神え登るの「道」
前書き
人は何を失えば、自分を許せるのだろうか。
かつて一族を守るために禁忌の力に手を染めた少女、緋。
しかし、その選択は彼女のすべてを奪い去った。故郷は滅び、一族は絶え、生き残ったのは憎むべき「邪刀」と共に歩む自分だけだった。
背負いきれない罪の重さに押し潰されながらも、緋は旅を続ける。答えの見えない問いに囚われながら、彼女は生きるために戦いを繰り返す。だが、その旅路の先で出会ったのは、彼女の運命を揺るがす存在――時間を操る異邦の来訪者。
交わることのなかったはずの時間と空間、そして失われた過去が再び彼女の目の前に現れるとき、緋は問い直す。
「私は、この力で何を守るべきなのか?」
運命に翻弄されながらも立ち向かう彼女の物語は、後悔と赦し、そして再生を求める旅となる。
果たして、彼女はその手に何を掴むのか――それはまだ、誰にも分からない…….
黒髪の少女は青緑色の薬を一気に飲み干し、深く息を吸い込むと陵を見つめた。
「もう答えてくれるかしら?」
「はぁ……うん、どうしたの?」
陵は彼女から感じ取れる圧倒的な威圧感に驚いた。それはエデタとは異なり、何か警戒心に満ちた気配だった。
「やっぱり……」
そう言いながら彼女は立ち上がり、陵に近づいてきた。抵抗する術がない陵は思わず目を閉じたが、しばらく経っても何も起こらない。
不安げに目を開けると、彼女はただのんびりとポテトチップスの袋を開け、さらにコーラの缶を陵に差し出してきた。
「えっ?……」
「私は幕という姓で、名前は軽蓮。日本と中国のハーフよ。外では『華』というあだ名で呼ばれているわ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
そう言いながら彼女はその場に座り直し、箸でポテトチップスをつまみ、一枚を口に運んだ。そして再び陵を見つめる。
「名前と出身国を教えてくれる?」
「日本人、本名は秋葉陵。今はカロスト・ダニス。」
「魂転生か……。よろしくな、陵。」
「まあ、それは置いといて……。そうだ。」
「エデタ、最近どうしてる?彼女、しばらく私とおしゃべりしてくれなくて寂しいのよね~。最近の彼女の話を聞かせてくれない?」
軽蓮の瞳には興奮と喜びが溢れ、先ほどの冷たい美人の雰囲気とは全く異なる姿だった。陵はその変化に戸惑いながらも苦笑したが、軽蓮はすぐに咳払いをして、元の冷静な様子に戻った。
「エデタ、最近はね……」
そうして陵は最近エデタと会話した内容を簡単に説明した。それを聞いた軽蓮は、何か考え込むように下を向いた。
「三百年前と同じね……神尊、あの奴がまた……。」
そう言いながら彼女は拳を握りしめ、その怒りに呼応するように周囲の空間がひび割れていく。気づいた彼女はすぐに深呼吸し、気持ちを落ち着かせると再び陵を見た。
「聞きたいことはこれくらいかな。また会う時まで元気でね。」
「待って!」
「ん?」
「僕も少し質問していいかな?」
「ふむ……三つまでなら答えるわ。よく考えてから聞いてね。」
「じゃあ……まず一つ目。あなた、本当に人間なの?あの時、背中に二対の翼が見えたけど……。」
「……。」
「まさか、最初の質問がそれとはね。」
そう言って彼女は背中から現れた二対の翼を再び見せた。その眩い光に、陵は思わず目を細めた。
「彼女から聞いてるかどうかわからないけど、この世界では誰でも神になれるみたい。」
「自分の内なる思いをしっかりと持ち、その道を歩み続けるならば、心の中に『天への道』が現れる。そして上神はその道をいくつかの階級に分けて定義しているわ。」
「簡単に説明するから聞いて。」
そう言いながら彼女が手を振ると、一つの図表が空中に現れた――。
この世界では、ほぼ全ての人々が何らかの神を「信仰」しています。もちろん、神を信じない「無神論者」も存在します。まずは「信徒」について説明します。
特定の神を信仰し、その神に認められて「祝福」を授けられると「祝福体」に進化します。この祝福は最大で10回まで受けることができ、それが上限となります。
