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<神に見つめる人>  作者: 空白
『死』への恐怖
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星空の中で交わる運命の記憶

「あなたは誰……?」

「私をエデタと呼んでいい」

「えっ……エデタ様ですか?!」

「その通り。私は時空の神、『エデタ』だ」


目の前に現れたのは、私が尊敬してやまない神、エデタ様だった。驚きと興奮で胸がいっぱいになる。


しかし、エデタ様はどこか申し訳なさそうな表情で深い溜息をつき、静かに言葉を紡いだ。


「すまない……私は君の運命を変えることができなかった」

「どうしてそんなことをおっしゃるんですか?私、今とても自由で幸せですよ」


エデタ様は悲しげな表情を浮かべながら、私の頭を優しく撫でた。


エデタ様は静かに私を見つめていた。その表情には申し訳なさと、私に何かを伝えたいという強い意志が感じられた。


「君がこれから見るものは、決して簡単に受け入れられるものではないだろう。しかし、それでも君は知るべきだ。自分が誰で、何を背負っているのかを」


エデタ様の声は優しかったが、その中には一抹の厳しさもあった。私はその言葉に少し戸惑いながらも、深く息を吸い込んだ。


「怖いです……」

正直な気持ちが口をついて出た。自分の過去や真実を知ることが、どれほどの痛みを伴うか分からない。


それでも、エデタ様の目を見ていると、不思議と逃げ出す気持ちにはなれなかった。


「怖いのは当然だ。過去には多くの悲しみがある。だが、それを知ることでしか、未来への道は開けない」

彼女の言葉には重みがあり、その背後には計り知れない経験が垣間見(かいまみ)えた。


私は小さく頷いた。


「分かりました。見ます。何があっても……」

その言葉にエデタ様は満足そうに微笑み、軽く手を振った。


瞬間、空気が変わった。部屋全体が重くなり、まるで私を包み込むような何かが迫ってくるのを感じた。


「覚悟はいいかい?」

エデタ様の問いに、私は迷いを捨てて力強く頷いた。


そう言うと、どこからともなく伸びてきた無数の黒い手が私を包み込み、暗闇の中へと引きずり込んだ。


気がつくと、私は幼い頃の姿になっていた。これが……私の記憶?


必死に体を動かそうとするが、まるで糸で操られているように動けない。目の前には過去の光景が広がる。


「浅羽、そろそろ行く時間よ」

「うん!」


目の前に見えるのは幼い少女の視点。見知らぬ「幼稚園」という場所。そこで、あの人……『秋葉 陵』に出会った。


その瞬間、周囲の時間が急速に早送りされ、無数の記憶が一気に押し寄せる。頭が割れそうなほどの痛みとともに、記憶が繋ぎ合わされていく。


私は、浅羽紗雪――そしてこの体の記憶を受け入れた。


「終わったの?」

私は膝から崩れ落ち、混乱する思考を整理する間もなく、その場に呆然と座り込んだ。


「どうだい?思い出せたか?」

エデタ様が優しく微笑みながら、私の頭を撫でる。その仕草は母親のように温かい。


私は頷く。記憶の中に広がるあの星空の景色――それは、私がかつて見た夜空と同じだった。


「君はセルト・レクイティナであり、浅羽紗雪。そして、常に君のそばにいた秋葉陵こそが、カロストだ」


そう告げられるまでもなく、私は理解していた。だが……彼にもう一度会えるのだろうか。


「エデタ様……私は、彼にもう一度会えるのですか?」

エデタ様は何も答えず、ただ悲しげに目を伏せた。


「難しいだろうね。私は未来を完全に知る神ではないけれど、それでもほんの断片は見えるんだ……」

「そう……ですか」


自分の運命は決まっている。私はもう死んでいる。間もなく、私の魂は『不朽』と呼ばれる存在へ渡される運命なのだ。


「それなら……エデタ様、少しお話をしてもいいですか?」

「もちろんだとも」


エデタ様は微笑み、一瞬のうちに紅茶とケーキを用意してくれた。椅子を引いて私を座らせ、まるで普通の午後を過ごすように振る舞う。


「エデタ……お聞きしたいことがあります」

「どうぞ、答えられる範囲でならお答えするよ」


「なぜ、彼らはあなたの教会を破壊したのですか?」


エデタ様はその問いに沈黙を保った。手にしていたマカロンを持つ手が止まる。


神尊(アルゼンチ)との争いによるものだ。だが詳細は話せない」

「では、なぜあなたの信徒はこんなにも少ないのですか?」


「かつて私は因果(カアマ)記憶(メモリー)予知(フェルナーチ)を司る神だった。しかし、それが神君の地位を脅かすものとされ、力を奪われた。信徒の三分の一を持っていた私の教えも分割され、やがて教会も破壊された」


エデタ様の言葉には静かな悲しみが宿っていた。それでも、彼女は微笑みを浮かべていた。


「それでもいいさ。君とこうしてお茶を楽しめるだけで」


エデタ様は紅茶のカップを持ちながら、微笑みを浮かべて私を見つめていた。彼女の瞳には、計り知れないほど長い時間を超えてきた者だけが持つ深い悲しみと、どこか懐かしい温かさがあった。


「君が生きている間、星空を見上げたことはあるかい?」


突然の質問に少し驚きながらも、私は過去を思い返した。


「はい……幼い頃、夜空を眺めるのが好きでした。星があまりにも遠くて、でも輝いていて……」

「その星たちは、時間と空間の狭間に存在しているものだ。あの夜空を見上げるたびに、私は君たちが短い一生の中で何を願い、何を求めているのかを思い知らされる」


エデタ様は優しく言葉を続けた。


「人間の一生は(はかな)い。それでも、その短い間に愛し、憎み、笑い、涙を流し……まるで永遠であるかのように生きる。それがどれほど尊いことか、君にはわかるかい?」


私は返事ができなかった。ただエデタ様の言葉に耳を傾けるだけだった。


「私がまだ生きていた頃……」

その言葉を口にした途端、胸が締めつけられるような感情が押し寄せた。私は言葉を詰まらせたが、エデタ様はそんな私を静かに見守ってくれていた。


「……彼と見た夜空が、今でも忘れられません。あの星たちは、まだ輝いているのでしょうか?」

エデタ様はカップを置き、小さく頷いた。


「もちろんだとも。時間は流れても、あの夜空は変わらない。ただ、見る人の心によって姿を変えるだけだ。君の記憶にある夜空は、君と彼の絆そのものだ」


その言葉に、私の胸の奥がじんわりと温かくなった。エデタ様の言葉には、どこか母のような愛情が感じられた。


私たちは、時の経過を忘れるほど多くのことを話した。エデタ様との時間は、心の底から温かかった。


しかし、ふと見ると私の手が黒く染まり始めていた。


「……時間ですか」

「そうだね」


私は立ち上がり、エデタ様に感謝の言葉を告げた。


「エデタ様……ありがとうございました」

「これが私にできる精一杯のことだ」


その瞬間、私は黒い闇に飲み込まれた。体中に巻きつく鎖、砕ける骨の音、そして終わりなき暗闇。


――痛い、苦しい、そして怖い。


「会いたい……もう一度、彼に会いたい……!」


叫びたかった。だが、その声さえも闇に吸い込まれていった。

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