ルームメイトとの卒業旅行は、お花見とお弁当
私の名はマイニー。大学生活の終わりに卒業記念旅行をしようと考えた。
どうせなら楽しい思い出を残したい。卒業旅行をどうするか、ルームメイトのエブリに相談をする事にした。
「ねぇエブリ。卒業旅行の事なんだけどさ」
「旅行? お金がなくてバイト三昧な私達のどこにそんなお金があるのよ」
はぁ‥‥やっぱり駄目だったか。私とエブリは貧乏留学生だ。日本の大学へ入学する時には、お金を出してもらえた。
でも生活費用が足りない。私は親友で同じ留学生のエブリと、アルバイトをしながら大学生活を送って来たのだ。
大学を卒業した後、私達は母国へ戻る。せっかく憧れの日本へ留学出来たのだ。オンボロの下宿先とアルバイト先のスーパーのレジ打ち。それが帰国した後、日本の情景の記憶とか悲し過ぎると思わない?
「いいじゃない、アニメは沢山見れたわ」
エブリが日本へ来たのは新作アニメを見て、レアなグッズを集めるため。彼女の推しは癖が強い。
「マイニー、あなただって、美味しいもの沢山食べたよね」
「それを言われると‥‥」
ぐうの音も出ない。お腹はぐうぐう鳴る。苦学生になったのは趣味にお金をつぎ込んだから。
オンボロの下宿先は古いだけで、風情があって私は好き。狭い部屋をシェアしたのも、エブリとは仲良しで一緒に居たかったから。
「現実を見なさい、マイニー。私たちはやり過ぎなのよ」
がっくりと肩を落とす私。楽しい三年間だったのは認める。でも、卒業旅行を諦めたくない。
「美味しいものをいつもお裾分けしてくれたお礼に、卒業の記念はわたしが用意しましょう」
それはお互い様だと思う。でもエブリが同じ気持ちを持ってくれていて嬉しかった。
────そして、私たち二人の卒業の時が近づく。日本へ長く滞在出来るのは、これで最後。そう思うと寂しくなる。
「さて、約束を果たす時が来たね」
下宿先の部屋で、エブリがニヤッと紙袋を持ち上げてみせた。
「いざ、伝説の地へゆくでござる」
エブリの変な日本語に私は笑う。彼女が案内したのは、通いなれた大学の裏庭の一本桜の下だった。
「ここは‥‥富士山が見える!」
「大学に通っているものだけの特等席よ。ほら、花見のお弁当も」
焼いた鮭をほぐした具沢山おむすびに、ほうれん草の入った卵焼き。いつもよりちょっと贅沢だ。
麦茶を紙コップに注ぎ、私達は零さないように声を上げる。
「乾杯〜!」
他の学生には日常の景色。でも私達には最高に価値ある卒業記念の思い出となった。
お読みいただきありがとうございます。
そこで暮らす当たり前が、他の誰かにはかけがえのない宝物になるかもしれせん。