魔界(まかい)のプリンス女子、お城を買う
僕は魔界のプリンス、そして女子さ。魔界では珍しくないから気にしないで。
「僕も大人になったから、彼女と暮らす城を従業員とセットで買いたいんだよ。内見というか、内覧はできる? 物件の確認だね」
不動産業界では、賃貸の場合は内見、購入の場合は内覧って言うらしい。僕は城を買うつもりだから内覧かな。
「ど、どうぞ! ご覧ください」
不動産業者の女性がカタカタ震えながら、城の中を案内してくれた。緊張しすぎだよ、大きな取引だからかなぁ。
「君、若いけど新入社員?」
「はい。社員一同、プレッシャーに負けまして。失うものが無い新人の私ならば、ダメで元々だと社長から送り出されました」
「ふーん。庶民って大変なんだね」
僕は魔界のプリンス女子で、後継ぎは兄や姉になるから、恋人との新居暮らしに専念できる。今日も僕は恋人同伴だ。困ったのは、購入の決め手が見つからないことだった。
「予算は幾らでもあるけど。何でも買えるのって、逆に買い物が難しいんだよね。君、何か僕に売りつけてよ。不動産屋でしょ?」
「無理ですよぉ。お城のことなら、プリンスの方が詳しいじゃないですかぁ」
あれこれ話した後、新入社員の子がアイデアを出してくれた。
「どうでしょう。ここは一つ、恋人さまの意見を伺ってみては」
「いい案だね。ではハニー、君にご希望はあるかな?」
そう訊いてみると、僕のハニーは、にっこり笑って言った。
「私、ネコちゃんが欲しいです」
「まさか、私も買われるとは思いませんでした……」
不動産業者の元・新入社員の女性がそう言う。彼女は獣人族で、僕のハニーは猫耳の彼女を気に入ったらしい。業者にも金は払ったし、彼女はハニーの専属メイドとして充分な給金を貰っている。
「結果オーライじゃないか。君の実家に近い城を買ったし、何なら家族を呼んでもいいよ」
恋人は猫ちゃんを可愛がって、その姿を見ると僕も幸せだ。今なら愛人枠も空いているから、そこの君も飼われてみないかい?