奪われた物
あの日以降、陵は生活のために協会でさまざまな依頼を引き受けるようになった。もっとも、EランクやFランクの依頼のほとんどは日常生活に関わる雑用ばかりだった。例えば、清掃や荷物の運搬、牧場の手伝いといったもので、戦闘とはほど遠い仕事がほとんどだ。それでも、宿泊施設の利用費用を心配する必要がない分、着実にお金を貯めることができた。
一方で、セルトはあの日の出来事以来、何かしら胸の奥でくすぶるような違和感を感じ続けていた。それは、平穏な日常に混じるわずかなざわめきのようなものだった。
特に、「カロスト」と名乗ったあの存在を思い出すたびに、セルトの心は妙に落ち着かない気分に陥った。彼の記憶のどこかに、あの名前を聞いた覚えがある。いや、むしろ、それは何十年も前に一度会ったことがあるような感覚だった。
しかし、その記憶を思い出そうとするたび、それはまるで古びた図書館の最深部にしまい込まれた一冊の書物のように、どう探しても手が届かなかった。
彼は時折、静かな場所で一人になり、瞼を閉じて深く記憶を手繰ろうとした。しかし、思い出しかけるたびに、その記憶は霧のように消え去り、指先をすり抜けていく。
「カロスト……一体、何者なんだ……?」
あの日以来、陵は生活のために協会でさまざまな依頼を引き受けるようになった。
その多くはEランクやFランクの依頼で、ほとんどが日常的なものであり、戦闘や危険を伴うものは少なかった。しかし、宿泊の心配をしなくて良いため、少しずつお金を貯めていった。
「セルト、最近どうしてるんだろう?」
陵は懐中時計を見つめながら、ふと考え込む。気づくと、記憶の奥深くに沈んだ昔の出来事が再び浮かび上がってきた。
教室にはまだ夏の余熱が残っており、窓の外ではセミの鳴き声が以前ほど賑やかではないものの、未だにその余韻が感じられる。
秋葉陵は頭を下げ、書いたばかりの教科書をゆっくりとめくっていた。
その動きは控えめで慎重で、まるで教室の背景に溶け込もうとしているかのようだった。
そのとき、扉が開き、浅羽紗雪が「おはよう!」と元気よく入ってきた。
まるで一陣の風のように、笑顔で周りの同級生に挨拶をしながら歩いていた。まだ夏の光が彼女の表情に残っているかのようだった。
教室の中央に着いた紗雪は、急に歩みを止め、視線を秋葉陵の方に向けた。
「ねえ、秋葉君、夏休みどうだった?」紗雪は軽快に歩み寄りながら、自然な口調で話しかけてきた。
秋葉陵は少し驚き、顔を上げると紗雪の明るい目と目が合った。
すぐに視線を落とし、答えた。「…まあ、普通だった。」声はとても小さく、外の風の音にかき消されそうだった。
「『普通』って、どういうこと?」
紗雪は椅子を引き寄せて、すぐに隣に座った。
「夏休み、どこかに行ったの?」
秋葉陵は指先を少し強く握りしめ、ページをめくる手が止まる。
「…家で本を読んでいた。」
「本当?」
紗雪は目を大きく見開き、驚きの表情で言った。
「静かな夏休みだったんだね。でも、外には出なかったの? 一度も?」
「うん、出たよ…」
秋葉陵は少し顔を上げて、話題が冷たく終わらないようにと気を使って言った。
「図書館に行った。」
紗雪は少し驚いた後、笑い声をあげた。彼女の笑い声は太陽のように明るく、でも全く嘲笑の気配はなかった。
「へえ、君、ほんとうに独特だね! 今度、図書館に一緒に行こうよ。私も図書館が好きなんだ。」
秋葉陵は彼女の笑顔を見つめ、しばらく言葉を失った。
窓の外から吹き込む風が紗雪の髪を軽く揺らし、夏の最後の温もりを感じさせ、二人の会話はまるで永遠に続くかのように感じられた。
その後、陵は懐中時計をしまい込み、つぶやいた。「あの記憶、彼女は思い出せるのかな…」
陵は協会に戻ると、いつものような臭いが漂っていた。
