決意の刃と背負う「罪」
嵐たちは成都郊外に到着するが、セルトが婚約者に捕らわれ、鎖に縛られた姿で現れる。
陵は救おうとするが、セルトは再び彼の目の前で砕け散り消失してしまう。直後、現れた紋章が血の魔神を復活させ、大地を裂き、四本腕の巨大な魔物が姿を現した。
その圧倒的な力に対し、緋は自らの命を代償に「終焉の花」と契約し、24時間の猶予を得て魔物と戦う決意を固める。
雷光と龍の翼が戻ったた緋は、仲間たちと共に魔物に立ち向かった。
緋の双眼は徐々に元の赤紫色へと戻り、頭には漆黒の二本の角が生えてきた。
彼女は逆手に握った太刀を構え、相手をじっと睨みつける。
「陸式:轟雷」
彼女の周囲に複数の魔法陣が展開されると、緋は猛然と血の魔神へと突進した。
その瞬間、戦場に無数の爆発音が轟き、煙と砂塵があたり一面を覆い尽くす。
視界を遮る黄砂が晴れる間もなく、中心部から無数の暗紅色のレーザーが四方八方へ放たれた。
その光景を目の当たりにした嵐は、迷うことなく前に進み出て両手を高く掲げる。
「セカンド・モンデズゾリエンス!」
彼の詠唱と共に、頭上から広がるように一層、また一層と防護膜が仲間たちを包み込む。
降り注ぐレーザーは雨のように地面を撃ち、その衝撃で飛び散る砂や破片が砲弾のように防護膜へとぶつかっていく。
「まずい……」
嵐は、時間の経過とともにひび割れていく防護膜を見つめ、全身に寒気が走るのを感じた。
予想通り、次の瞬間、最外層の防護膜が粉々に砕け散り、それに続いて第二層、第三層も次々と破壊された。
最後の層が軋む音を立てると、紅色の破片が雪のように舞い落ち、同時に暴風雨のような攻撃も収束していく。
仲間たちが警戒を解く間もなく、煙塵の中から眩い鮮紅色の光が再び放たれた。
「後退しろ!」
嵐が叫ぶと同時に、前方には殺意を孕む巨大な魔力球が迫りくる。
「終式!」
嵐が最前線に立ち、激しい衝撃波が彼を襲う。凄まじい魔力が彼の身体を貫き、死の恐怖が瞬く間に脳裏を支配した。
「ラストノ……デラビオンス……」
嵐の前には、四枚の翼を持つ巨大な虚像が現れ、仲間たちを守るように包み込む。
しかし、虚像は不完全で、次の瞬間には砕け散ってしまった。
「これが俺の限界だ……あとは頼む……」
嵐は血を流しながら、跪いて仲間たちの前に崩れ落ちる。
煙塵が晴れると、傷だらけの魔神がその場に立ちはだかっていた。
魔神の身体は一瞬にして全ての傷が癒え、その前に立つ緋の翼はボロボロに穴だらけだった。
緋は地面に降り立つと、迷うことなく自らの翼を引きちぎった。
仲間たちが駆け寄ろうとした瞬間、彼らの前に刀の鞘が突き刺され、進路を遮る。
緋は赤い瞳でどこか悲しげに彼らを見つめると、一言こう告げた。
「これは私とあいつの個人的な因縁だ。邪魔をしないでくれ。」
「貳式:奔雷」
そう言うや否や、緋の足元に魔法陣が再び展開され、彼女は魔神に向かって突撃する。
彼女の性格を知る仲間たちは、仕方なく戦場を離れ、市内に散らばり負傷者を探し始めた。
その場に残ったのは陵、嵐、そして陽の三人だけ。
遠くで戦う緋の背中には、いつの間にか新たな漆黒の龍翼が生えていた。
夜空には稲妻が走り、まるで数匹の雷蛇が飛び交うようだった。
陽は嵐を支えながら近くに座らせ、慌てて鞄から魔晶を取り出し嵐の口元に差し出した。
三人は遠くの戦場を見つめていた。その眼差しには恐怖ではなく、憎悪、無畏、そして守りたいもののために戦う意志が宿っていた。
「俺も……何か役に立てればいいのに……」
嵐はため息をつきながら遠くを見つめた。
「お兄ちゃん、十分頑張ってるよ!」
「はは、良い子だな。」
嵐は陽の頭を撫で、戦場の緊張感とは対照的な穏やかな笑みを浮かべた。
「ちょっと聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「『緋』のこと……彼女の過去を知ってる?」
その問いに、嵐と陵は数秒間視線を交わした後、嵐は首を横に振った。
「それは……彼女本人にしかわからないだろう。」
激戦を繰り広げる緋の体力は、次第に限界へと近づいていた。
距離を取った彼女は、太刀を丁寧に拭う。その刀身に映る彼女の目には、すでに感情の欠片もなかった。まるで無機質な機械のように。
空には数えきれない暗紅色の球体が浮かび、それが次々と都市へ向けてレーザーを放ち始めた。
建物が轟音と共に崩れ落ちる光景を見つめながら、緋は心を決めた。
彼女は魔法の力で太刀を宙に浮かせ、その刃先を自らの胸へ向けた。
その時、嵐が傷だらけの体を引きずりながら緋に向かって叫んだ。
「緋! 何をする気だ!」
陵の目の前に立っていた嵐は、急に陵の知らない人みたいになった…
緋は一瞬だけ振り返り、その赤い瞳が悲しげに揺れる。しかし、すぐに視線を外し、冷たく言い放った。
「……嵐、これは私の戦いだ。もう手出しはするな。」
「私もう戻っれない」
「私の悪人のしての命は、もうここで終わりたい」
「ふざけるな馬鹿野郎!」嵐は歯を食いしばり、声を張り上げる。
「お前はずっとそうだ! 自分の全てを犠牲にして、全部背負い込んで、他人を拒絶する。そんなやり方で何になる!」
「何か悪人だ!お前なんも悪くないだ!」
緋の表情が一瞬曇るが、すぐにその揺らぎを押し殺し、太刀を構えた。
「……背負い込むことしかできない人間もいる。それが私だ。」
「違う!」嵐は地面を叩きつけるようにして立ち上がり、血の滲む手で彼女に向けて拳を握り締めた。
「俺たちは仲間だ! 一人で戦う必要なんてないんだ!」
その言葉に、緋の動きが止まった。彼女の肩が微かに震えているのが嵐からも見て取れる。
「仲間……」緋は呟いたが、その声はどこか遠く、虚ろだった。
嵐はその姿を見て、低い声で続ける。
「俺たちはお前を信じてる。だから、お前も俺たちを信じろ…その技だけは……」
緋は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。そして再び目を開いた時、彼女の瞳には冷たい決意が宿っていた。
「……だから、邪魔をしないでくれ。」
嵐がその異変に気づき駆け寄ろうとするが、すでに遅かった。
緋は太刀を胸に突き立て、深紫色の血が刃を伝い地面へと滴り落ちた。
「父さん、母さん……親不孝な娘でごめん……あの時、私さえいなければ……」
「でも……もうすぐ……会いに行くよ……」




