
ゴォォォンッ!
開始のゴングが鳴り響いた。
それと同時に――
カブキがトップロープに飛び乗り
「食らえ!」
バシュッ!
ミサイルキックがミーニャの胸に炸裂する!
「うにゃっ!」
ミーニャがロープに飛ばされ
勢いよく戻ってくる。
「遅い!」
カブキがミーニャの体を掴み
「フロントスープレックス!」
ドガァァンッ!
ミーニャが背中からマットに叩きつけられる。
「ぐっ……!」
仰向けになったミーニャを見下ろし――毒霧を吐く!
ぶわっと紫がかった霧が広がる。
「にゃ〜っ!!」
ミーニャが反射的に身をよじり、尻尾をばたつかせる。
視界が霞み、喉が焼けるように痛む。
「げほっ……!
な、なにこれ……くさっ……!」
カブキが勢いよくコーナーに上る。
「行くぞ〜!」
気合いとともに背を向け――
綺麗な弧を描く。
「ムーンサルトプレス!」
ドガァァンッ!
カブキの体がミーニャの腹部に落ちる。
「うにゃっ! 肺が潰れそうにゃ……!」
ミーニャが苦しそうに呻きながらリングの外に落ち意識を失う。
「ミーニャ!」
アリエルがコーナーから叫ぶが
体が動かない。
「ハハハ!これがプロレスだ!」
カブキが高笑いする。
「次はお前だ、アリエル! リングに入れ!」
カブキが指を指す。
「わ、私……!」
アリエルの体が勝手に動き――
リングの中へと引き寄せられる。
「ミーニャ……」
アリエルが心配そうに見るが――
「よそ見するな!」
カブキがアリエルの頭を抱え込む。
「DDT!」
ドガァァンッ!
アリエルの頭がマットに叩きつけられる。
「きゃあっ……!」
アリエルがふらふらと立ち上がる。
「まだまだ!」
カブキがアリエルの片足を掴み
「ドラゴンスクリュー!」
グルンッ!
アリエルの体が回転し、マットに叩きつけられる。
ドガァンッ!
「ああっ……!」
アリエルが痛みに顔を歪める。
「ハハハ! たまらん表情だ」
カブキが高笑いする。
「く……このままじゃ……」
「いくぞ〜!」
「フィニッシュだ!」
カブキがコーナーに駆け上がり、最上段に立ってアリエルを見下ろす。
「ファイヤーバードスプラッシュ!」
一方、商店街では
「ハチロウ! まだカードは見せるな! 先に俺がやる!」
ジロウが叫ぶ。
「ジロウ氏……!」
ハチロウが心配そうに見つめる。
「もしもの時は頼んだぞ!」
ジロウが眼鏡をキラリと光らせる。
「リバース!」
光が弾け――
闇が渦巻く。
「出でよ――ヴァンパイアロード!」
ゴォォォォッ……
漆黒のマントを纏い、赤い瞳を持つ吸血鬼の貴族が現れた。
長い銀髪、鋭い牙、そして圧倒的な威圧感。
「我が主よ、命ずるままに」
ヴァンパイアロードが優雅に跪く。
GARNET CROWリョウが嘲笑い、指を鳴らす。
パチンッ!
「――RPG-7。対戦車ロケットランチャーだ」
空中に、あり得ない質量感を伴った巨大なロケットランチャーが出現する。
「撃て!」
ドゴォォォンッ!!
轟音と共に放たれたロケット弾が、ヴァンパイアロードの胸部に直撃した。
――直撃、のはずだった。
だが次の瞬間。
ヴァンパイアロードの肉体は霧散し、無数のコウモリへと分解され、空へ四散する。
「ちっ……」
その時だった。
ジロウが低く呟く。
「結界魔法――《禁忌の墓》」
ゴォォォォ……
不気味な重低音が鳴り響き、商店街全体が闇に呑み込まれる。
街灯が一斉に消え、足元の感触が変わった。
――ぬちゃり。
地面が、まるで生き物のように泥状に変化していく。
「しまった!」
「動けねぇ〜!!」
次の瞬間。
『GARNET CROW』のメンバー三人が、足を取られ、ずぶずぶと沈み始めた。
上空から、コウモリの群れが一斉に襲いかかる。
「ぐわぁぁ!!」
「きゃ〜っ!!」
「うわ〜っ、あっち行けぇぇ!!」
「僕のアイちんに触んなぁぁ!!」
「お前があたいに触んな!この白豚!!」
「ぶひぃぃぃ〜〜!!」
悲鳴と怒号と意味不明な罵倒が闇の商店街に響き渡る中、
コウモリたちは容赦なく牙を突き立てていった。
リョウが、いつの間にか両手に軍用短機関銃を構えていた。
――しかも。
銃口は、仲間であるGARNET CROWアイとショウタに向いている。
「てめぇ〜リョウ!!
銃口をこっち向けんじゃね〜よ!!」
「違うんだって!!
手が……手が勝手にやっちまうんだよ!!」
「はぁ!?
笑えね〜冗談言う口は――ここか!?
ここなのかぁ!?」
アイが鬼の形相で詰め寄り、
ショウタのたるんだ腹肉をガシッとつまみ上げた。
「ち、違うよアイちん!!
そこは僕の腹肉だよぉ〜!!」
「たるんたるんさせないで!!
あぁ〜〜〜っ!!!」
「……で、でもぉ〜〜……」
ショウタの表情が、なぜかとろける。
「……不思議と……嫌じゃない……!」
ジロウが肩をすくめ、愉快そうに笑った。
「どうやら――
武器小僧にはコウモリどもの混乱ウイルス、
おさげの嬢ちゃんには仲間割れウイルス、
そして……」
視線が、ぬらりとショウタに向く。
「その白豚には――
禁断ウイルスがぶち込まれたらしいなぁ」
「あっはっはっはっは!!」
高笑いが、闇に包まれた商店街に反響する。
「安心しろ。
どれも即死はしねぇ――
ただし、“地獄みてぇに厄介”だがな」
――意識を失っていたミーニャが、ゆっくりと目を開ける。
ぼやけた視界の先。
そこに映ったのは――
信じられない光景だった。
コーナー最上段から、
バーサーカーアリエルが美しい弧を描いて宙を舞う。
「――っ!!」
次の瞬間。
雪崩式ドラゴンスープレックス!!
体を反らしきったまま、
アリエルはカブキを抱え込み、
そのまま頭から、叩き落とした。
ドォンッ!!
鈍い衝撃音。
カブキの頭部は、リング中央のマットにめり込み、
身体はそのまま逆さまに突き立つ。
完全に、沈黙。
バーサーカーアリエルは素早く身を翻し、
再びコーナーへと駆け上がる。
そして。
コーナー最上段で、胸を張り
勝利のポーズ。
照明を浴びるその姿は、
まさに――この試合を支配した“女王”そのものだった。




