《開封の儀》
ここはラスティア商店街の片隅にある古本屋ジロウ。
古紙の匂いがほのかに漂う静かな店内――だが、この日は妙な熱気が満ちていた。
三人の親父がテーブルを囲み、真剣そのものの表情を浮かべている。
「今日集まってもらったのは、言わずとも分かるだろう」
ジロウがテーブルの上に両肘をつき、指を組んだ状態で眼鏡が怪しくキラリと光る。
「ついに来ちまったか……毎年恒例の、あの勝負の日がよ!」
イヅナの額を伝う汗が、まるで戦場の武将のようにキラリときらめく。
「わし、昨夜から寝られんかったですぞ……!」
魚屋のハチロウは、自慢のつるつる頭で店の照明を全反射させている。
ジロウはゆっくりと一冊の雑誌を取り出し――
「――今年の異世界雑誌の袋とじは……これだァ!」
バァンッ!
表紙には『異世界人、ユイ・アキハバラの大人のアクロバット大全集』の文字。
ポーズを決めたユイが、挑発的にこちらを見つめている。
「ぶはぁっ! だ、だめだ……! タイトルだけでクリティカルヒットだ!」
イヅナが手の汗でページを湿らせそうな勢いだ。
「こ、これは……編集者の覚悟を感じさせますぞ!」
ハチロウはなぜか頭の輝きが二割増しになっていた。
「では――開封の儀、始めようじゃないか」
ジロウが眼鏡をクイッと押し上げる。
三人は息を合わせ、雑誌を囲むように身を乗り出した。
「いくぞ……!」
「おう!」
「準備万端ですぞ!」
震える指先が袋とじに触れ――
「せーの!」
ビリビリビリッ!
乾いた音とともに封印が破られる。
「ぬぉおおっ!? な、なんだこの破壊力は……!」
イヅナが瞳を見開き、魂が抜けかける。
「尊い……尊すぎる……!」
ハチロウは涙をこらえるどころか、もう拭いていた。
「わしは……わしはこの瞬間のために古本屋を続けてきたのかもしれん……!」
ジロウはついに眼鏡を外し、震える手で涙をぬぐった。
「異世界の娘さんたちは、こんなアクロバティックな……【異界式・四十八秘技】を……!」
イヅナがページを抱きしめる寸前だ。
三人はしばし絶句し、ただただ静かにページを凝視した。
「……保存版だな」
ジロウが低く、重みのある声でつぶやく。
「異論なしですぞ……」
ハチロウがふんふんと頷く。
「むしろ一生分買わせてくれ!」
イヅナが財布を取り出す。
「お前たちには特別に三冊まで回してやる。売り切れる前にな」
ジロウの眼鏡が、今度は誇らしげにキラリと輝いた。
ハチロウの頭のてっぺんも負けじとキラリと発光し、イヅナの汗もなぜか最後までキラリと輝いていた。
こうして、親父たちの熱き“開封の儀”は静かに幕を閉じた。
三人が雑誌を大事そうに抱え店を出ていく背中は――
どこか、少年のように弾んで見えた。