なお、異なる神々からの祝福も可能で、合計10回分まで受けることができます。つまり、複数の神を同時に信仰することも問題ありません。
「祝福体」が自らの内なる「道」を極め、その道が終点に達したと感じると、次の段階である「司神」へ進化します。この段階では、小さな世界を支配できるほどの存在となります。
また、もう一つの方法として「噬神者」と呼ばれる存在になる道があります。
これは神の残した欠片を取り込んで強制的に力を高め、突破を目指すものです。しかし、この方法は非常に危険で、急激な力の増加が原因で体が崩壊するリスクがあります。
「司神」の頂点に到達した後、その先の進化については正確な境地がわかっていません。
何が必要なのか、どのような条件を満たせば進化できるのか、現時点では誰も明確にしていません。
「仙神」は現在わかっている進化の次の段階です。「仙神」はさらに「一羽」から「四羽」の4つの段階に分かれています。背後に現れる羽の数が増えることで進化の段階を示します。
この段階を進むには「信徒」の数が重要になります。多くの信徒があなたを信仰し、その力が集まることで羽が増えます。
次の段階である「亞神」に進むには、自分の信徒に「祝福」を授ける必要があります。
しかし、祝福を授けると羽を一つ失ってしまいます。羽を取り戻すには再び数万の信徒を集める必要があり、この循環が矛盾を生むことになります。
ただし、ある亞神たちの証言によれば、祝福を終えた後に自然と羽が再生することもあるそうです。
「亞神」の段階では、祝福に制限がなくなり、「神力」と呼ばれる魔力見たいな物を消費することで自由に祝福を与えることができます。
また、一部の種族は「亞神種」と呼ばれていますが、これは彼らが生まれながらに亞神であるという意味ではありません。むしろ、彼らの血統や潜在能力が亞神への進化を容易にするということです。
「正神」になるか「邪神」になるかは、その人がこれまでの生涯でどのような行いをしたかに大きく依存します。
「無神論者」は神を信仰しない人々のことを指します。この中には「帝王」、「王尊」、「大魔法使い」など、特定の領域で非常に高い地位や力を持つ者が含まれます。
彼らは神の言葉や干渉に左右されることなく、自らの意志で道を切り開く存在です。
さらに特殊な存在として「修神者」がいます。彼らは神を信仰する必要もなく、自らの「道」を作り上げる必要もなく神になることができます。
その個体数は非常に少なく、現れるたびに災厄と呼ばれるほどの影響力を持つ者ばかりです。
ただし、一生涯その力を完全には使いこなせないことが多いのが特徴です。これが「努力しない代償」かもしれません。
軽蓮は話し終えると、一拍置いてから陵を見た。
「さっきの説明、メールで君のシステムに送っておいたわ。後で確認してね。」
「そうだ、基本的に転生者はみんなシステムを持ってるの。言語の翻訳とか必要だからね。」
陵はシステムを開き、メールを確認した。その間に軽蓮は崩れかけた空間を指差した。
「今日はこれくらいにしておくわ。残りの二つの質問はまた今度ね。」
「もう魔力が持たないから。」
そう言いながら彼女は再び巨大な手を操り、空間を引き裂いて去っていった。
「これ、渡しておくわ。」
彼女は陵に向かって一つの瓶を投げてよこした。その中には光る人影が閉じ込められていて、陵にとって見覚えのある気配だった。
「さっきの化物から拾った誰かの魂よ。復活できるかもね。」
「ありがとう。」
そう言って軽蓮は消えていった――。
「彼女、もう行った?」
意識を取り戻した嵐は、瓶を持った陵を見ながら尋ねた。
「うん、行ったよ。」
まだ完全に塞がれていない裂け目を見つめながら、陵は心の中で何度も彼女に感謝を述べていた。
「ん?信徒が一人増えたみたい。」
「この感じ……さっきの少年ね。」
「ふふ~、四羽になったら彼に祝福をあげるのも考えようかな。」




