仮面の導き —運命と代償の交錯—
陵は血に染まりながら群衆と対峙し、自分の命を顧みず敵を倒していく。その姿はまるで死神のようであり、戦場は炎と血で埋め尽くされた。彼の戦いは狂気に満ち、全てを破壊し尽くす勢いだったが、その中で彼の体も限界を迎えつつあった。
群衆に追い詰められた陵の前に現れたのは、仮面をつけた「緋」とその仲間「嵐」だった。彼らは圧倒的な力で群衆を鎮圧し、陵の傷を癒す。不思議な魔法陣と祈りの言葉が戦場を包み込み、まるで天の力が降り注いだかのように、周囲は光に満たされた。
陵は自分を助けてくれた嵐と陽に感謝し、彼らに同行したいと願い出る。嵐は迷いなくその願いを受け入れ、3人は静かに小さな町を後にする。彼らが進む道の先に何が待つのかはまだ誰も知らないが、陵の目には新たな希望と決意が宿っていた。
暴動が収束すると、陵は二人の後ろについて黙々と小さな町を後にした。
道中、二人は笑い合いながら楽しげに会話をしているのに対し、陵はただ黙ったまま後をついていくだけだった。
「ところで、小兄ちゃん、君の名前はなんて言うんだ?」
嵐は足を止め、振り返りながらリョウに問いかけた。突然の質問に、陵は一瞬驚いた様子を見せたが、静かに口を開いた。
「陵……陵と呼んでくれ。」
「……陵、俺たちが何者かわかるか?」
嵐は地面に腰を下ろし、火を起こし始めた。リョウが返答に窮している間に、嵐は火を起こす手を止めず、穏やかに続けた。
「まあ、焦るな。旅路の途中で少し休むのも大切だ。」
「そうだ、これ君の」
嵐は一つの袋を陵に渡し、彼は中身を見ると、全てがレベルの違う魔晶だった。
「あぁ…ありがとう」
「感謝なんでいらない、そもそもこれは君のものた」
それをあと、陽が嵐の横にちょこんと座りながら、笑顔で口を開いた。
「お兄さん、本当にのんびりしてて大丈夫なの?」
「大丈夫さ。急ぐのは、かえって危険を招くこともある。」
そう言うと嵐は手を伸ばして陽の頬を軽く摘まんだ。二人のやり取りを目の当たりにしたリョウの胸中に、ふと紗雪との記憶が蘇った。
その記憶に思いを馳せていると、不意に嵐がリョウの顔を見つめ、小声で呟いた。
「おい……お前、泣いてるぞ。」
嵐が差し出した手拭いを受け取りながら、リョウは自分の頬をなぞった。そこにはいつの間にか涙が伝っていた。
「すまない……ありがとう。」
嵐は小さく頷くと、再びリョウに問いかけた。
「さて……俺たちが何者か、少しは見当がつくか?」
リョウは目を伏せ、迷いを込めた口調で答えた。
「お前たちは……暗蒼邪教の一員、だろ?」
嵐はその言葉に少し驚いた様子を見せ、しかしすぐに微笑を浮かべた。
「意外だな。俺たちの名前を知ってるなんて。でも、お前、『暗蒼邪教』って言葉の本当の意味、知ってるか?」
リョウが首を横に振るのを見届けると、嵐は少し真面目な表情になり、話し始めた。
「『暗蒼邪教』っていうのは略称だ。本当の名前は――」
「『暗き中で蒼時を守り、邪悪を滅ぼす教団』だ。」
その言葉を聞いたリョウは、驚きに目を見開いた。嵐は続ける。
「簡単に言えば、俺たちは蒼時教の中でも選りすぐりの戦士が集まる組織、つまり『精鋭部隊』みたいなもんさ。」
嵐は自分の顔に付けていた仮面を取り外すと、片側の頬に刻まれた火傷の跡があらわになった。その傷跡は見る者を思わず黙らせるほど痛々しく、そしてその下に輝く翠色の瞳は、月光に照らされて宝石のように煌めいていた。
「少し休んだら、また先に進むぞ。それまでに聞きたいことがあれば、なんでも聞いてくれ。」
リョウは少し迷った後、ふと仮面に目を向けて問いかけた。
「その仮面……それについて教えてほしい。」
嵐は水筒を取り出して一口飲むと、ゆっくりと語り始めた。
「この仮面は、俺たち『暗蒼邪教』に入団した証だ。ただし、これは単なる装飾品じゃない。心に刻まれる一種の『烙印』みたいなもんだよ。この仮面を持つ者は一生、エデタを守る戦いから逃れることはできない。」
「初めは誰でも仮面は半分だけだが……自分の『道』を見つけ、その道に命を捧げる覚悟を決めたとき、仮面は徐々に完成されていくんだ。」
リョウはその言葉に耳を傾けながら、自分の道とは何なのか、自問し始めた。
嵐が静かに語り始めた。彼の声には冷たさと重みが交じり合っていた。
「さっき君が見た『緋』のことだが、彼女の歩む道は“万物を呑み込み、自らを犠牲にする”ものだ。その道は、彼女の持つ刀との相性が完璧に一致している。だが、彼女はその代償として、あまりにも多くのものを失った。」
陵はその話に耳を傾けながら問いかけた。
「多くのものって……具体的には?」
嵐はため息をつき、遠くを見つめながら答えた。
「彼女は、一族を失い、視力を奪われ、さらには空を飛ぶ力さえも失った。そしてそれだけじゃない……。彼女が犠牲にしたものは、おそらく、彼女自身にも完全には分からないだろう。」
嵐の言葉は淡々としていたが、その裏に潜む悲しみと諦念が、陵には痛いほど伝わってきた。
「だからこそ言いたい。人は自分の進む道を選べるかもしれない。しかし、その道を歩むことで得られる成長には、必ず代償がつきまとう。そして、その代償が大きければ大きいほど、背負う痛みも深くなるんだ。」
陵はしばらく考え込んだ。そして、重い口を開く。
「……それでも、彼女が失ったものを取り戻すことはできないのか?」
嵐は短く首を横に振った。
「一族を除けば、取り戻せる可能性はある。ただし、それには“より大きな代償”を支払わなければならない。魔剣が要求するのは、いつだって対等以上の対価だ。」
その答えに、陵はさらに踏み込んで尋ねた。
「それじゃあ……君自身の道は? 自分が進むべき道を、見つけているのか?」
嵐は肩をすくめ、皮肉げに笑った。
「俺の道? 誰にも分かりはしないさ、俺が進むべき道なんて。正直なところ、今歩いているこの道にすら自信なんて持ててないよ。」
嵐は陵の問いを聞き流すように立ち上がり、軽く筋を伸ばした。
「さあ、先に進むぞ、陽。」
「うん!」陽は元気よく返事をし、嵐の背に続いた。




