《初めてのパーティー編成》
アスカの森からさらに東へ行くと、
大きな滝で有名な渓谷がある。
その断崖の奥――
そこには、オークたちの集落があるという。
最近になって、新たに現れたリーダーの名は
ブラックオーク。
噂では、
奴は人種を問わず旅人をさらい、
“宴”と称して――食うらしい。
ギルドの掲示板には、
赤い印のついた依頼札が一枚、
新しく貼り出されていた。
【討伐依頼】
対象:ブラックオークおよび渓谷のオーク群落
推奨ランク:D以上
パーティー編成:三名以上
報酬金:三十万円
レアは札を見つめ、眉をひそめた。
「……宴ね。気分の悪い話だ」
僕はFランクだが、Dランク依頼までなら受けられる。
問題は――パーティー三名以上の条件。
「報酬三十万……素材も美味しいだろうなぁ」
思わず独り言が漏れる。
依頼札の前では、上級冒険者たちが次々とパーティーを組んでいる。
羨ましい目で眺めている僕の横から、
澄んだ声がした。
「その……依頼、興味があるの?」
背後から、少し遠慮がちな声がした。
振り向くと、
長い金髪を後ろでひとつに束ねたエルフの女性が立っていた。
ちらりと僕を見上げて、すぐ逸らされる。
指先でもじもじとマントの裾をいじりながら、
彼女は言葉を探すように続けた。
「わ、わたし……回復魔法、使えるんです。
で、でも、前衛が苦手で……その、パーティー、探してて……」
その声はか細いのに、耳に心地よく響いた。
どうやら――このエルフが、さっきの依頼に興味を持っているらしい。
僕はにっこり笑って尋ねた。
「僕とパーティーを組んでくれるの?」
エルフは頷き、涙目で答える。
「は、はい…でも、私…武器が壊れてしまって…それに、私のスキル、バーサーカーなんです…!」
彼女の声には不安が混じっていた。小柄な体からは想像できないほどの力を秘めているのだろうか。それでも、どこか不器用で可愛らしい。
「それなら問題ないよ! 僕んち、鍛冶屋だから、好きな武器を選びなよ!」
「えっ!? い、いいんですか…?」
「だったら、今回の報酬を入れてお支払いします」
彼女の声には、少し照れたような、でも嬉しそうな響きが混じっていた。
そこにちょうど、猫獣人が《ツインヘリックス》を背負って現れた。
「あっ! やっぱり鍛冶屋のところの娘にゃ!」
僕は少し驚きながらも頷く。
「もしかして、このブラックオークを狙ってるかにゃ?」
「うん、そうなんだ。あと一人で三人になるんだよね」
猫獣人は満面の笑みで言った。
「それじゃ〜、私を入れるにゃ! これで三人にゃ!」
「よっしゃ〜! いきなりパーティー揃った! この三人で行こう!」
僕は拳を握りしめ、意気込みを見せた。
エルフと猫獣人も頷き、笑顔を交わす。
そのまま僕は受付嬢のもとへ向かい、札を手渡した。
「これで手続きお願いします!」
受付嬢はにこやかに尋ねた。
「はい、ではお名前を教えてください」
僕は胸を張って答える。
「Fランクのレア・ハーミットです」
ミーニャも少し照れながら答える。
「Dランクのミーニャ・ククルにゃ!」
最後にエルフが小さく頭を下げて言った。
「お、同じくDランクのアリエル・ルナリスです」
三人の名前とランクが揃い、いよいよ冒険の幕開けが近いことを実感した。




