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好きだったひとが嫌いになった日

作者: 種村杏

好きだった、ずっと。

誰よりも信じてたし、信じたかった。


どこか遠くから車の走る音が聞こえてきて、心の奥がずんと深く沈む。

カーテンの隙間から差し込む光が、固く閉じた瞼をチラチラと掠めた。

…眩しい。

重だるい瞼をゆっくりと持ち上げる

ぼんやりと濁った視界に映るのは、足元に追いやられた大量のぬいぐるみの山。

胸がちくりと痛む


ぱっと視線を逸らした瞬間、「ぐがっ」と息が詰まったような豚鼻のような、煩わしい音が部屋中に響いた


心が、重く沈んでいく。


すっと音の元凶に目を向けると、そこにいるのは私の好きな人。

何も知らず、気持ちよさそうに寝息を立てる、唯一の恋人


好きだけど、大好きだったけど。

誰よりも信じたかったし、誰よりも支えてあげたかったけれど。


彼には私より好きな人がいるらしい。


平気な顔で嘘をつけるくらい、私のことはどうでも良くなったらしい。


見てしまったLINEの通知、気づいてしまった嘘。

自分に向けていた言葉も態度も嘘だったらしい。


いや、嘘じゃないのかもしれない。

いや、私がそう信じたいだけかもしれない。


笑顔で話したあの時も、結婚するしかないと笑ったあの言葉も。

笑顔の絶えない家族になろうと言ったあの言葉も。

嘘だとは、思いたくない。

嘘だとしたら、もう何を信じて生きればいいのかわからない。

人間不信まっしぐらだ。


問い詰める勇気もなく、手放す度胸もなく、

好きだった人の寝顔を見つめながら、そっと口を開く


「どうして」


私よりも可愛い女の子。

私よりも尊敬できる女の子。


もっと可愛かったら、もっと頭が良かったら、

もっと稼ぎがよかったら、もっとセンスが良かったら

何か変わったのだろうか。


《もっと好きなら尽くせるんじゃない?》と言っていた貴方のLINEのメッセージ


その言葉が、一文が、目に焼き付いてはなれない。

一文だけじゃない、私を下に見たメッセージの数々


忘れられない、勝手に体が震えてくる

肩まで被ったタオルケットがゆらゆらと揺れる


私の前にいた優しい彼は嘘だった


どうしたらこの先、彼を信じられるんだろうか。

何も知らずにいたかったけれど、知ってよかったと思う自分もいる


でも、やっぱり、知りたくなかったな。


この先どうなるかわからないけれど、

確かに分かるのはひとつだけ。


私たちはもう、本心では話し合えない。


心から信じられない人のことを「好きだ」とどうして言えるのか。 


この離れたくないと思う心は、執着か、変化への恐怖か。

きっと、そのどちらもなんだろうけど。


私が大好きだった人との関係は、もうきっと終わりが近い。


せめて、私を失ったことを後悔しますように。


彼のいびき混じりの寝息を聞きながら

私はメイクポーチに手を伸ばした。


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― 新着の感想 ―
リアルな感情を見れてよかったです。実話でしょうか。 一度信頼にヒビが入ったらもう戻らないですね。 執着や変化への恐怖の他にも「依存」や「情」なんかもあると思います。
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