《冒険の始まりの街ラスティア》
冒険者いわく、ここは「始まりの街」ラスティア。
レガルタ大陸の最南端にある、地図にもろくに載らないど田舎だ。
その片隅にある鍛冶屋〈イヅナ〉で、僕は育った。
森に捨てられていた赤ん坊の僕を拾ってくれたのが、親父——イヅナ・ハーミットだった。
この世界では——ひとりにひとつの魔法と、ひとつのスキルしか与えられない。
それが、この世の理。
けれど、稀に生まれるという。
二つの攻撃魔法を操る、異端の子供。
人々は、そんな存在をこう呼ぶ。
——勇者、と。
十六歳になると、教会で神父様から“鑑定”を受けるらしい。
自分の魔法とスキルが、正式に知らされるんだって。
さてさて——僕はどんな能力なんだろね。
「レア、そろそろお前の番だ。行ってきなさい」
鍛冶場の奥から、親父のイヅナが声をかけてくる。
「うん、行ってくる!」
ハンマーを置いて、手に残った煤をぱんぱんとはたく。
「女の子らしい能力ならいいんだがな、ワッハッハ!」
「う、うるさいな、親父!」
照れ隠しに口を尖らせながら、僕は教会へと走り出した。
「神父様! 鑑定、よろしくお願いします!」
「おぉ、鍛冶屋のところのレアちゃんか。大きくなったねぇ。」
白髭を撫でながら、神父様がにこりと笑う。
「では……鑑定してみようか。」
光の結晶が僕の手の上で淡く輝いた。
「おぉ〜、こ、これは……!」
神父様の目がまんまるになる。
「自分でも、わかるかい?」
「うん……どうやら僕の魔法は、雷。
それに、スキルは——認知加速。」
その瞬間、教会の空気がびりっと震えた気がした。
雷と、頭の回転を加速させるスキル。
普通の“鍛冶屋の娘”には、似つかわしくない組み合わせ——。
「神父様、認知加速って……何ですか?」
神父様は白髭を撫でながら、優しく微笑んだ。
「ほう、気になるかね。簡単に言えば――脳の処理速度を高める能力だ。
目に映るもの、耳に入る音、触れた感覚……すべてが一瞬で理解できるようになる。
つまり、頭の中で時間が少しだけゆっくり流れるような感覚になるんだよ」
「え、つまり……周りの動きがスローモーションに見えるってこと?」
「その通り。だから戦いでも、鍛冶でも、複雑な作業を瞬時に判断できる。
ただし、肉体はその速度に完全には追いつかないこともある。万能ではないんだ」
僕は思わず手を握りしめた。
「なるほど……ちょっとすごすぎるかも、僕……!」
「肉体は、雷魔法で動きやすくすればいいんだね!」
僕の目がキラリと光った。
「これ、僕……最強かもっ!」
教会の静かな空気の中、僕の胸の高鳴りだけが雷鳴のように響く。
「ありがとう、神父様! 僕、最強の冒険者になるよ!」
「あっはっは……それは頼もしいな。イヅナが聞いたら、さぞ驚くだろう!」
神父様の笑顔に、僕も思わずにやりとする。
急いで、僕は親父がいる鍛冶屋〈イヅナ〉へと戻った。
ドアを勢いよく開けて――
「親父〜! 聞いて驚けよ! 僕の魔法とスキルは……」
「なぁにぃぃ〜〜〜!」
腰を抜かす親父。
「まだ言ってないだろ〜!」
「まったく……僕の魔法は雷、スキルは認知加速だったよ!」
「なぁにぃぃ〜〜〜!?」
また腰を抜かす親父。
「何回腰抜かしてんだよ!」
「2回だ、ワッハッハ!」
ひらめいた事があるんだ。
「親父! 僕専用の武器を作るから手伝ってよ!」
親父はニヤリと肩をすくめる。
「仕方ね〜な。うちじゃ滅多にお目にかからねーミスリル鉱石が内緒で取ってあるんだが……お前のために使うか」
僕の目が一気に輝いた。
「で? どんなの作るんだ?」と親父が言う。
「ガントレットとサバトン・ブーツさ!」と僕は胸を張る。
「なるほど、雷を生かした肉弾戦か! そりゃいい! まさにレア専用武器だな!」
「よし! 今から寝ずに作るぞ! 気合い入れて打てよ! 渾身の出来にしてやる! ワッハッハ!」
こうして、僕の冒険者としての一歩が始まる。




