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<神に見つめる人>  作者: 空白
『死』への恐怖
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彷徨う魂の結末

私の名はセルト。王族に生まれたが、私の心は自由を求めている。だが、世間は私の意志など関係なく、政略結婚を強いる。未婚夫のナミエル・ドロフォムは、家族の経済的な安定を図るために結ばれるべき相手だ。彼のことは嫌いではないが、愛情は感じられない。ただの義務であり、家族の期待に応えなければならないだけだ。


先日、私は再びあの不安定な気持ちに襲われた。何かが違う、何かが私を試しているような気がしてならない。そんな中で、ナミエルとの静かな午後が続く。彼の優しさや、私への気遣いが心に響くこともある。しかし、その一方で、私の中で心の奥底にある疑問が大きくなっていく。


そんな疑問の一部は、最近、過去の出来事に絡んでいる。あの血の匂いと赤い瞳の人物—一体何だったのだろうか。あの夜の出来事が私の心に強く影を落としている。


今日もまた、ナミエルと共に過ごす時間が始まる。馬車の中、彼の職業的な微笑みが私を包み込むが、心の中ではその微笑みに隠された本当の意味を探ろうとしている自分がいる。

「走れ、早く走れ。」

夢の中で、私は誰かにそう言われた。しかし、その言葉を最後に夢は突然途切れてしまった。


彼が誰なのかも、その夢が現実だったのかも分からない。ただ、胸の中に得体の知れない焦燥感が残っていた。


目が覚めると、身体が無意識に命令に従うように動き出し、ベッドから起き上がって逃げ出そうとしていた。


しかし、扉にはいつの間にか鍵がかけられ、金属製の鎖までしっかり固定されていた。次の瞬間、静まり返った部屋の外から足音が徐々に近づいてくるのが聞こえてきた。


そしてその足音が扉の前で止まり、重い扉が軋む音とともにゆっくり開かれた。


そこに立っていたのはラミエルだった。彼は手に太い麻縄を持ち、ニヤリと笑みを浮かべていた。


「ほう、俺がかけた薬がこんなに効かないとはな。」

「薬?何のこと?」


混乱する私を前に、ラミエルの表情はどこか楽しげだった。


けれど、彼のその顔にはどこか違和感があり、思わず目をそらしたくなる奇妙な威圧感があった。数日前、森で見たあの謎の人物の姿と徐々に重なり合っていくのを感じた。


「お前はな、俺があの御方に捧げるためのにえだ。大人しくしていれば痛くはないさ。」


そう言うと、彼は私のベッドに乗り上がり、片手で私の顎をつかんで、じっと顔を覗き込んできた。その目には異様な光が宿り、見る者の心を縛り付けるような冷たさがあった。


「何度見ても、お前は完璧だな……あの御方もきっと喜ぶだろうよ。」

彼はそう(つぶや)きながら、用意していた縄で私の手首を縛り始めた。


「ここまでお前を騙すのには、手間も時間もかかったんだぞ。」


その言葉に、私の中に湧き上がる感情は恐怖ではなく、虚しさだった。


縄がきつく締められる感覚にも、抵抗する気力は湧かなかった。


ただ、深くため息をつき、彼を見つめながら静かに言った。


「どうせもう死ぬんだ。だったら、せめてその“御方”っていうのがどんな存在なのか教えてくれない?」


ラミエルは笑いながら答えた。

「いいだろう。俺にその方の存在を隠せと言われたわけじゃないからな。」

彼の口から語られる言葉は、信じ難いものばかりだった。


「生け(にえ)の話を聞いて、お前も多少予想はついているだろう?ああ、そうだ。御方は邪神だよ。この世界における“不朽(アンデット)”の神だ。」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に浮かんだのは、森でカロストが私に伝えた言葉だった。あの時はただの戯言だと思っていたけれど、もしかしたら本当だったのかもしれない。


私たちは過去に確かに出会ったことがあったのではないか……しかし、それを思い出す時間はもう残されていないだろう。


「俺は子供の頃、大病を患った。それを救い、不死の力を授けてくださったのがあの御方だ。その代わり、定期的に天賦の才を持つ者を生け贄として捧げる契約を結んだんだ。そして、今回選ばれたのがお前というわけだ。」


彼はそう言いながら手を止め、一瞬だけため息をつくと、私の顔にそっと手を当て、瞼を優しく閉じさせた。


「少しだけ眠れ。目が覚めたら、すぐに終わる。」

「分かった。」


その言葉を最後に、私は再び眠りに落ちていった。


目を閉じると、また夢が訪れた。今回の夢は異様に静かで、辺りには時計の針が時を刻む音だけが響いていた。


そして、遠くにはマントを羽織った女性がじっと立っていた。彼女は微動だにせず、ただ私の方を向いているように見えた。


私は彼女に近づこうと足を進めた。しかし、どれだけ進んでも距離は縮まらない。


そうこうしているうちに、彼女がゆっくりとマントを外した。その下から現れたのは淡い青色の髪の女性で、彼女は静かにこちらを振り向いてこう言った。


「また会ったわね、浅羽紗雪。いや……今のあなたはセルト・レクイテイナかしら。」

「どういう意味?」


そう尋ねて手を伸ばそうとした瞬間、周囲の空間がまるでガラスのように砕け散り、その破片が次々と私の身体に突き刺さってきた。

鋭い痛みが全身を襲い、足元の床が崩れ落ちていく感覚に囚われた。


「彼女は誰……私は誰……?」

そう自問しながら、私は闇の底へと落ちていった。


再び目が覚めると、そこは薄暗い部屋だった。天井には奇怪な紋様が描かれた魔法陣が光り、周囲にはいくつもの蝋燭が灯っていた。


私はその中心に横たえられ、体は動かず、冷たい感触が全身を支配していた。


「さあ、今からお前の魔晶を取り出すぞ。」


ラミエルはそう言いながら手袋をはめ、冷ややかな笑みを浮かべた。その手が私の胸元に触れる瞬間、私は最後の抵抗のつもりで呟いた。


「毛布を持ってきてくれない?寒いの。」


彼は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに笑って「いいだろう」と答え、部屋の隅に置いてあった毛布を取りに行った。


戻ってきた彼は、私の隣に毛布を置き、ナイフを取り出して私の服を切り裂いた。


冷たい刃が肌に触れるたびに、その鋭い感覚を感じながらも、私は奇妙に落ち着いていた。


死が近づいているというのに、恐怖は感じなかった。むしろ、これが解放のように思えたのはなぜだろう。


そして、彼はついに私の胸腔に手を突っ込み、淡い赤色をした魔晶を取り出した。


その魔晶を見て、彼は満足そうに笑った。

「こんな色は初めて見た……美しいな。」


彼は魔晶を掴み、それを砕いて魔法陣を完成させた。血液が魔法陣を染め上げ、光が放たれた後、私の視界はゆっくりと闇に沈んでいった。

「おやすみ……。」

「……うん。」


意識が遠のく中、どこかで誰かの声が聞こえた。


「三度目だな。まさか一日に三回もお前に会うとは思わなかったよ、『血の魔王(アルロウジ)』の寄生者よ。」

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