《チーム結成!クロス零(ゼロ)》
ギルドの二階、酒場兼休憩所。
昼下がりのざわめきと、焼いた肉の匂いが漂う。
丸い木のテーブルを囲んで、僕とミーニャ、そして――アリエル。
三人はもう、敬語なんてとっくにどこかへ消えていた。
「ふっふっふ〜! 聞いて驚けにゃ!」
ミーニャが尻尾をぴんと立てて胸を張る。
「歳は十八、魔法は土! スキルは《身体強化》にゃ!」
ドンッとテーブルを叩き、
赤い宝石が埋め込まれたカードホルダーを見せつける。
「で、モンスターカードは――これっ!」
ひらりと取り出されたカードには、
赤毛のウサギ型モンスター《ルビーラビット》の絵が浮かんでいた。
ミーニャが得意げにカードをくるくる回す。
カードの中で、赤いウサギのような魔物が跳ねている。
「一度だけ――ぜんぶの攻撃を無効にするのにゃ!」
「一度だけ? ってことは、タイミング命だね」
レアがフォークを口にくわえながら言う。
「そうにゃ! でもその一回が命を救う時があるにゃ。
持ってて損はないカードにゃ!」
「ふふっ……かわいいカードだね」
アリエルが小さく笑い、金髪を耳にかける。
「そう言うアリエルはどうにゃ?」
ミーニャが身を乗り出す。
「わ、わたし……?」
アリエルは少しだけ目を泳がせてから、
そっとカードホルダーを取り出した。
「カードは……《ホワイトフォックス》。
エルフの森にしか生息しない、希少種なの」
カードの中で、白銀の毛並みを持つ狐が、静かに尾を揺らしていた。
その輝きは、まるで雪の精のように美しい。
「にゃ〜〜〜っ! すっごいにゃ! レアカードにゃ!」
ミーニャの耳がピクピクと動く。
「た、たまたま……よ。ほんとに、たまたま出会っただけ……」
アリエルが頬を赤らめて言うと、レアは微笑を浮かべて頷いた。
「でも、たまたまで出会える相手じゃないよね。《ホワイトフォックス》は精霊級だもの」
「……そ、そんな大したこと……ないよ」
アリエルがもじもじとマントの端をいじる。
ミーニャがにやにやと肘でつついた。
「照れてるにゃ〜♪」
「も、もう! ミーニャ!」
アリエルがぷくっと頬をふくらませたあと、
ふと俯いて、声のトーンを落とした。
「……でも、わたし……スキルが《バーサーカー》なの」
レアとミーニャが同時に瞬きをする。
「えっ、うそ、アリエルが?」
「バーサーカーって、あの我を忘れて暴れるやつにゃ?」
アリエルは唇を噛み、かすかに肩を震わせた。
「うん……その、制御できなくて。
味方まで傷つけちゃったことがあって……」
声がだんだん小さくなる。
「二度も、パーティーから外されたの。
みんな怖がって……」
グスン――。
涙がぽたりと落ち、指先で慌てて拭おうとする。
ミーニャが椅子を引いて、隣に座り直した。
「バカにゃ、そんなのアリエルのせいじゃないにゃ」
レアも静かに頷く。
「……暴走しても、誰も死んでないんでしょ?」
「……うん」
「なら、まだやり直せる。次は僕たちが止めてあげる」
アリエルは涙目のまま、
それでも少しだけ、笑顔を見せた。
アリエルは、まだ少し涙の残る目でレアを見上げた。
「レ、レアは……どうなの?」
すかさずミーニャが身を乗り出す。
「そうにゃ! レア、只者じゃないはずにゃ!」
レアはフォークを置いて、肩をすくめた。
「あ〜そうか、僕の自己紹介、まだだったね」
僕は軽く拳を合わせ、ガントレットの金属音が“カチン”と響く。
「魔法は《雷》、スキルは《認知加速》。
そして――カードは《一角ベアー》と《古代兵ゴーレムデストロイ》」
その瞬間、ミーニャとアリエルの表情が凍る。
「……《古代兵》!? それ、鑑定不能のやつじゃ――」
「う、うそ……そんなカード、本当に実在するの?」
レアはにやりと笑った。
「実在したよ。今は僕の相棒。
まあ、ちょっと扱いにコツがいるけどね」
ミーニャが興奮で尻尾をブンブン振る。
「にゃ〜〜っ! すごすぎるにゃ! それもう伝説級にゃ!」
アリエルはぽかんとしながら、小さくつぶやいた。
「……やっぱり、レアって……ただの冒険者じゃないんだね」
レアは照れくさそうに笑い、
「ただのF級冒険者だよ。ちょっとだけ、運が良かっただけ」
と、ジョッキを傾けた。
僕はにっこり笑いながら言った。
「それはそうと、僕たちのチーム名考えたんだけど、三人の個性・攻撃・連携が交差する――
クロス零ってどうかな?」
ミーニャはしっぽをピンと立てて目を輝かせる。
「かっこいいにゃ!」
アリエルは少し赤くなりながら、もじもじと答えた。
「う、うん……凄くいいと思う」
三人は顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。
三人は拳を合わせ、意気を込めて宣言した。「僕たち……私たちの名は――クロス零だ!」
こうして、僕たちの冒険が正式に始まる――クロス零として。




