《破滅の閃光》
僕は着地と同時に、ガントレット「零」に雷を集束させる。
認知加速が発動し、世界がスローモーションに変わった。
ブラックオークの筋肉の動き、戦斧の軌道、呼吸のタイミング――全てが手に取るように見える。
「グルアアアッ!!」
ブラックオークが戦斧を横薙ぎに振るう。
その一撃は岩をも砕く威力だが、僕の目には遅い。
「遅いっ!」
サバトン・ブーツで地を蹴り、斧の下を滑り込む。
雷を纏った拳がブラックオークの腹部に連続でめり込んだ。
バチバチバチッ!
「ガァッ!?」
「ミーニャ、今だよ!」
「了解にゃ!」
ミーニャが《ツインヘリックス》を構え、地面を蹴って跳躍する。
土魔法で作った土塊が階段のように空中に出現し、彼女はそれを足場に高く舞い上がった。
「《肉体強化》――フルパワーにゃあ!!」
渦巻く刃が月光を受けて煌めく。
ミーニャの蹴りと《ツインヘリックス》の一閃が、ブラックオークの背中に深々と食い込んだ。
「グオオオォォッ!!」
怒り狂ったブラックオークが暴れ、ミーニャを振り払おうとする。
「あ、あぶないっ……!」
アリエルが《スレッド・リーパー》を振るった。
星型の先端から無数の魔力の糸が放たれ、ブラックオークの腕に絡みつく。
「《エナジーシールド》!」
光の障壁がミーニャを包み、振り回される衝撃を和らげた。
「ありがとうにゃ、アリエル!」
「う、うん……! で、でも、まだ……!」
ブラックオークは糸を引きちぎろうと力を込める。
「みんな、離れて!」
僕はゆっくりと両手を組む。右手の人差し指と中指を揃え、親指を立てて銃の形に作る。左手をその下に添え、ガントレットの刻印が低くうなりを上げる。掌から指先へと、雷気が螺旋を描いて集まっていくのがわかる。
「破滅の閃光――《雷迅砲・ゼロブラスター》ッ!!」
バチバチバチバチィィィッ――!!
指先から極太の雷光が奔流となって放たれた。
空気が裂け、大気が悲鳴を上げる。
雷の奔流はブラックオークを真正面から捉え、その巨体を飲み込んだ。
「グオオオオオオォォォォッ!!!」
咆哮が雷鳴にかき消される。
黒曜石のような肌が焼け焦げ、鉄板の胸当てが溶解していく。
ブラックオークは必死に戦斧を盾にするが、《ゼロブラスター》の出力は容赦なく、斧ごと全てを貫通した。
ドゴォォォンッ!!
雷光が炸裂し、渓谷全体に轟音が響き渡る。
土煙が晴れると――
「た……倒れた、にゃ」
ミーニャが呆然と呟く。
ブラックオークは完全に動かなくなり、その体からは煙が立ち上っていた。
「す、すごすぎます……あんな威力、見たことない……」
アリエルが目を丸くして、もじもじと僕を見つめる。
僕は「零」から立ち上る雷の残滓を見つめながら、小さく息を吐いた。
「……ゼロブラスター、やっぱり消耗が激しいな」
膝が少し震える。認知加速と高速機動、そして最後の一撃――全力を出し切った証拠だ。
「レア、大丈夫かにゃ?」
ミーニャが心配そうに駆け寄ってくる。
「平気平気。ちょっと疲れただけだよ」
僕は笑顔で答えたが、アリエルはすぐに《スレッド・リーパー》を構えた。
「《ヒールライト》……!」
温かい光が僕の体を包み、疲労が和らいでいく。
「ありがとう、アリエル。助かるよ」
「い、いえ……これくらい、当然です……」
もじもじしながらも、アリエルの顔には満足げな笑みが浮かんでいた。
渓谷に静寂が戻り、僕たちの戦いはついに終わりを告げた。
「さて――戦利品の確認と、依頼達成の報告だね!」
僕は拳を突き上げ、二人も笑顔で頷いた。




