《狂戦士バーサーカー》
「受験者番号149番、アリエル・ルナリス! 第二闘技場へ!」
ギルドスタッフの声が響く。
「わ、私の番……」
アリエルがもじもじしながらも、《スレッド・リーパー》を握りしめる。
「アリエル、頑張って!」
「落ち着いて戦うにゃ! アリエルなら大丈夫にゃ!」
レアとミーニャが観客席から声援を送る。
「は、はい……行ってきます……」
アリエルは深呼吸をして、砂の闘技場に降り立った。
向かい側には――
鋭い目つきの狼の獣人が腕を組んで立っている。
灰色の毛並みに、筋肉質な体躯。その眼光は獲物を狙う肉食獣そのものだ。
「アリエル・ルナリス、か。お前の力、見せてもらおう」
狼の獣人試験官が低い声で言う。
「よ、よろしくお願いします……」
アリエルがおずおずと頭を下げる。
「始め!」
スタッフの合図が響いた瞬間――
試験官はすぐに二枚のカードを掲げた!
「リバース! フロストオウル×2!」
光が弾け――
バサッ! バサッ!
冷気をまとう大フクロウが二体現れた。
その翼は氷の結晶で覆われ、瞳は青白く光っている。
「ホーホーホーッ……」
フロストオウルたちが不気味な声で鳴くと――
「《冷気の霧》!」
口から白い霧が吐き出された。
シュゥゥゥゥッ……
あっという間に闘技場が濃い霧に包まれる。
「き、消えた……!?」
アリエルが慌てて周囲を見回すが、視界が完全に奪われている。
試験官の姿も、フロストオウルの姿も見えない。
「ど、どうしよう……見えない……」
アリエルの手が震える。
その瞬間――
バサッ!
霧の中から鋭い爪が襲いかかってきた!
「きゃあっ!」
アリエルが咄嗟に《スレッド・リーパー》を振るい、爪を弾く。
「アリエル! 落ち着いて!」
「霧に惑わされるなにゃ!」
レアとミーニャの声が聞こえる。
「そ、そうだ……落ち着いて……」
アリエルが深呼吸をして、《スレッド・リーパー》を構え直す。
「わ、私には……回復魔法だけじゃない……!」
アリエルの瞳に、決意の光が宿った。
アリエルはカードを一枚掲げた!
「リバース、セイレーン!」
光が弾け――
美しい歌声が響き渡る。
水の精霊のような姿をしたセイレーンが現れ、その歌声が霧を揺らす。
「ラァァァ~~~♪」
セイレーンの歌声が闘技場に響き、霧が少しずつ晴れていく。
「本気で行きます!」
アリエルが《スレッド・リーパー》を強く握りしめる。
その瞳が――変わった。
普段のおずおずとした表情が消え、鋭く獰猛な光が宿る。
「スキル、《バーサーカー》!」
ゴォォォォッ!
アリエルの体から凄まじい魔力が溢れ出す。
金髪が逆立ち、《スレッド・リーパー》の星型先端が激しく輝いた。
「うぅぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!」
アリエルが咆哮を上げる。
その声は、先ほどまでのもじもじした少女のものとは思えないほど、野性的で荒々しい。
「な、何だあれ……!?」
「あ、あれがアリエルの本気……!」
観客席がざわめく。
レアとミーニャも驚いて目を見開いた。
「すごい……アリエル、あんなに強くなって……!」
「ギャップ萌えにゃ……!」
霧の中――
試験官の狼獣人が冷や汗を流す。
「こ、この魔力……まさか……!」
アリエルが《スレッド・リーパー》を振るうと――
星型の先端から無数の魔力の糸が放たれた。
シュルルルルルッ!
糸が霧を切り裂き、フロストオウルの一体に絡みつく!
「ホ、ホーッ!?」
「うぁぁぁぁぁっ! 《魔糸・絡縛》ッ!!」
アリエルが《スレッド・リーパー》を振り回すと――
糸に捕らえられたフロストオウルが空中で引き裂かれた!
バラバラバラッ!
氷の羽が砕け散る。
「一体目、撃破……!」
アリエルの目が、次の獲物を捉える。
その姿は――まるで獰猛な獣のようだった。
---
セイレーンが歌い出すと――
「ラァァァ~~~♪」
美しくも妖しい歌声が闘技場に響き渡る。
その瞬間――
バタッ! バタタッ! バタタタッ!
観客席の人々が次々と倒れ、眠り始めた。
「や、やばいにゃ! レア、あの歌声を聴くと眠るにゃ!」
ミーニャが慌ててレアを揺さぶる。
「え、何……? ミーニャ、声が……遠い……」
レアの瞼が重くなる。
「って! もう手遅れにゃ〜!」
ミーニャが叫んだ瞬間――
ドサッ!
レアが観客席の椅子に倒れ込み、静かな寝息を立て始めた。
「レ、レア……私も……眠く……にゃ……」
ミーニャも抵抗できず、尻尾を垂らしながら倒れ込んだ。
闘技場では――
「ホ……ホー……」
フロストオウルも地面に落ち、眠りに落ちている。
試験官の狼獣人も――
「く、くそ……この歌声……抵抗できない……」
膝をつき、目を閉じた。
静寂が訪れた闘技場で――
唯一目覚めているのはアリエルだけだった。
「ぁはははははっ! 全員、眠った……!」
《バーサーカー》状態のアリエルが高笑いしながら、眠っている試験官に近づく。
「これで…………!」
アリエルは《スレッド・リーパー》を振り上げ――
眠っている試験官の口の中に突き立てた。
「あははははっ! 勝った……私が勝った……!」
狂気じみた笑い声が闘技場に響く。
しばらくして――
セイレーンの歌声が止むと、人々の意識が徐々に戻り始めた。
「う……ん……」
「何が……起きた……?」
レアとミーニャも目を擦りながら起き上がる。
「あれ……? 私たち、眠ってた……?」
「うにゃ……セイレーンの歌声にやられたにゃ……」
闘技場では――
試験官が口に《スレッド・リーパー》を突き立てられたまま、目を覚ました。
「……参った」
試験官が降参の意を示す。
スタッフが慌てて宣言した。
「し、勝者――アリエル・ルナリス!」
観客席から――まばらな拍手が響く。
誰もが呆然としていた。
しばらくして――
「ラァァァ~~~♪」
セイレーンの歌声が変わり、優しく穏やかな旋律になる。
その歌声に包まれると――
アリエルの荒々しい呼吸が静まり、瞳の獰猛な光が消えていく。
《バーサーカー》の興奮が徐々に静まり、アリエルが元に戻る。
「あ……あれ……? 私……何を……?」
普段のもじもじした表情に戻り、自分が何をしたのか理解できずに首を傾げていた。
「ア、アリエル……すごかったよ……」
レアが引きつった笑顔で拍手する。
「すごいを通り越して怖かったにゃ……」
ミーニャが尻尾を震わせている。
「え、えっ……? 私、何か……おかしなことしましたか……?」
アリエルがもじもじしながら尋ねる。
「い、いや……何も……」
「何もないにゃ……」
二人は顔を見合わせ、苦笑いするしかなかった。