だが、ここでの生活が長く続いていた陵には、それもすっかり馴染んでいた。
「ああ、カロスト、また来たのか?」
フロントの女性は、昔の『最弱伝説』を知っていた頃とは違って、積極的に依頼をこなす陵を見ても、何も驚かなくなっていた。
「今日は探索の依頼が来てるよ。廃墟の地下城の調査なんだけど、問題ないよ。中の魔物は全部片付けてあるし、道も何度も確認したから、もう魔物は出ないはずだ。」
「それじゃ、僕が受けるよ。」
陵は依頼カードを受け取ろうとしたが、そのとき、フロントの女性が呼び止めた。
「すみません、カロストさん、指名の依頼があるんです。」
陵は驚いて自分を指差し、「誰からだ?」と尋ねた。
「依頼人は…セ、セルト・レクイテイナさん⁈!」
驚いた女性は思わずテーブルを叩いて立ち上がり、失礼を詫びた後、カードを陵に渡した。
「申し訳ありません、失礼しました。それでは、旅路が順調であることを願っています。」
「彼女が何を僕に頼んでいるんだろう…?」陵は首をかしげながら、カードに記された場所へ向かう準備を整えた。
馬車に乗ると、セルトが待っていた。いつもと違って、彼女は純白のドレスを着ており、その姿は最初に会ったときの彼女とはまるで別人のようだった。
「それで…何の用で僕を呼んだの?」
「昔のことを話したくて、ちょっとね。」
「でも、なんでそんな格好?」
彼女は微笑しで答えだ
「今から、私の婚約者に会いに行くんです。」
「なるほど…」
陵はセルトが無意識に言った言葉に、胸の中で拳を握りしめた。自分が好きな人が他の男の妻になるのは、どうしても納得できなかった。
「それじゃ、これから話すことはきっと信じられないかもしれないけど…」
「うん、信じるよ。」
セルトは確信を持ったように陵を見つめ、その視線に押されるように、陵はゆっくりと口を開いた。
「昔、君と会ったことがある。かなり遠い場所でね…」
その後、陵はすべての出来事をセルトに話した。
「本当に…?」
セルトはまたまだ疑問がたくさんあるけど、でも陵の真剣な顔を見で、その疑問は結局聞いていなかった。
「もし信じてくれるなら、それが真実だよ。」
「うーん…」
その後、二人は静かな時間を過ごし、馬車はある小さな村に停まった。
「あなたの婚約者はここにいるの?」
「うん、ここで貧しい家庭に寄付をしてるの。」
「本当に素晴らしい人だね…」
「おお、君も来たのか。」
優雅に振る舞う男性が二人の前に現れたが、彼は陵には全く目もくれず、セルトの手を取って膝をつき、手背にキスをした。
「今日も君は本当に美しいね。」
しかし、陵は静かに拳を握りしめ、その男の行動を見守った。男は自分のことは無視して、セルトを王子様のように抱きかかえ、陵に向かって微笑んだ。
「すみません、しばらくここで過ごしてもらうことになりそうです。」
その言葉は、悪意がないように見えたが、陵にはまるで嘲笑のように感じられた。
「うん…」
その後、男はセルトを抱えて去っていった。陵はその後どうすればいいのか分からなかった。
セルトがその男に何をされるのか、そして自分が何をするべきか、まったく見当がつかなかった。
陵はそのまま街を歩きながら、自分の未来に希望が持てなくなっていった。どんどんと信じられなくなり、力を失っていった。
そんなとき、陵はふと教会を見つけた。
「蒼時教…」
「エデタの教会だよ。」
「へえ…」
陵はそのまま教会の中に入ると、中央にある淡い青い円盤に引き寄せられた。
無意識に手を伸ばすと、彼の意識は身体から抜け、青い空間に出現した。
「ようやく来たね」
はーいまさかもうアップしたと考えでないでしょ〜
みんなの大切のものは何ですかな〜〜
私は、やっば初音ミクだ!




