地図と、スコップと、
初投稿です。
よろしくお願いします。
マスク着用の外出にすっかり慣れたようで、やはり少し息苦しさを感じる、このご時世。
山奥のコテージならば、まだ多少は許されるだろうと、奇跡的に取れた1週間の休みを利用して、仕事で疲労し切った身体と精神を癒しに来たのが20分ほど前。
ネットで予約、ネットで決済、コテージの合鍵すら宅配で届くという、まさに非接触型サービス。
辿り着くまでに駅や車内や街中で感染しては意味がない、という趣旨なのか、交通手段は自家用車のみ、という条件のついた徹底ぶり。
自動車通勤だし、特に運転技術に不安のある方でも無かったが、さすがに舗装されていない山道というのは、慎重にならざるを得なかった。
対向車が来たらどこに退避すればいいのか、とドキドキしながらのぼってきた細い山道の運転も、着いてしまえば良い経験でしかない。
帰り道も同じ緊張感を味わうことになるのだとかは、今考えることでもないだろう。
5時間の運転の果てにようやく辿り着いたのは、三角屋根の、丸太のコテージ。
一階部分にリビング、キッチン、トイレ、洗面台、浴室があり、2階ロフト部分が寝室になっている。
食材はキッチンの冷凍冷蔵庫にあらかじめ準備されているというオプションで、6泊7日にも関わらず、リビングに運び込んだスーツケースは一つで済んだ。中身はほぼ衣類である。
さっそく室内を確認してみれば、ペットボトル飲料水はもちろん、お茶に炭酸飲料、果実ジュース、缶ビールに瓶ビール、ワインに日本酒などのアルコール、即席麺から冷凍肉、冷凍魚、葉物から根菜まである食材に、歯ブラシから入浴剤、食器に調理器具、洗剤類、洗濯機に乾燥機、食洗機、電子レンジなどの家電、およそ生活に必要そうなものは取り揃えられていた。
何をどう使っても追加料金なしであの値段、というのも、ここに決めた一つの要因だったな、と思い出す。
唯一の欠点とすれば、Wi-Fi がないどころか電波さえ通じていない、と言うところだろうか。
だがそれすらも、仕事を完全に忘れるにはちょうどいい。
だらしなくリビングのソファに寝転がりながら、ふと。
「地図?」
壁にかかった、額入りの一枚の地図が目に留まった。
なんとなく見覚えがあるのは、ここへ来るまでにカーナビで何度も目にしていたからだろう。
そう、それは、このコテージ周辺の手書きの地図であった。
なぜわざわざ地図を飾る?
そこに意味はないのかもしれない。
でも。
「気に、なるよなぁ。この、×印」
それは、コテージの裏手、少し離れた場所にポツンと記されていた。
×印の書かれた方角、おそらくはこちらかと浴室のある方面を振り返る。
縮尺が正しいとも限らないし、方角だって正しいとも限らないのだが。
視線を戻した先、玄関の、入ってすぐの棚に。
ヘッドライト付きのヘルメットと、長靴と、スコップを見つけて。
「これは、やってみるしかないのでは?」
宝探し。
一度思いついたら、もうやめるなんて考えられない。
気づけば新品のヘルメットと少し大きめだった長靴を装着し、これまた新品のスコップを握りしめて、コテージの裏手へと向かっていた。
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そういえば、小学校だか中学校の時に、「一枚の地図」を題材に創作話を作らされたような。
地図に書かれていた×印の方角に進み、ふと開けたところをなんとなく「ここかな?」と掘り返しながら思い出す。
「地図」が題材だったのか、題材に選んだのが「地図」だったのか。
そんな、急に話を作れと言われても、と、困惑したことは微かに覚えている。
困惑した挙句、とった解決策は、当時ハマっていた冒険物のマンガを文章にするという、はっきり言ってしまえばパクリだった。
いや、漫画を小説にする、という、今流行りのスタンスを10年以上も前に実践していたのだ。
時代の先駆けであるとも言えよう。
そんなとりとめもないことを考えながら、掘り続けること4日目。
無心--でもないが--に身体を動かす、というのが、意外と自分に合ったストレス発散方法だったらしい。
穴から出やすいように、段差はつけているが、一番深いところでは、気づけば穴のフチは自分の頭の上にあった。
埋めることを考えたら、そろそろやめるべきなのかもしれない。
いやいや、あと少し、と、ヘッドライトの明かりで足元を照らす。
山の中にしてはひらけているとは言え、ただでさえ緑が深く薄暗い森の中。
しかも深い穴の中では、ヘッドライトはとても役に立った。
もしかして、あのコテージ、宝探し謎解き系の裏オプションがあったとか?
何度目になるのかわからない、意外とやわらかい土にスコップを突き刺し、土を後方にかきだす、という作業の中で。
「!!」
先端が、何かにあたった感触が、柄を伝った。
見つけた宝箱の中に追加料金の請求書が入っていたら、見なかったことにして埋めてしまおう、などと考えながら。
万が一にも宝箱を壊してしまったら大変だと、狭いながらもしゃがみ込み、手で掻き分ける土の中から現れたのは金属でも木片でも岩でもなく。
「布?」
なんで布製?
と、不思議に思った瞬間。
背中に感じた衝撃に膝をつく。
そして、息苦しさ。
ヘッドライトが役に立たない暗闇。
それもそうか。
ヘッドライトの周りは、土で埋もれている。
土は光を通さないんだなぁ、と。
自分が目を閉じているのか、開けているのかも定かではないけれど。
最期に思ったのは、
あぁ、また、新しいヘッドライト付きのヘルメットと、スコップと、長靴が用意されるんだろうなぁ。
わりと、どうでもいいことだった。
キーワード、これでいいのか?
誰か教えてください(笑)
最後までお読みいただき、
ありがとうございました。